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/カタストロフィ オブザーバー/  作者: 麻野大福
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第1章 第4編 【初陣(後編)】

第1章 第4編 初陣(後編)


【2016年 9月14日 19時20分 江戸 幕府公営住宅】


「それで? けんやお兄ちゃんとは何か進展あったの?」

肩までかかる、長い金髪に、蒼い瞳。白い肌。


最近13歳になったばかりの私の妹、リズ・オズワルドが、いたずらっぽい笑みを浮かべながら、私に尋ねてくる。


「…別にー。ケンヤ、リンのお世話ばっかりしてるんだもん。

いーなー、幼なじみ。私もケンヤと幼なじみだったらあんなに構ってもらえたのかなー」

足をばたばたさせて言う。


…自分が、彼の事を好きになったのはいつだっただろうか。


士官学校に入学したとき?

異人というだけでクラスで孤立していたときに話しかけてくれたとき?

一緒にペアを組んで、刀の練習をしたとき?

両親が戦死して、家事のやり方すら分からず、妹と泣いていた時に、家事を教えに来てくれたとき?


…わからない。気がついたら、彼の事を好きになっていた。


でも、この気持ちだけは、誰にも負けないと思う。リンもケンヤの事が好きなようだけど、他の何で負けても、この気持ちだけは、負けない。負けたくない。


「カレンお姉ちゃん、スタイルいいのにねー。

Then,Don't you tempt him with your body or something?(それで、お姉ちゃんのカラダか何かで誘惑しないの?)」

「No way‼︎(ダメよ‼︎)」


思わず英語で返してしまう。

妹の、ちょっと下品なことを英語でいう癖は本当になんとかしなくては。


「あのねぇ、リズ。どこでそんな知識覚えてくるの…?

それに、別に私はそーいうことがしたいんじゃないの。彼自身から、私の事を好きになって欲しいの。

…彼が求めてくるなら、まぁ、考えないでも、ないけど…」

言っていて恥ずかしくなってくる。

何を言っているんだ私は。


「はぁ、お姉ちゃんうぶだねぇ…

でさ、お姉ちゃん、けんやお兄ちゃんともっと関わり持たないと、鈴ちゃんに負けるよ?」

「そ、そうなのかな…」


そ、それは嫌だ。どうすれば…


「はい、そんなお姉ちゃんに、これあげる」

リズの手に握られているのは、2枚のチケット。

「こ、これ、下総にある外資系遊園地の…」

「まったく、お姉ちゃんは手がかかるなぁ。

…ちょっと早いお誕生日プレゼントとして、受けとっといて。

けんやお兄ちゃんと2人っきりで行ってくればいいじゃん」

「り、リズ…」

「…その代わり、絶対にけんやお兄ちゃんをゲットしてくること。

あと、私の誕生日には、高級なプレゼントをよろしくね‼︎」

「あんたねぇ…」


妹と2人で笑いあう。幸せな時間は、あっという間に過ぎていく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【2016年 9月15日 16時37分 日尾峠】


「なぁ、冗談だよな、カレン?

なぁ、返事してくれよ…」


刀を構えたまま、カレンに話しかける。

彼女の背中から生えた巨大な砲塔は、こちらに向けられたままだ。


「お前、下総の遊園地に行こうって、誘ってくれたよな?

