10・笑顔
世界が終ってからどれだけの時間がたったのかなんて、ぼくらにはもう分からなかった。
────深緑の制服をきた人達が来たら、その人達の指示に絶対に従ってください。まとわりついてでも助けを請うてください────
『USです。御鼎中学校の生徒、先生方、大変僭越ながら詳しい事情は現段階では省かせていただきますが、救護に来た者です。どうかその場を離れずに、冷静になって我々をお待ちください。ただちに後援部隊が到着し、教室ごとに救護に向かいたいと思います。繰り返します。USです。どうかその場を離れずに、冷静になって我々をお待ちください。ただちに救護に向かいます。みなさまの安全は我々が保障いたしますので……』
放送は止むことなく続いた。深緑色の制服を着た人たちの中の一人が黒電話の受話器ようなものがついた無線機らしきものを肩から斜めにかけていて、その受話器でもう一人が話している。しかしどういう仕組みでか、その声は教室や廊下ごとにある放送スピーカーから流れてきているのだった。
制服の人たちにたかっていた生徒や先生も、詰めていた距離をなんとなくあけて、輪の中心にいる二人の口元を凝視しているものがほとんどっだった。
そんな、静かとも騒がしいとも形容し難い空気のなかを切り裂いていった、北澤を呼ぶ声。
「悠亜っ!お前その腕っ……!」
被服室に散る弾丸をまるで意に介さず、その男は北澤へ駈けよる。
北澤は血の滴る左手に銃をぶらさげて右手で敬礼をとる。
「っ……。申し訳ありません、北澤伍長、被弾しました」
先ほど「三田さん」と叫んだその唇で、その相手らしき人物に謝罪を紡いだ、北澤の目は切なそうだった。
「ばか、銃を置け!弾はどうした」
「貫通していたので問題ありません。それよりも予備弾が……」
ちらりと北澤が目線をやった先のリュックのまわりにはいくつもの薬莢がちらばっていた。
「それについては問題ない。俺達が持ってきた分に加え、もうすぐ後援隊が来ることも鑑みればなんとかなるだろう」
「はい」
三田さん、と呼ばれていたその人は、腰のホルスターから自分の銃…短機関銃かな…を出し、撃鉄を起こしながら北澤に向き合っていた。
「それよりも代われ。お前は良くやった。要救護者なんだから、さがって手当てしてもらってろ。銃と弾、自分の背嚢は持っていくこと。以上」
「了解しました」
こちらを向いていた彼女の顔は、ぼくからは良く見えた。
北澤悠亜が、彼に対してどれ程きれいな笑顔をむけていたのか、良く見えた。
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