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/カタストロフィ オブザーバー/  作者: 麻野大福
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第1章 第3編 【初陣(中編)】

第1章 第3編 初陣(中編)


【2016年 9月15日 14時40分 日尾峠】


F-4をフルバーストさせて、F-4の通信モニターに表示されている、分隊の信号が最後に確認された地点に向かった俺は、言葉を失った。


一面に広がる、赤。

戦いの前は一面の緑だったであろう日尾峠の草原は、大量の血を吸い込んで赤い絨毯のようになっている。


地面に立てられた五七桐の旗が真っ赤に染まり、砲撃足軽隊の一部とみられる手足があちこちに散乱している。


明らかに「獣」による捕食の結果だろう。



「なんて…ウグッ、オェッ、ゲェェッ…」

すさまじい匂いと凄惨な光景が、俺の吐き気を催す。


「この世の…地獄だな…」


だが、とどまってばかりもいられない。

ひとしきり吐いた後で、俺は調査を開始することにした。


…地面のところどころが、大きく抉られている。


「これが、新種の「獣」による攻撃か…?」


この大きさの砲撃だとしたら、人間に直撃すればひとたまりもない。


(B-2を撃墜するほどと聞いてたから覚悟してたが、まさかここまでとは…)


ふと硬いものを足元に感じ、土をのけてみる。

そこにあったのは真田家の家紋、六文銭が刻まれた、砲撃足軽隊の盾…の残骸だった。


(リアクティブアーマーごと吹き飛んでる…?なんて火力だ…)


砲撃足軽隊は、通常、爆発反応装甲…リアクティブアーマーを装着させた盾で防御しながら上級武士の背後からの砲撃支援を行うが、新種の「獣」による砲撃ではダメージを相殺しきれなかったようだ。


(…ん?)


何かが向こうの方で動いた気がした。


多機能ゴーグルを装着し、サーモグラフィーを起動させる。


一面陰色に染まる視界。その中に、わずかに人型をしたオレンジ色の光が見えた。


「生存者か⁉︎」

F-4で加速し一気に近づく。


そこには、砲兵足軽隊のメンバーとみられる少女が倒れていた。


少女は見るに堪えない姿だった。

右足の膝から先は無く、腹には鋭利なもので突き刺されたと見える穴ができており、血が大量に溢れ出ている。


もう、助からない。


「……もしかして、上級武士の、方ですか…?」

弱々しい声。この傷でまだ意識があるのか。


こんな幼い子供が苦しんでいるのに、俺は何もできない。自分の不甲斐なさに俺は思わず唇を噛み締める。


だが、伝えなければいけないことがある。

心を鬼にして、彼女に告げる。

「いや、俺は上級武士じゃない。士官学校の生徒だ。

…いいか、よく聞け。お前はもう、助からない。だから、まだ生きられる者を救うために、情報をくれ。

…なぁ、一体、何があった?」

「…そうですか。やっぱり、わたし、死ぬんですね…」


寂しそうな声で笑う少女。その顔を直視できない。今更、自分が彼女に発した冷酷な言葉を後悔する。


「…大砲を撃つ、「獣」が、来たんです。

凄く強くて、驚いた上級武士の人たちは直ぐに逃げて、私たち砲撃足軽と士官学校の生徒さんたちは、置いていかれました…


リアクティブアーマーもきかなくて、生徒さんたちの刀ももうボロボロで。

それでも、外人さんの生徒さんと大きな生徒さんは、大砲を撃つ「獣」を引きつけながら、私たちを逃がすために離れていきました…


でも、武士がいないと私たち足軽はなにもできなくて…ぐっ‼︎」


体力を使い果たしたのか、少女の言葉が途切れる。少女の口から鮮血がほとばしる。

「お、おい‼︎」

「…お願いします。あの、生徒さん達を、助けて、あげて…

…新様、申し訳、ございません。私…私は…」


そう言って、名も知れぬ足軽の少女は、この世から永久に去った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ちょうど少女の遺体を丁寧に土葬し終えた所に、鈴が追いついた。


