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春の樹木と薬術師  作者: 白いキリン
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第五話 この世界の居場所



三話連続投稿の二話目になります。



――――――――――――――――――――



 村長さんに見送られながら、フェリと俺はフェリの家に向かう。 向かう途中、通る村の人々にフェリは声をかけられ、フェリは笑顔で手を振っていた。 人が少ないためか、皆がフェリのことを知っているようだった。



 村長の家から北の森の方へ15分程あるくと、村長ほどではないがそれなりに大きな家に丸いビンの看板が見えた。 どうやらこの立派な家がフェリの家らしい。 その入り口から綺麗な女性が出てきた。



 なかなか立派な木造の家から出てきた20代後半ぐらいの女性。 フェリと同じ金に近い茶色の髪に、垂れた耳に目元も優しげでおっとりした雰囲気だ。


(…フェリのお姉さんだろうか?)


 そう考えながら近づくと、微笑みながらこちらに手を振ってきた。




「フェリ、お帰りなさい。 少し遅かったわね?」



「ただいま、お母さん。」





「え…お母さん!?」





「あらあら、嬉しい反応ね。 これでも歳はそれなりなのよ?」



 物腰の柔らかな雰囲気で「ふふふっ」と笑う”お母さん”と呼ばれた女性。 歳はそれなりというが、どう見ても母親には見えない。 しかし、フェリより確かに肉付きが良く、余裕を持った仕草、それに香水か何かの良い香りもする。 大人の女性っていうのはこういうのを言うのだろう。



「軽く紹介するけど、今日からうちの仕事を手伝ってもらうハルキよ。 詳しいことは村長にいきさつを手紙に書いてもらったから、これを読んで。」



 俺からも「よろしくお願いします」とあいさつすると、微笑み返してくれる。 先ほど村長が書いてくれた手紙を「あらあら…」とつぶやきながら読んでいくファラさん。 時々目が光らせてこちらを見ているのはなんなのだろうか。 村長が何を書いていたのかとても気になる…。





「なるほど、そういうことなのね。 私はフェリの母親でファラっていいます。 よろしくおねがいするわ。 丁度、夫が首都に行っていて男手がいなかったのよ…男の子が来てくれて助かるわぁ。」



「お母さんは村で唯一の<<薬術>>スキルを持っている<薬師(くすし)>なの。 だからウチは一応薬屋をしているわ。 ただ、お母さんはあまり足が良くなくて、私も見回りの仕事があるから、薬の材料をとってきたりがあまり出来てなくて…」



 村長から説明があった、[特技術]というものに該当する<<薬術>>を持っているらしい。  <薬師>はきっと、薬を作る能力のことなのだろう。 ともかく、ファラさんの家庭も生活に余裕があるわけでもないだろうし、居候させてもらうならできることをするべきだろう。



「お邪魔させてもらうわけですし、俺が出来ることなら何でも手伝いますよ。 薬の材料も見たことないのでわかりませんが、教えてさえ頂ければ探してきますし。」



「あら、いいの? 男の子はやっぱりたくましいわね。 ともかく、おなかもすいたでしょう? 夕食を食べましょう。」





 フェリとファラさんの家が大きく見えたのは、薬屋としての売り場と、家としての部屋が繋がっているからだった。 店先にはフェリが俺と出会ったときにくれたポーションが置いてあった。 スペースに対して薬の種類が少ないのは、やはり薬の材料が足りず、数や種類が作れないためだろうか。



「ここは薬の売り場ね。 リビングはこっちよ。」



 売り場から奥に進むと、元居た世界でも見るような、落ち着いた雰囲気のリビングのようなスペースに出た。 奥にはキッチンやダイニング、薬の調合所のような部屋も見え、二階にも部屋がいくつかあるようだ。





