第四話 玄人の眼光
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森から出て、フェリと俺は一先ず村長の家へ向かう。 その途中、村の雰囲気はほのぼのとしており、ある人は畑を耕し、ある人は作物を収穫し、ある人は物を売り、ある人は森から獲ってきたのであろう動物を売っている。
周りを見れば、俺のような人間らしい人間…というのもおかしいが、俺と同じような人達もいれば、フェリのように様々な耳や尻尾、毛が生えた人達も居るし、何やらずんぐりむっくりな丸い人もいる。
「ついたわよ。 ちょっとここで待っててね。」
村の中心部らしき場所につくと、他の家より若干大きな家についた。 見た目は山奥の別荘とか、そういうのにありそうな木造の建物で、若干古さが目立つ。 しかし、落ち着いた雰囲気の家だ。 フェリが先に中に入り説明をしてきたらしく、また戻ってきて「入って」と言われ、今度は共に中に入った。
「失礼します…」
「彼が『神栄の森』で【ウォルフ】に追われていて、巡回警備中だった私が見つけて連れ帰ってきました。」
「ふむ…お主がその…」
白に近い銀色の髪に、垂れた犬のような耳、今にも折れそうな体を、木の杖で支えていた。 そんなおそらく村長であろう人物が不審そうに俺の目を見つめる。 目も皮が垂れていてほとんど見えていなそうだった…が、突然カッ!と瞼を上げた。 目をよく見ると、その眼光は鋭く、なぜか目線を外すことができないような感覚に陥った。 その目は俺の全てを見抜かれるかと思えるほどに綺麗であり、恐ろしくもあった。
「あの…俺、家に帰りたいです! なんでこんな場所に来たのかも分からないし…どうして俺がここに居るのかも分からなくて…というかここはどこなんですか!? あんなオオカミみたいな化け物に追われて ――」
『落ち着け小僧ッ!!』
「…確かにお主の言うとおり、この状況に困惑しておることは分かる。 しかし、落ち着いて話さねば何を申しておるかも分からぬ。 良いか? 落ち着いて、一つ一つお主が分からぬことを申してみよ。 お主が満足するまで、ワシは逃げも隠れもせぬ。 落ち着くのだ。」
「し、失礼しました。 俺は――」
一度落ち着いて深呼吸をすると、先ほどよりは落ち着いてきた。 頭は混乱していることは変わりないが、村長の言うとおり、喚き散らすのは良くない。 落ち着いて、落ち着いて一つ一つ話そう。 そして俺は、自分のことを説明してから、今の状況について聞くことにした。
「俺の名前は四月一日 春樹、日本の栃木で生まれて、今年で18歳になります。 家の飼い犬が事故に遭いそうで、思わずかばったんですが、ちょっと上手くいかなくて。 その時俺はそのまま死んでしまった…みたいなんです。」
「ふむ…お主が生まれたという『ニホン』じゃが、ワシは聞いたことが無い場所。 それにお主は『死んだ』と申したが、お主は今まさにここにおる…が、その目は嘘を申してはおらぬ。 詳しくは分からぬが、お主は知らぬ間に、何者かが[魔法術]でこちらに飛ばしてきたのかもしれぬな。」
「飛ばされた……」
何を言っているかは分かる。 だが、理解が出来ない。 あまりに非現実的過ぎて、どう納得すれば良いのかが分からないのだ。 「どこかの誰かが俺をここに呼んできた」と言われたが、俺なんかを何の為に呼んできたのだろうか…。
「まぁ、悩んでも分からぬことはあるだろう。 お主が分からぬことで、ワシが分かることは教えよう。 聞いてみるが良い。」
「それじゃぁ、まずはこの場所についてなんですが――」
この老人は本当に嫌な顔一つせず、俺の思いつく限りの不明点に一つ一つ答えてくれた。
この世界について、村長が俺に教えてくれたのは、こうだった。
