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儀遊階梯プレアンガイア  作者: 紺野縁
3/6

第一話―3

 マクロ

 元々はコンピュータ言語だったが、ゲーム用語にも同じものがある。

 あらかじめ決められた行動をスイッチを入れることで自動的に行う仕組みである。

 このゲームはマクロを用いることを基本としている。その重要度は、マクロの組み方が優れていれば作成したてのキャラクターであっても中盤の敵を完封できるほどといわれる。

 そのため、情報サイトには行動毎に適したマクロが掲載されている。新要素が入るたびにそれらは改修されている。

 ツルーホワイトの採取、ホワイトポーションの作成にもそれぞれ解答があり、それを正確に選ぶためにマクロが使われた。適した解答を見出せば次回からの労力が軽減される仕組みが多くのプレイヤーに親しまれている。

 だが、それが通用しない物もある。人の選択だ。


 闘技場はこのゲームにおける対人戦闘ができるエリアだ。そこでプレアデスは地にへばりついていた。HPバーがなくなったからだ。闘技場の一角で水簿らしいぼろ布と化していた。

 腕が鈍った。そうした感想と同時に煽る声が聞こえる。

「また同じ始動じゃないか。それじゃ読まれて当然だぜ」

「指が勝手に動くんだから仕方ないだろう……いや、そう仕向けているだけかもしれんぞ」

 煽ってくる相手は私の友人であるガイアだ。頼まれたホワイトポーションを届けるついでに寝るまでの合間を使って対人練習を持ちかけた。それを喜んで受け入れた、そして完膚なきまでに叩きのめしてくれた。

 俺が中量装備であるのに対し、ガイアは重量装備だ。俺は対人するために装備を変えている。今回はチェインメイルに槍とシンプルな装備にした。対するガイアはフルフェイスの兜と甲冑にハルバードを装備している。姿は鎧で見えないが中身は筋骨隆々で偉丈夫を思わせるひげ面の青年だ。

 中量装備はオールマイティに戦うことができるが、特化した相手にはかなりの苦戦を強いられる。ガイアの重量装備は移動回避が難しいが攻撃を軽減させる比率はどの装備よりも高く耐久性に優れている。

 とはいえ、戦い方が優れていれば不利な相手にも勝つことはできる。大事なのは装備やスキル構成ではなく、その場において適切な行動を取れるかどうかなのだ。

 そうした事の積み重ねで俺は負けている。

「言い訳乙、いくらカウンターがうまくても攻撃がなおざりじゃ勝負が終わらないだろ」

 ガイアの金言にぐうの音もでない。

 俺はスキルスロットを対人から探索に変更した。対人練習は終わりの合図だ。

「もう終わるのか」

 俺の飽きっぽさにガイアはため息をつく。

「他にやってるやつを見て勉強するわ」

 そういい残して俺は、中央から外周に移動した。そのままカウンターにある見学システムを選ぶ。現在対人しているプレイヤーの一覧が現われた。自分に近い対人構成のプレイヤーを選び見学を選んだ。それと同時に掛け金の額を決めるウィンドウが現れるが今回は賭けは行わないのでそのまま決定ボタンを押す。

 ガイアはもう他のプレイヤーを見つけやりあっている。やはりあの頻度で対人経験を詰む必要があるのだろう。俺には難しい話だ。


 対人もまたゲーム用語のひとつであり、ゲームプレイする人同士で戦うことを総合して対人と呼ばれる。

 魔物との戦闘と対人戦闘ではいくつか違いがある。

 まずは攻撃ポイントの数だ。その場所ごとにダメージや追加効果が違う。そして、魔物の攻撃ポイントは多くても六つ程度だが、対人ではその三倍以上あり、急所を狙えば多くのダメージや行動制限を与えられるが、それを射抜くにはプレイヤーの技量がいる。

 足を狙えばバランス、手を狙えば攻撃精度の低下を与えることができる。

 バランスはキャラクターが一定時間に移動できる距離と攻撃するために必要な姿勢を指す。低下すると強力な一撃を打ち込むのに時間がかかったり、連続攻撃ができない。

 攻撃精度は命中率と似たような概念で攻撃さその部位に当たる確率を指す。対人を行うプレイヤーは自分が使う武器スキルを最高まであげるため、攻撃すれば必ずその部位に当たる。これも低下すると攻撃が狙いの位置に当たらず効果的な一撃にならないばかりか武器や盾以外でも弾かれるようになり、無防備な状態になりやすくなってしまう。

 そしてもうひとつは、マクロの扱いだ。

 魔物との戦闘は、マクロが相手の行動とかみ合えば高い確率で勝利することができる。しかし、対人戦闘ではマクロを噛み合わせるために相手の行動を読むことが必要になる。攻撃と防御そして回復のタイミングを相手の予想にどれだけ反するかが重要になる。


 数度の見学を終えてまた闘技場に戻る。

 今度はガイアがボロ雑巾になっていた。本日の勝率をみたところ半々といったところだ、そして勝利数の半数は俺に勝った数。つまり、負け越しということだ。

「負け越しで機運が下がっているところだが、やろうか」

「それじゃ、これで盛り上がらせてもらおうか」

 うまく機運の語彙にあわせて言い返すガイアに思わず笑みが出る。もちろん悪人が見せるようなシニカルな表情だ。

 勝負開始。

 まずガイアの利き腕である右手を狙う。もともと移動力が低い重量装備を相手にする時は手を狙った方がよさそうだからだ。

 相手との間合いを詰めて、マクロを発動した。右手を狙うためにまず槍を打ち込む。隙の少ない一撃からはじめる。

 ガイアはそれを後退しながらハルバードで弾き、そのままこちらにけしかける。

 ここまではお互い読みどおり、ガイアの攻撃が届く前に移動して回避する。

 そして同じことをもう一度、同じように返され俺もまた回避する。

 三度目の打ち合い、先ほどまでの戦いでは三度目からフェイントを使い逆手を狙っていた。右手を狙うように武器を動かして、相手に攻撃すると示した後に逆手を狙う。その逆を行う。

 そう、フェイントを行いながらもそのまま右手を狙うのだ。そして相手の攻撃精度を下げた後にお手製の三連激マクロでトドメを刺す。

 俺はフェイントを行い、ガイアがそれを認めたのと同時に右手を攻撃する。ガイアはそれを力強く弾いた。

 そのままガイアは俺にタックルを仕掛けてくる。それをまともに食らいよろけたところに足に攻撃を打ち込まれる。姿勢が整わないため三連激マクロも誤作動して動かない。

 バランスが回復するころには勝負は決していた。ガイアの攻撃マクロが見える。力を込めて強力な一撃を打たれHPがなくなる。

「小足見て昇竜余裕でした」

 容赦ない言葉が俺に浴びせられる。

「俺のフェイント仕込みが見破られるとは」

「フェイントもマクロに入れ込んでいるようだから、そのタイミングで逆手に攻撃がこなかったところを見て、そのままだと思った」

 そうか。

「完敗だな」

 俺は短くそういう。

「マクロの仕込みが必要ならいつでも相談にのるぜ」

 ガイアは涼しい顔をしてそんなことを言う。俺はそれを手で制した。

「やだな。次回は俺が後手でやる、つまり俺のカウンターが決まり勝つ」

「人の話を聞いてるのか」

 話が最初に戻ってガイアは思わず叫ぶ。

「いくらカウンターがうまくても攻撃がなおざりじゃ勝負が終わらないだろ」

人称別でミルフィーユしてしまった。

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