「もうすぐ夕食が出来るから、それまでフェリはハルキくんの部屋に案内してあげて? 一番奥の部屋なら確かベッドとかもあるはずだから。」



 「わかったわ」と返事をし、フェリに案内されて二階の奥の部屋へ。 ドア開けてみると、ベッドや机、棚には薬の本がぎっしり入っていた。





「ここを使って。 ベッドや机は好きに使ってね。 本棚の本はお母さんが昔から集めているものだから、見るのは構わないけど、汚したりしないでね?」



「こんなにたくさん…すごいな。」



 ちらっと見ただけでも、30冊近くはある。 それこそ初級者向けのものから、上級者向けと思われる本、薬と薬を混ぜる本、材料を使って毒を作る本もある。 薬と毒は表裏一体とはよく言ったものだが、本当にその通りなんだな。 俺もこれで勉強して、少しでも役に立てるようにならないと。




「ともかく、こんないい部屋をありがとう」



「その分働いてもらうから、覚悟してね?」



「お手柔らかに頼むよ…」



 苦笑いしながらそう伝えると、お茶目そうに笑いながら「私は甘くないわよ?」と伝えられた。 よく見れば尻尾がフリフリと振れているから、俺が家に住むこと自体は嫌がられてはいない…はずだ。



「フェリ、ハルキくん、晩御飯にしましょう?」



「はーい、今行くわ!」




一階からファラさんの声が聞こえた。 部屋から出ると、何やら美味しそうないい匂いが鼻をくすぐる。 フェリの後を追いかけて下に降りてみると、ダイニングには3人分にしては多いぐらいの、料理が用意してあった。



「少し作りすぎちゃったけど、男の子ならたくさん食べるだろうし、大丈夫よね? おかわりもたくさんあるから、言ってね?」



「えぇ、もちろんです! 頂きます!」



「いただきます!」



 食卓には、トマトを使ったかの様に赤く、何かのダシが効いたスープ。 葉物や黄色い花びらの上にジェル状の何かをかけたサラダ。 何かの肉に香辛料を付けて焼いたステーキ。 あとは真っ黒いパンだ。



「美味しい…」



「そう? お口にあって良かったわぁ」



 俺とフェリが食べるのをにこにこしながら眺めるファラさん。 見守られながら食べるのは恥ずかしいが、それ以上にこの料理は美味しかった。



 スープはトマトのように酸味があるかと思ったが、ほんのりとした甘味と鶏がらに近いダシだった。 サラダはしゃきしゃきと歯ごたえも良く、花びらは少しツンと辛みがあるのだが、上にかかったジェルの塩気に丁度良くマッチしている。 肉料理は香辛料のようなものが付いているが、肉自体の油から出る味が強く、見た目に反してとても柔らかい黒パンにとても合う。

どれを食べても『美味い』という言葉しか出なかった。




「「ごちそうさまでした。」」




「お粗末様でした。」



 三人で料理を食べ切り、お腹も心も満たされた。 食事中、ファラさんは俺のことを気遣ってか、「なぜここに来たのか」や「ここに来るまでは何をしていたか」等の一番気になるであろうことは聞かず、俺自身のことだけを聞いてくれた。 フェリも話を合わせてくれたり、不安になりそうになると話題を変えたり、励ましてくれたりしてくれた。 本当に、この家に来てよかったと思える場所だった。



「これからは自分の家だと思ってくれていいからね。 私はあまり動けないけど、家の中のことで困ったことがあったら、言って頂戴ね。」



「そんな、不満だなんてないですよ。 俺こそ、お金とかもないので…お手伝いすることしかできないですけど、頑張るので色々言ってください!」



「そうね。じゃぁ明日から、色々お願いするかもしれないわ。 ともかく、今日は疲れたでしょう? もう寝ちゃうといいわ」



「ありがとうございます。 お言葉に甘えさせてもらいます。」





 今日は朝から本当にいろいろあったのもあり、食事の後は猛烈に眠くなってしまった。 フェリとファラさんに「改めて、これから宜しくお願いします」と挨拶を済ませ、部屋に戻ると、用意されていた寝間着に着替えることもなく、ベッドに落ちるように眠ってしまった。



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