この国は『ニックバック』という名前で、この村は『トバ村』というらしい。 人口は50人程で住んでいるのは[獣人族]が6割、[人族]が3割、残り1割が[小人族]。 この村の四方は森で囲まれており、俺は南にある『神栄の森』で見つかった。 村から北東へ十数キロ行くと、ニックバック国の首都である『トラフ』がある。 というのがここら辺の地理だ。
あと、先ほど言っていた[魔法術]等は『スキル』と呼ばれ、
[魔法術]というのは、主に体内の魔力を使用して使うことができるスキル
物や人を移動させたり、何もない場所から炎や風、水を発生させることができる。
村長が言うに、これによって俺はこちらに転移させられたのではないか、との話だ。
[戦闘術]というのは、主に武器等の扱い方や、その武器の補助を行うことができるスキル。
攻撃が当たりやすくしたり、筋力や脚力を増強させたりすることができる。
フェリが使う<<短剣術>>もそれに値し、脚力を増強させるのがあの速さの秘密のようだ。
[特技術]というのもあり、これは攻撃手段ではなく、薬や鍛冶、裁縫等の補助を行うことができるスキル。
素材から物を作ったり、作る物の品質を上げたり、作業を短縮させたりすることができるそうだ。
「…他に気になることはないかの?」
「とりあえずは…はい。 ありがとうございます。」
本当に満足するまで答えてくれた村長は、「そうか」と言うと先ほどまでの鋭い目線から、太陽のように暖かい笑顔に変わった。
「お主のその『ニホン』とやらに帰るのは一筋縄ではいかんとは思うが、ワシらはお主を歓迎するわい。 帰り道を見つけるためにも、そしてお主を鍛えるためにも、この村に滞在してみてはいかがかの?」
「えっ!? しかし…」
「まさか身寄りの無い者を魔物が済む森へ放り投げるにもいかんしのぉ? 餌が増えて森のウォルフが増えるのも困るわい。」
ケタケタ笑いながら冗談めかして言う村長。 意外にユーモアのある人なのかもしれない。 先ほどの鋭い眼光からは考えられない様子だ。
「しかしの、この村は小さいゆえに家の数も少ないゆえ、一先ずはどこかに泊まってもらうわけだが…フェリ、お主の家はたしか男手が居なかったはずだが、どうかの?」
「う、うちですかっ!? 確かに今、お父さんは居ないけど…」
「それに、お主しかこやつを知らぬ。 人知れぬ家に置くよりも、面識があるお主の家の方がこやつも過ごしやすかろう。 それに、これも何かの縁。 何かあればすぐに言ってもらって構わんし…の?」
「うぅ…そういうことなら…」
渋々…といった形で承諾するフェリ。
(この女の子の家に泊まるのか…こちらとしても少し気恥しいが、そこは助けてもらっている身だ。 節操を守って清くいこう。)
「では、宜しく頼むぞ、フェリ。 ちょっと待っておれ、ファラにも手紙を書いて説明しておこう。」
父親は今訳あっていないとのことだったし、ファラとはフェリの母親のことだろうか… さすがに二人で暮らすことにはならなそうで、内心はとても安心した。
「ほれ、これをファラに渡すのじゃ。 それと、ハルキよ。 何か困ったことがあれば、ワシの元へ来るとよいからの。」
「わかりました。 色々ありがとうございます。 フェリ、迷惑をかけるけど…よろしく頼むよ。」
「男手なんだから、ちゃんと働いてもらうんだからね? あと、変なことしたらタダじゃ済まさないから。」
「も、もちろんだよ…」
もちろん分かってるから腰のダガーに手をかけるのはやめて欲しい…。
「フェリも、何かあればすぐに申すようにな。 ファラにも宜しく伝えよ。 達者でな。」
こうして俺は、フェリの家へとお邪魔することになった。 …歓迎されてるようには思えないが。
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