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/カタストロフィ オブザーバー/  作者: 麻野大福
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第1章 第1編 【武士の鍛錬】

第1章 第1編 武士の鍛錬


【2016年 9月14日 06時24分 江戸郊外 幕府軍陸軍管轄剣術演習場】


第7危険指定エリアでのアメリカ連邦共和国軍所属B-2爆撃機隊の失踪から、早1ヶ月が経とうとしていた。


一時は、遂に対空掃討能力を持つ「獣」が出現したかもしれないということで、国連軍及びアメリカ連邦共和国軍は速やかに捜索・討伐隊を第7危険指定エリアに派遣したものの、B-2の残骸以外何も発見されず、フライトレコーダーも使い物になっていなかったため、結局、なんらかの気象異常によるものだと結論付けられた。


もちろん、第7危険指定エリアなぞ日ノ本の武士にとっては遠い場所の話であるし、心配したところで何も変わらない。


(今日もひたすら鍛錬、と…)


今、俺と鈴、カレン、そして拓真は、日曜日の今日、この幕府軍の剣術場で剣の朝練をしている。


日ノ本1の広さを誇るこの修練場は、広大な森に囲まれた天然の要害であり、非常時には最高で12万人を収容できる避難所としても利用できる。


段差や池、沼などの地形設定はもちろんのこと、市街地戦を想定した訓練ができるように、小規模なビル群も用意されている。


その中の平地エリアを今日の練習場所とし、俺たちは男チームと女チームに分かれ、離れた場所で対峙する。


カレンが七八式練習氷刀を起動させ、臨戦態勢に入る。

「よし、行くよケンヤ、タクマ‼︎私とリンですぐに息の根止めてあげるから‼︎」

「いや止めちゃダメでしょ…」


カレン・オズワルドは、「獣」の侵攻により今は無き旧スウェーデン系の難民2世である。ふわりとした金髪と、青い澄んだ瞳。明らかに日ノ本の民の血はひいていない体つき。


経済大国であり、かつ慢性的な人材不足に悩む日ノ本は、こうした難民を積極的に受け入れ、同化政策を実行している。


その成果なのか何なのか、全く日本人には見えないカレンは、現代文の試験はいつも俺より点数が高い。くそう。


カレンの宣言に対し、拓真も負けじと七八式練習雷刀を抜き、女子組に向かって叫ぶ。


「よぉし謙也、ワシらの剣であのおなごどもを涙目にさせて屈服させてやろうではないか‼︎」

「だが断る」

「お、おい、ワシらの友情は…」

今涙目になっているこの巨漢の男は、逢坂拓真。一般的な刀が脇差に見えるほど…でもないが、とにかく体がデカい。


「いーからはじめようよ、拓真さんはともかく、謙也なんてソッコーで瞬殺してあげるから」

鈴が七八式練習炎刀を抜きながら宣言する。


「言ったな鈴、返り討ちにしてやるよ」

俺も炎刀を抜き、超軽量鎧の腕部分のパネルに指示を出す。


『外骨格型機動拡張装置、F-4ファントム 起動シマシタ』


重い起動音と共に、靴と腰部分に振動が伝わりはじめる。


他の3人もF-4ファントムを起動、全ての準備が整ったところで、


「「「「練習開始‼︎」」」」


一気に加速し、超速での戦闘が始まった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、「獣」に対抗する上で、最も重要なのは、やはり「刀」である。


そして、日ノ本の鍛冶職人の超職人たちにより、「獣」の装甲を貫く強度の鋼は作られたものの、流石に鋼単体で貫くような刀では、(可能ではあるものの)技術面で相当のレベルが必要なこと、なによりコストがかかりすぎるということで、鋼の強度を最低限斬れる程度にとどめ、その他の部位で強化することが求められた。


そこで誕生したのが、炎刀、氷刀、雷刀の3シリーズである。


炎刀は、刀身に穴をあけ、斬りつけた時にその穴からアルミニウムと酸化鉄の粉末を放出、テルミット反応を起こし、さらに高純度酸素を吹き込むことにより、超至近距離からの、狭い範囲に対する摂氏3000度以上の超高温のエネルギーを叩きこみ、そのエネルギーに加え刀の強度により「獣」の硬化皮膚を叩き斬る、最も強力にして多くの「獣」に対し有効な刀である。