今にも泣き出しそうな顔をしている。


「…謙也‼︎」

「…鈴か。真田さんのとこいなくていいのか」

「それはこっちのセリフだよ‼︎

ねぇ謙也、さっき私と約束したこと、覚えてないの⁉︎

何があっても、私についてきてって、言ったじゃん‼︎

どうして…どうしていっつもそうなの⁉︎

どうしていっつも、私を置いていくの⁉︎

もしかしたら、謙也は私が来る前に死んじゃってたかもしれないんだよ⁉︎

謙也がいなくなったら、私、また…」


泣きながら抱きついてくる鈴。

両腕で受け止める。とても、軽い。


「…ごめん、でも、いてもたってもいられなくてな…

あ、でも、ここでの戦闘について、少し情報を得たんだ、だから…」

「…知ってるよ。カレン達が、砲撃き…

新種の「獣」を引きつけて逃げたんでしょ」

「…お前、なんでそれを」

「…別に。他の足軽の生き残りに聞いただけ。

…ほら、私、カレン達が向かった場所も知ってるから、はやく行こ?

でないと、あの子、間に合わなくな…」

「ホントか⁉︎」


信じられない。本当に優秀だ、うちの鈴は‼︎


思わず鈴の頭をわしゃわしゃかき回す。涙でぐちゃぐちゃになりながら、嫌そうな、でもどこか嬉しそうな顔をする鈴。



「よし、なら行こう‼︎案内してくれ、鈴‼︎」

「あ、その前に、まって謙也、謙也もコレもっといて」


鈴がポケットから何かを取り出す。

特徴的な信管を持ち、陸軍工廠のマークが彫り込んである。


「それ、一五式衝撃弾か…?」


一五式衝撃弾。幕府陸軍技術工廠が開発した、長時間にわたり超高電流を放出する、電流パルス系手榴弾の最新型。


超高電流により、一時的ではあるが、電気を通さない「獣」以外の「獣」の足止めに使われる、後方からの砲撃支援がない作戦時の武士の必需品。


だが、最新式の一五式は、あまりに強い電流を放出するため、それに応じて発生する磁場も強く、武士の刀の軌道を変位させてしまうという評価が付き、前線の武士の間では評判が悪いと聞く。



「そ、それの改二バージョン。一五式衝撃弾改二って言う名前。

電磁パルス放出能力を強化した、陸軍工廠の試作品なんだけど、おじいちゃんの名前を使って借りてきちゃった」


てへ、と舌を出す鈴。


「…ちょっと待て、一五式より電磁パルスが強いって事は、発生磁場も強いってことだよな⁉︎

なんでそんなん借りてきたんだ⁉︎」

「ああ、これを使う目的は、足止めっていうのももちろんあるけど、目玉はやっぱり強力な磁場発生能力なんだよね」

さらりという鈴。


「…どういうことだ?」

「F=qvB。自由電子を持つ物体が磁場中に入ると、突入速度、所持電荷、そして磁束密度に依存しながら力Fがかかる。物科の時間にやったでしょ?

特定方向に対して集中的に強力な電気を放電する一五式は、磁場ベクトルも安定しやすい。

突入する物体は、磁場ベクトルとは垂直なベクトル方向に力を受けるから、磁場ベクトルを固定して炸裂させれば、ある程度物体の軌道修正ができるし、軌道方向も判定しやすい。