なぁ、変な冗談はやめて、早く江戸に帰ろうぜ…‼︎

鈴も生きてる。拓真も…腕はなくしちまったけど、生きてる。後は、お前だけなんだよ…‼︎

なぁ、カレン。お願いだから…こっちに…」


そんな俺の言葉に、カレンの燃え上がるような紅い瞳が煌めき、


肉の砲塔から、何かが射出された。


「一五式衝撃弾改二、起動…‼︎」

鈴の声がする。いつの間に設置されていたのか、俺とカレンの間には一五式衝撃弾が何個も設置されており、凄まじい磁場を形成する。


砲弾はその磁場に押し負け、軌道を少し曲げて、俺の横に着弾した。


次々と連射される砲弾。鈴が耐えかねるように叫ぶ。


「謙也、もういいでしょ⁉︎

あの子はもう、人間じゃないの‼︎

私達の言葉ももう届いてない、ただの「獣」なの‼︎

あの子は人類の敵。カレンの形をした、何かなの‼︎

いいからそこから離れて、謙也が殺されちゃう‼︎」


その言葉に。怒りが、爆発した。


「お前…‼︎よくそんなことが言えるな⁉︎

俺たち4人は、いつも修練に励んで、辛いことも一緒に乗り越えた仲間だろ⁉︎

たとえカレンがどんな姿に成り果てたって、カレンはカレンだ‼︎

呼びかければ、きっとあいつは帰ってくる‼︎

治療すれば、きっと昔みたいに戻る‼︎

だから…‼︎」


「もういい」

鈴が冷たい声を出す。

「謙也には何を言っても無駄なんだよね。

もう、わかってる。

どいてよ、一五式の残量にも限りはあるし、早くあの「獣」を斬らなきゃいけない」

「…鈴、お前には、人の心ってものがないのかよ…」

呻く俺に対し、鈴は冷酷にいう。

「人の心、ってやつを戦場に持ち込むなんて、言語道断だよ。

私には、私達には、守らなきゃいけないものがある。その邪魔になる奴は、たとえそれが誰であっても、何であっても、斬らなきゃいけない時がある。


ねぇ、謙也。いいから、そこをどいて。

私と約束したよね?どんな時も、あなたは私を守る。私も、あなたを絶対に守る。

だから…‼︎」

鈴の言葉を遮る。


「お前が守らなきゃいけないものが俺だとしたら、俺が守りたいのは、拓真や、カレン、そしてお前だ。

だから、ここから先は、行かせない」


カレンと鈴の間を塞ぐように、俺は仁王立ちになる。


「謙也…いい加減に…‼︎」

何かを言いかけた鈴が、急に青ざめ、俺を急に突き飛ばす。


「ガッ…‼︎」

凄まじい衝撃。

砲弾の着弾音。

凄まじい音で、耳が聞こえなくなった。


(一五式の効果が切れたのか…⁉︎)


立ち上がることができない。平衡感覚が狂っている。


「グッ…‼︎」


それでもなんとか立ち上がり、あたりを見渡す。


そして、気づいた。


先ほどまで、鈴と俺がいた場所が、大きく抉られている。


圧倒的な破壊力。それを平然とぶつけられたことに、慄然を感じる。


そして、


「…鈴…?」

鈴が、いない。


まさか、俺を、庇った、せいで。


あいつが、鈴が、消えた…?



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「…はは…ははは…」

自分は何をしていたんだろう。

無慈悲に砲弾を打ち続ける「獣」を、バカみたいな理由で庇おうとして、結局、大事な女の子を失った。


「本当にバカだな、俺って…」

覚悟が足りていなかった。配慮が足りていなかった。考えが足りなかった。全てにおいて、甘かった。


全て、鈴が正しかった。

約束すら、守れなかった。


だから。


せめて、目の前の、仲間を吹き飛ばした「獣」を、斬らなくてはならない。


F-4を起動。加速を開始。

「なぁ、カレン」

鈴から渡された一五式衝撃弾を展開する。

強力な磁場がまた発生し、「獣」の連射する砲撃が曲げられていく。

「俺って本当にバカだよな。

お前が戻ってくるって信じて、駄々こねて、結局、一番大事な女の子を失っちまった。

…そう思うだろ?」


雷刀を展開。コンデンサーを起動させ、一五式の磁場ベクトルを打ち消しながら、「獣」の元へ向かう。


「なぁ。

お前は俺の事、好きだったんだよな?