だが、「獣」の中には、皮膚部分に水分を多く含んだ「獣」も存在するため、そのような「獣」に対しては炎刀では火力を出しづらい。


そこで開発されたのが、氷刀シリーズである。


氷刀シリーズは、見た目は炎刀シリーズとの差異はないものの、噴出するものは超低温の液体窒素であり、水分を多く含む「獣」の水分を瞬時に凝固させ、そこから衝撃を加える、あるいは炎刀により急激に温度を上昇させることにより、内圧と外圧の差を広げ、内部から破砕する画期的な刀である。


そして、氷刀、炎刀の攻撃も通りづらい「獣」、例えば皮膚が強固な耐熱金属で覆われているような「獣」に対しては、雷刀シリーズを使用する。


雷刀の刀身に蓄えられた超高電荷を特殊コンデンサーから瞬時に放出することで、電気伝導率が非常に高い金属系の「獣」に電気エネルギーを叩きこみ、内臓から麻痺させる、という代物だ。


基本的に武士は、この三刀を常備し、戦う「獣」の種類に応じて切り替えていく、というスタイルで戦う。


そして、刀の化学的エネルギーによる補強に加え、物理的なエネルギーを加え、かつ機動性を高めるのに用いられるのが、外骨格型機動拡張装置である。


先の大戦でのアメリカ連邦共和国との講和規定により、日ノ本はエンジンの開発を数十年間放棄したため、日ノ本はエンジン分野では他国に劣っている。


よって、高出力エンジンを必須とする外骨格型機動拡張装置は、全てアメリカ製であり、日ノ本はアメリカから全て輸入して各武士に配布している。


外骨格型機動拡張装置は、靴部分、及び腰部分にジェットエンジンを接続することで、平面的な運動スピードを劇的に高める事を最大の目標としている。


高速の機動で「獣」に急接近、高速移動による運動エネルギーを上乗せしての斬撃、速やかな撤退。ヒットアンドアウェイ型の対「獣」戦において、この外骨格型機動拡張装置は必須なのである。



3次元的な拡張、つまり空を高速で機動する、第2世代型の装置もあるにはあるものの、現在使用できるのは将軍家親衛隊レベルの超エリートであり、一般武士には到底手が届かない高級品だ。


その点、F-4ファントムは、旧世代型ではあるものの、その安定性と安価さから、今だ世界中で使われている名機であり、日ノ本の武士が最も触れるであろう装置である。


そして、今俺たちがしている訓練は、人間をベースとした「獣」、アリールとの戦いを想定したものだ。


アリールは非力かつ速度も速くはないが、機転が利き、なにより武器を使用することができる。 命を落とした武士が所持していた刀を奪い、扱うことができる適応性は、さすがは生物兵器かつ、人間をベースとした「獣」といったところか。


よって、対アリール戦においては、同程度の実力を持つ武士同士の剣戟による演習が最も有効なのはいうまでもないだろう。



「…さて、どうするか…」


思考を戦闘に戻す。

現在、鈴、カレン組とは400m程離れている。作戦が聞かれることはない。

機動力に長ける鈴に対し、拓真のようなパワー型では相性が悪い。そしてカレンは高速で移動しながら攻撃するより、剣戟による技術で細やかに戦い蓄積ダメージを稼ぐ戦法を得意としている。ここは…

「拓真」

「なんじゃ」

「俺が鈴をなんとか抑え込む。お前のパワーで、カレン相手に打ち合えば、カレンは必ず消耗していくはずだ。カレンがダウンした後、こっちに援護に来てくれ」

「おう、持久戦、ってやつじゃな」

「ああ」


拓真の言葉に答えると、一気にF-4の出力を最大にする。急激にかかる加速度による慣性力に顔をしかめながら、鈴に向かって突撃する。


「お?謙也、私とサシで剣を交えるつもり?愚策だねー」

「ハッ、すぐに泣き顔を拝んでやる‼︎」


鈴も炎刀を構えながらF-4のブースターを加速、こちらに突進してくる。


(とりあえず、カレンから鈴を引き離さなくては…)

右足に重心を傾け、右足のローラーブースターの方向を左に向ける。


F-4のブースト噴射で反時計回りの長半径円運動に入った俺は、左半身が鈴から見えなくなったところを利用し、左手に氷刀を装備する。


「お、なんだなんだ?」

鈴もこちらに合わせるようにF-4を機動させ、こちらを追ってくる。


(よし、ここまでは作戦通り…)


だが、鈴の機動が予想より格段に早い。


(俺と同じシリーズのブースターを使用してるはずだろ…?この速さは異常すぎる…)