地磁気なんか比べ物にならない磁気を急激にかけることで、ある程度、新種の「獣」の砲弾も曲げられるんじゃないかな、って考えてたの」

「でも、俺たちの刀や、F-4だって金属製だぞ?俺たち自身も磁場に引き寄せられて、結局は「獣」の砲弾の軌道ルートに入るんじゃないか?」

「そこで、私たちの九八式雷刀を使うのよ」

鈴が得意げに雷刀を抜く。

その白銀の刀身の中には、莫大な電荷が帯電している。なるほど。理解した。


「まぁ一五式衝撃弾よりは微弱かもしれないけど、放電方向を調整して放電すれば、ベクトル合成で一五式の影響を抑えながら、「獣」に対し近づくことも十分可能だと思う。

どう?すごいでしょ、わたし」


どやぁ、と鈴が胸を張る。


俺は素直に賞賛の言葉を贈る。

「ああ、よく思いついたな鈴、確かに、これなら砲弾を気にせず戦えるかもしれない…‼︎」

「よし、理解した?じゃあ行こう、そろそろ時間もキツイし」


そう言って、鈴はF-4を急加速した。

「ほら、ついてきて謙也‼︎」

「お、おま、ちょっと早い…‼︎」


カレン達を援護しなければならない。

決意を新たにして、俺は鈴の後を追った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【2016年 9月15日 15時24分 日尾峠?(詳細座標不明)】


「…ここらへん…のはずなんだけど…」

鈴がぽつりと呟く。

「GPS機能が今使えないからな、オフラインの地図だけではキツイのかもな」


「獣」との戦争開始直後は、大量の核ミサイルが使用され、それによる影響か、大気中には高密度のいわゆる「核の雲」が残留。現在もその影響が出ることがあり、「核の雲」に覆われた地域では、GPSなどの衛星を利用した座標確認が不可能となる。その時期がたまたま今回重なってしまった。全く運が悪い。


「…なぁ、やっぱりここじゃないんじゃないか?別の所も探そうぜ…」

「いや、ここなのは間違いないはずなの。

…一体、何が…?」


考え込む鈴。こだわる理由がわからん。


「…ったく、しょうがねぇな。

俺はあっち探すから、お前は、そっち、を…」

視線の先に、ナニカガイル。


血痕がテンテンとツナがっテいて、そのサキに、誰カがタオレている。


大きナ体。あるハずのミギ手が無惨にチギレテいル、そのおトコの名マエは


「あ…ああ…」

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダウソダウソダウソダウソダウソダウソダ。


脳が現実を受け入れてくレない。


「あ、ああ…‼︎ああああああああああああああああああああああああああ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」

絶叫シ、F-4を一気にカソク。

そのオトコの元へ。ハヤク。


「…まさか、このパターンは…‼︎

行っちゃダメ‼︎謙也‼︎‼︎」


リンの声がキコエル。


知ったコトか。あいつヲ、アイツの、無事を…‼︎


後数メートル。そのオトコに手を伸ばそうとシテ


F-4の警告音が鳴り響く。

「ッ⁉︎」


右から飛び込んでくる1匹の「獣」。人型種、つまりアリールだ。


元々は足軽だったのであろうそのアリールは、生前時の自らの刀を振りかざして襲いかかってくる。


(待ち伏せ⁉︎)