こんなバカなやつを、好きになってくれて、ありがとうな…?」


「獣」は答えない。燃え上がるような瞳で、こちらに砲撃を繰り返す。


だが、その攻撃は、磁場に曲げられ、俺に届くことはない。


右手で、あえて氷刀を選択し、密かに起動。まだ、十分残量はある。


「でもさ、悪いけど、お前の気持ち、答えてやれそうにねぇんだ…

やっぱり、俺は、鈴の事が、一番だったみたいなんだ」


もう目の前に「獣」がいる。

至近距離では砲弾を撃てないのか、腰の炎刀を抜き、俺を待っている。


「…最後の剣の練習だ。

勝利条件は、相手を殺す。

さぁ、始めようぜ、カレン」


F-4を加速。残燃料は少ないながら、相変わらずの燃費で一気に加速し、「獣」に接近し、氷刀で振り抜く。


「獣」もとっさに応戦してくる。

高速で縦、横方向にほぼ同時に刀を振り抜いてくる。

カレンの得意な「十字切り」。単方向のみの刀の斬撃は、この剣捌きの前には通用しない。


そして十字切りからのカウンターを案の定繰り出してくる。

本当に、いつものカレンの戦法。


難なく受け止めて、思わず笑いが溢れる。


「ははっ、いいぞ、カレン。

じゃあ、次のレッスンだ。

十字切りに対して有効な、コレに対してはどうするんだったかね」


F-4のエンジンを逆噴射させ、「獣」との距離をとる。


腕を引き、引いた状態で加速。そのまま高速で突撃し、引いた腕を一気に突き出す、連続刺突攻撃。


「三段突き」。点となった剣先に対して、十字切りでは有効な防御は取れない。


「獣」もF-4を逆噴射させ、俺に対する相対速度を減速させながら、下から上に平面上に斬り上げる。三段突きは難なく防御された。


「はは、いいぞ。

…だけどな、カレン。斬り上げることは、かなりリスクが高いんだ。

ほら、お腹が空いちゃってるだろ?

かなりリスキーなんだ、その戦法。

練習の時点では、それ以上の攻撃はないかもしれないが、これはあくまで「実戦」だ。ここから一気に加速すると…」


ああ、こいつとの練習は、もうすぐ終わってしまう。


一気にF-4を加速。


そのまま一気に「獣」の懐に入る。


「ごめんな、カレン」

内側から、「獣」の持つ炎刀を打ち払う。

あっけなく炎刀は飛んでいき、「獣」は、驚くような表情でこっちを見ている。


無防備な体。あと一突きで、全てが終わる。


涙を押し殺して、優しく告げる。


「遊園地の約束、守れなかった」

そう告げて、「獣」の胸に、氷刀を突き入れた。


柔らかい肉を貫く感触。溢れ出る涙で何も見えない。


「せめて、楽に…‼︎」


氷刀最大解放。残った氷刀のエネルギーを全て放出する。


胸の傷跡からゆっくりと凍っていく「獣」。

自分の死を理解できないのか、凍っていく自分を無表情に見つめている。


「ごめんな…ごめんな…‼︎ごめんな…‼︎‼︎」

凍りゆく「獣」に対して何度も謝る。謝ることしかできない。


どうして、こんなことになってしまったんだろう。


どうして自分は、大事だったはずの仲間に、今刀を突き立てているんだろう。


後悔と絶望で、もう、何もわからない。


「ケンヤ」

何かが、聞こえる。


顔をあげる。

美しい金髪。澄んだ蒼い目。穏やかな顔をした「獣」は、凍りゆく自らの手を無理やり伸ばして、俺の頭を撫でた。

「泣かないで」


涙が止まらない。歪む視界。カレンの最期を目に焼き付けておきたいのに、それすら叶わないのか。


ふと、唇に柔らかい感触を感じる。

「獣」は、最後の力を振り絞って、俺にキスをしていた。


凍りつく寸前の「獣」は、

本当に幸せそうな顔をして、

俺に静かにささやいた。


ずっと、すきでした。



顔をあげる。優しく微笑む、大事な「友達」だった、「獣」は、一つの氷の彫像となっていた。


彫像は、穏やかに笑っている。


美しい。あまりにも、美しい。


その氷の彫像を抱きしめて、俺は泣き崩れた。


全部、なくした。


幼馴染も、自分の事を好きと言ってくれた女の子も、絆も、夢も、約束すら。


大事なものを、両方とも、守ろうとしただけだったのに。


「ごめんなさい…ごめんなさい…」

ひたすら、呟く。


俺の罪は償えきれないかもしれないけれど。


でも、俺にはまだ、やることがある。


後ろを振り向く。腕をなくした親友が木にもたれかかり苦しげに寝ている。


「…拓真を、江戸に連れ帰らないと、な…」


それが、自分の最後の使命。


敗残者でも、やらなければいけないことはある。


拓真の巨体を肩車して、俺は日尾峠を後にした。


氷の彫像は、静かに俺たちを見送っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【2016年 9月15日 19時30分 阿蘇 幕府本陣】