だが、これが現実。天才と凡才の、どうしようもない差。


改めて鈴の能力に畏怖を感じながらも、俺は両手の刀に力を込める。


(技術で勝てないなら、頭を使って勝つしかない…‼︎)


鈴との距離が確実に迫る。


鈴との接触まで、あと30mを切ったところで、


(今だ…‼︎)


俺は右足のローラーブースターを緊急停止させ、同時に左足のブースターの加速度を最大に設定した。急に停止した右足を回転軸としする時計回りの超短半径円運動に移行、その回転エネルギーを左手に隠しもっていた氷刀に加える。体に激痛が走るが、無視して振り抜く。


「あはっ、いいね謙也‼︎ 凄く上手い‼︎ …でもっ‼︎」

俺の動きを直ぐに察知した鈴が、あえてF-4のエンジンをフルバーストさせ、炎刀で受け止めようとする。

そして、俺の氷刀と鈴の炎刀が交錯した瞬間、


俺の氷刀の刀身は柄から簡単に外れた。


「嘘っ…⁉︎」

驚く鈴。だがもうすでに遅い。


氷刀から漏れ出した液体窒素が周囲の温度を急速に低下させ、俺と鈴の体温を一気に奪う。


液体窒素の直撃は咄嗟に避けたようだが、苦しそうになんとか機動を続ける鈴。

「くっ、相打ちってワケ…?」

「いーや、鈴、お前の負けだ」


そう言って、俺は炎刀から鈴の方向に向け、アルミニウム粉と酸化バナジウムを噴出。



左手の練習用氷刀の残骸を捨て、最後に残った雷刀を引き抜き、鈴に向ける。


「練習用の電圧だが、少しはシビれたままでいてくれ、天才様」


練習用雷刀のコンデンサーに蓄積されていた電荷が空気中に放出、そのまま空気中にに残る金属粉を伝わり、それは雷撃の槍となって、鈴を直撃した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


電気を単に空気中に放電して武器とするのは相当のエネルギーが必要であり、なにより効率が悪い。

だが、あらかじめ敵に対し「電線」のようなものを作れば話は別だ。


アルミニウムなどは銀や銅に比べれば電気伝導率は低いものの、内部の自由電子を用い十分に電気を通すことができる。


また、氷刀の液体窒素により周囲を冷やしたことで、金属の電気伝導率を向上させ、さらに鈴に対する金属粉の落下速度をわずかながら緩めた。


そして最後に雷刀で鈴をシビれさせ、拓真の援護に行くはず、だったのだが…


「鈴、お前、ホントすげーよ…」

「えへへ、まぁ学年1位は伊達じゃないんで」


あのコンマ数秒の間に全てを見抜いた鈴は、咄嗟の判断で、絶縁体でできた鈴の雷刀の鞘で空気中の金属粉の流れを両断、鈴は雷撃の直撃を免れ、そのまま俺を剣術で圧倒し、結局カレンと鈴のチームの勝ちとなった。


「でもケンヤは凄いね、私とかタクマならそんなこと思いつかないと思う」

「その通り‼︎謙也は鈴に勝てそうになっただけでも誇るべきじゃ‼︎」


拓真とカレンはきゃあきゃあ騒いでいるが、実際は俺の心境は暗い。


そもそも俺が採った戦法は、対「獣」には全く使えない、ただ人間を足止めするだけの小手先のズルのようなものにすぎない。


そしてそんなズルをしておいて鈴から1本を取れなかった自分の不甲斐なさで気が狂いそうになる。


「謙也」


鈴がぴょん、と横に座る。

「なんだ」

「謙也の戦法は、ホントに凄かったよ。

「獣」には使えない戦法かもしれないけど、その発想力とかはホントに凄いと私は思うよ」

「…」

「だから、自分がズルしたとかだなんて考えないでね。

謙也の使った勝つための剣、私には絶対真似ができないよ…」


どこか寂しそうな顔で言う鈴。


「…鈴?」

「あはは、なんでもないっ‼︎

ほら、カレンと拓真さんいっちゃうよ、早くごはんいこ?」

「お、おい…」


また俺は鈴に引きずられていく。まるで、母猫が子猫を引きずるように。

(俺には、鈴を守る力なんてない…)


なす術もなく引きずられながら、俺はそう思った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【2016年 9月14日 19時24分 江戸 居酒屋「玄武」 個室】