迂闊、だった。

ケガをした人間をあえて放置し、救助に来た人間を狩る。小型種の「獣」の常套手段。 下手な武士でも誰でも知っていることだ。


アリールの刀が迫る。もう、避けられない…‼︎


思わず目をつぶる。


「…けんや‼︎‼︎‼︎」

一気に加速してきた鈴が、俺とアリールのギリギリの隙間に氷刀を突き入れる。


アリールの刀をギリギリで受け止め、そのまま振り抜く。


一気に氷刀により表面が凝結したアリールは、そのまま両断された。


まさに神速。天賦の才をフル活用した鈴は、鞘に氷刀を戻し液体窒素を再チャージする。


「す、すまん、鈴…‼︎」

「…あとでたっぷり叱ってあげるから、今は刀抜いて。まだまだいるよ、あいつら」

みると、向こうから大量のアリールが走ってくる。


「砲撃足軽隊の成れの果てか…⁉︎」

「たぶんね。あ、謙也、氷刀を使用して。雷刀と炎刀は砲撃種撃退に残しといて」

「OKだ。氷刀はまだたくさんエネルギーが残ってる」

「よし、じゃあ、突入するよ‼︎」


そう言って鈴は懐から九八式衝撃弾を取り出し、アリールの群れに向けて投擲した。


アリールの軍団の中に落下した九八式衝撃弾は、凄まじい電磁パルスを発生させ、アリールの軍団を分断し、足止めしていく。


あらかたが九八式により動けなくなったところで、一気にF-4を加速。


攻撃を避けながら、手を振り回して喚くアリールに対し氷刀を叩きつける。


瞬時に凝結、切断。



F-4の警告音。立ち直った別のアリールが刀を振りかざし斬りつけてくる。


「…よっと‼︎」

刀を抜いている状態なら問題ない。

氷刀で受け止め、左足を軸にして右足に蹴りを入れる。それと同時に右足のジェットエンジンをブーストさせる。


すさまじい音を立てながら、向こうに吹き飛んでいくアリール。その隙に別のアリールを斬る。


「…鈴はどうだ?」

見るまでもなかった。

アリールの攻撃を受け止めることすらせず、ただ回避しながら氷刀を次々ぶつけていく鈴。

まさに1秒一匹のペースで両断していく。


「…すげーな、俺も頑張らなくちゃな…」

まだまだ敵は来る。アリール以外の「獣」も確認できる。気を引き締めて、俺は刀を握りなおし、再突撃した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

あらかた殺し終わり、俺たちは拓真の元へ向かった。


「た、拓真…」

脈を測る。幸いにも息はある。


「…右手が両断されてる。傷口を炎刀で焼いてあるから出血はないけど、拓真さんの右手は、もう、戻らない…」

ぽつりと鈴が呟く。


「は、はは…そんな、嘘だろ?

初陣で、手を失って、ボロボロになる新兵なんて聞いたことねぇよ…」

「…それが戦争なんだよ、謙也。

どんなことがあっても、心と体を切り離して行動しなきゃいけない。

だから、悲しむのは、後にしよう?

とりあえず、拓真さんを連れて帰らないと…」

「ああ、わかってるよ、わかってるさ…‼︎」


苦しい、悔しい、「獣」が憎い。


「…まって、何かがくる」

鈴が何かを察知したらしく、多機能ゴーグルで、拓真を寝かせてある木の後ろをそっと見る。


「…そんな、嘘でしょ…」

呆然として呟く鈴。


俺も多機能ゴーグルを鈴の見る方向に向ける。


カメラ機能を拡大。


誰かが、ゆっくり近づいてくる。


腰と脚につけられたF-4。夕陽に光る美しい金髪。スタイルのよい体型。


「カレン?カレンじゃないか‼︎」

思わずF-4を起動させようとする、所を鈴に制止される。


「な、何すんだよ鈴、カレンだって、大丈夫だよ‼︎

ケガしてるかもしれないし、早く診てやらないと…‼︎」

「謙也、良く聞いて」

ガッと俺の頭をつかみ、自分の顔の方に持っていく鈴。


「な、なんだよ」

「良く見て、アレは、もう、カレンじゃない。

私達は遅すぎた。

本当にカレン達は強かったんだと思う。

砲撃種を追い詰めて、あと一歩だったんだと思う。

でも、最後の一押しが足りなかった。

砲撃種は、おそらくだけど、死ぬ寸前に、自分の核を、カレンの体内に突き入れた。後はわかるでしょ?


あの子は。もう。人間じゃない。


新種の「獣」、砲撃種になってしまったの。」


「…はは、鈴、お前、頭おかしくなっちまったのか?どう考えてもあれは、カレ、ン…」


言葉が止まる。


美しいカレンの身体の背中から、何かが飛び出してくる。


肉と皮が引きちぎれるグロテスクな音。

「やめろ…」

その何かは左右対称に広がり、何かを形成していく。

「やめてくれ…」

大きな大砲のような、赤黒い肉の砲身。

中央が陥没し、照準がこちらを向いている。


当のカレンより数倍も巨大な肉の砲を向けるカレンは、それでも、尚美しかった。


カレンが何かをつぶやいている。


多機能ゴーグルの集音マイクが聞きたくもない音を拾う。


ドウシテ。ドウシテ。ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ。


恨みがましい目を向ける、カレン、だったナニカ。


「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎」


絶叫して飛び出す。

これは夢だ。

悪夢からは、早く醒めないと…‼︎












































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