拓真を緊急医療所に連れ込み、真田本隊長や美里さんからの叱責と慰めの言葉を貰い、老中達に事の顚末を話し終えた俺は、燃え尽きて座っていた。


「…けじめを、つけなくちゃな」


俺は、罪を重ね過ぎた。自分の業は、自分でカタをつけなくてはならない。


超軽量鎧を脱ぎ、腰から小刀を取り出す。


500年以上前から続いてきた、武士の責任の取り方、「切腹」。


他人に介錯を頼む気はない。


自分のような人間は、腹を切った痛みで苦しみながら死ななくてはならない、と思う。


腹を出し、小刀を腹に当てる。冷たい刃物の感触が伝わる。


「…拓真、ごめんな。

いつものメンバーは、結局お前1人しか残らなかった。

1人にさせるけど、達者でな。


…鈴。カレン。ごめんな。

俺が、バカだったせいで、お前らを、傷つけて、死なせまった。

…今からそっち行くからさ、仲良くしてくれよな」


覚悟を決める。一気に突き抜こうとして








「はぁ、謙也は本当にバカなんだね、

私を守るって約束、まだ継続中だよ?」


誰かの声がした。振り返る。


泥にまみれ、大量の「獣」の血がついた、小柄な、日ノ本1の天才剣士の、幼馴染。


「り…りん…?」

「あーもう、あれぐらいの爆発で死ぬんだったらここまで来てないっての。

ぶつかる寸前で、F-4のエンジンをオーバーブーストさせて、回避したの。

…もっとも、その反動で両足のエンジンが壊れちゃって、おまけに気絶して土の中に埋もれたりしてたから、帰るのすごい時間が… ってわわっ!?」


鈴を引き寄せて、強く抱きしめる。

「ちょ、ちょ、謙也、いたいいたいいたい‼︎」

顔を真っ赤にしてばたばたもがく鈴。

鈴は、生きていた。嬉しさでどうにかなってしまいそうだ。

「鈴…‼︎鈴…‼︎」

「あーもう、わかったから、いったん離して‼︎」


なんとかもがいて鈴は俺の腕から脱出、息をつく。


「あー、肩いたいー。

華奢で疲れきってる女の子になにしてくれてんのさ…」

「鈴、ごめん」


鈴に謝る。深く、頭をさげる。


「お前の言う通りだった。

一番大事な物を守るためには、心と、体を切り離さなきゃいけなかったんだ。

欲しいものを全て得られるほど、この世界は、甘くなかった。

だから、ごめん。バカなことしたこと、許してくれ」


鈴は、静かな表情でこちらを見ている。

そして、口を開いた。


「…別に、謙也のしたことは、人としては間違ってはないと思う。本当に、普通の人間の行動。

でも、私たちは武士。人理を守護し、「獣」を打ち破る、人類の刃。

その自覚が、この一件でできたっていうなら、それは、とても凄いことだと思う。


私も、「人」から抜け出すのには苦労したから…」

寂しそうな顔で言う鈴。


「…カレン、どうだった?」

「…ああ、安らかな顔で逝ったよ…

本当に、最後は笑って、凍っていった。

…俺は、友達を殺した罪を背負っていかなきゃならない。 だから…」

「私も背負うよ」

鈴が宣言する。

「私たちがもう少しはやくついていれば、カレンは「獣」にならなかった。

私にも、責任はあるよ。

…それに、そんな悲しい業を、謙也1人に背負わせるわけいかないじゃない…‼︎」

涙声になる鈴。


「だから、今は、2人で、泣こ…?

カレンがどういう死に方をしたのか、知ってるのは私たちだけ。私たちが背負って、私たちの記憶にとどめておくためにも…」


それから、しばらく、俺たち2人は涙を流した。


故人を忘れないように。罪を、背負うために。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【幕府陸軍 阿蘇地域での交戦の報告書】


死者 行方不明者 3423名

重軽傷者 9487名


新種の「獣」を「砲撃級 砲撃種」と認定。


勇敢な武士の活躍により、必 要 最 小 限 度の犠牲により撃破。詳細は機密につき削除。


その他、阿蘇周辺の「獣」を壊滅させ、領地回復に成功した。


有効な戦法の発見が見込まれたため、研究資金の増額を決定。


功績者、および死者は階級の引き上げ。

特に功績著しい、東郷 鈴少尉及び棗 謙也少尉に関しては、2階級特進のうえ、上位武士認定を無条件で付与。


一方、敵前逃亡をした武士は、必要に応じ処分。


新種の「獣」とみられる死体については、機密保持のため削除。


以上、全体評価としては、悪くはない評価がつくといえよう。


特に、米国及び国連に対し我々が得たアドバンテージは計り知れないものがある。


この結果を最大限利用することを期待されたい。


幕府陸軍 大将 東郷 満




















































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