「とりあえず今日はお疲れじゃったのぉ‼︎みんな食えや‼︎」


拓真が烏龍茶の入ったグラスを掲げながら叫ぶ。


ここは居酒屋「玄武」。拓真の実家であり、俺たち4人が入り浸る居酒屋でもある。


朝に鈴に負けてから、様々な訓練をしたものの、対戦でも、共同練習での成績でも、全て鈴が俺やカレン、拓真の成績を圧倒していた。


「しかしリンは凄いねー、ホントに同級生なのか疑問に思うレベルだよ〜」

「あ、あはは…」

率直に褒めることに慣れているカレンと、少し人見知りで恥ずかしがり屋の鈴。カレンとも割と長い付き合いだろうに、もう少し上手い返しをしてもいいと思うのだが。


そう思いながら俺は「玄武」特製の唐揚げを口に運ぶ。

…上手い。スタミナを使い果たしたこんな日は、このようなカロリーの高いものを食べるに限る。


「のぉ、謙也」

拓真が声を潜めて話しかけてきた。

「ん?」

「鈴、少し疲れているのではないか?

いつもなら飢えた獣のように食っとるのに、今日は余り料理に手をつけておらんぞ」

「あぁ…」

言われてみれば、確かに鈴は今日は余り料理に手を出していない。

そして顔を見ると、いつもより顔が赤い。


「あー、ありゃ風邪ひいてんな」

「風邪⁉︎大丈夫なのか⁉︎」

「あー、大丈夫大丈夫、多分。

…おい、鈴‼︎ちょっとこっちこい、あとカレン、鈴を放してやってくれ」


カレンに絡まれていた鈴が解放され、座敷を四つん這いになって這いながら俺のところに来る。猫かこいつは。

「な、に…?謙也」

「何じゃねぇよ、お前今熱あるだろ、今日無理しすぎただろ」

そういって俺は鈴の額に自分の額をつける。物凄い高熱だ。


「あー、もうやっぱり風邪ひいてやがる…

…拓真、カレン、悪いけど俺は鈴連れて帰るわ。また明日、学校で」

「え、ごめんリン、体きつかったの?

私も送っていこうか?」

責任を感じているのか、カレンがおずおずと申し出てくる。

「いいって、コイツの扱いは慣れてるからさ」

「そ、そう?」

「あぁ、任せとけって」


そう言って俺は鈴をおんぶする。

軽い。小柄な鈴は、この軽さで俺たちとあれほどの練習をしていたのだ。疲れるのも無理はないか。


「玄武」から歩いて数分の所に、士官学校の生徒用の寮がある。


秋の夜の江戸を、鈴をおぶって歩く。


「けんや」

耳にかかる吐息が熱い。早く休ませなくてはいけない。

「ん?」

「もし、もしかしたらのはなしだよ?

けんやにとって、とってもだいじなひとがいなくなりそうになってて、それをわかっていたら、けんやはどうする?」

「なんだそりゃ」

「わらわないでよ、こたえて」

「そりゃあ、それを防ごうとするだろうな、分かってるんなら、防ごうとするに決まってるだろ」

「そっか…そうだよ、そうだよね」

何故か安心したように呟き、鈴は頭をゆっくりと俺の背中に預ける。

「り、鈴?」


寝息が聞こえた。まったくよくわからない奴だ。


俺はそのまま鈴の寮に入り、鈴をベッドに寝かしつけ、水タオルを額に乗せてやり、水の入ったボトルを置いて立ち去った。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【2016年 9月15日 未明 京都 二条城本丸】


この時間、普段なら寝静まっているはずの二条城の本丸内では、様々な官僚、武士たちが集められていた。


その重苦しい雰囲気の中で口を開いたのは、当代の幕府元老である伊藤優騎であった。


「知っている者も多いと思うが、先ほど、九州を慰問に訪れていた、当代将軍豊臣秀明様の搭乗していたオートジャイロが何者かに撃墜された」


広がるざわめきを制するように伊藤は話を続ける。


「そして、幕府が調査した結果、オートジャイロを撃墜したのは」

息を入れて宣告する。

「新種の「獣」であると判明した。

我々は国連、および米軍に協力を要請、また日ノ本のあらゆる部隊から優秀な武士たちをかきあつめ、弔い合戦を行う予定である。

諸君は速やかに人員を選考人員、討伐隊を編成してくれたまえ、以上だ」


一気に二条城に喧騒が生じる。


明らかに、歴史の歯車が狂おうとしていた…











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