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Act19:収束







 己の無力さを噛み締めて宿舎に戻ってきたハーガンの目に人集りが映る。ミーティングルームの机に広げられた周辺の地図は、予め用意していたが使うつもりのなかったものである。地図に赤い円が描かれ、青い点で生徒がそれぞれ居た場所を書き込み状況を集約している。何が触発剤となったのか外から見ていたハーガンからは分からないが、少なくとも今回の訓練が関わっているのは間違いない。

「弾かれた奴と引きずり込まれた奴がいるな……相性かな」

 点呼漏れの生徒の大体の位置も黄色のマーカーでチェックされており、それを確認してハーガンは地図を覗き込む。開始当初から隠れていた雫の正確な位置を把握している生徒は居ない為か雫の名前は何処にも書き記されていない。机上に転がるペンを手に取り、円の中心地点に雫の名前を書き加えてハーガンは考え込む。

「普段の雫なら……でも、かなり動揺してたし、武器持ってない上に体力削られてるもんな……ここの魔術師に応援要請したら、あれ来ちゃうし、どうすっかな」

 うーん、と考え込んだハーガンは青ざめたクーエンの姿を目の端に捕らえる。不測の事態に弱いのか困惑している様子である。学生向けの先生なのだから、有事の際の対応が苦手なのは仕方がないことだろう。

「教授、指揮はお願いできますか?」

 余計なことにかかずらっていては雫の救出が遅れてしまう、と取り敢えずの体面は保っているのでこれ以上の行動を放り投げるつもりでハーガンはクーエンに声を掛ける。

「えっ?」

「一応、立場上教授が指揮するのが適確と思いますが?」

 繰り返したハーガンの要請にクーエンは思うところがあるのか渋い顔をする。年齢はともかく、経験を考えればハーガンの方がよほどこういった出来事に対応できるだろう。

「それに、俺はあっちの相手しなきゃいけないんで、生徒の安全はお任せしますね」

 寧ろ、生徒の保護を頼まれて出来るはずもない、とハーガンは苦笑する。借宿の玄関から伝わってくるざわついた空気に、遊びの時間は終わってしまったのだ、とハーガンは気を引き締めて入り口に身体を向ける。


「端的に、説明」


 憤怒をその整った容に滲ませたファリドにハーガンは首を竦める。

「吹っ飛ばされたいのならば、容赦するつもりはないぞ」

 屋内だというのに躊躇いもなく愛用の長槍を出現させたファリドにハーガンは一歩、距離をとる。

「こっちも、まだ把握してないわけ。説明なんてできるわけないだろ」

「じゃあ、聞くが、雫を魔術師共の中に放り込んで戦わせてるってのは?」

 ファリドの怒気に、おや、とハーガンは眉を跳ねる。

「誰が漏らしたのかな、訓練に入れたって」

「ふざけんなっ!!雫に戦闘をさせてるなんて何を考えている!!あいつは戦えないんだぞ?抑も、お前達みたいにがさつにできてない。繊細だって分かってるんだろ?魔術師みたいに野蛮じゃないんだ!!」

 一息で捲し立てたファリドにハーガンは、そろそろ周囲が雫の違和感に気付いてしまうだろうと目を走らせる。雫の在り方を隠すつもりのないファリドは魔術師を蔑む発言を慎むつもりはない。

「戦えないってどういうことだよ、あいつちゃんとこなしてたぞ」

 ハーガンとファリドの言い争いに誰もが一歩引いたところで見ていたが、雫の話題が出たことでルカは思わず口を出していた。

「っ、言葉通りだ、あいつが戦力になるわけがないだろ」

 守る相手である雫の力量を知っているファリドは、声を掛けてきたルカに、あ゛、と柄の悪い声を漏らして一睨みする。

「それより、報告では二人の筈だけど――?」

 ルカの疑問に答えさせないように話題を直ぐさま口にし、視線を廻らせるハーガンに咤食しファリドは渋面を作る。

「森の様子が変だったから、車から蹴り落とし偵察に向かわせた」

 眉間に皺を寄せて淡々と事実を述べるファリドに、ハーガンはやはり味方にいて安心できる人物だと心の中で感嘆する。

「相変わらず、素晴らしい判断能力だ。その力、貸してくれない?」

「断る。魔術師がどうなろうと関係ない。俺は勝手に動かせてもらう」

 ハーガンの言葉にこの場所には何も情報がないと判断したのかファリドはさっさと立ち去ろうとするが一瞬、机上の地図に視線を走らせる。

「指揮系統が乱れるのはこっちも困るよ」

「はっ、素人に首突っ込まれた方が余程迷惑だろ。異能者相手にこいつらが何かできるとはとても思えない」

「っ……そう、やっぱり“異能者”か」

 ファリドがそう判断したのならば間違いはないだろうとハーガンは思わず顔を曇らせる。

「雫が、あの変な靄の中にいるなら俺が動く」

 忌々しげに机上の地図に手を置いたファリドの様子にハーガンは共闘を持ちかける程度ならば平気かと声を掛ける。

「邪魔はしない、こちらも動かせてもらう。それでどうだ?」

「……優先すべきは雫だ、お前には従うつもりもないし――……っ」

 不意にファリドの言葉が途切れる。

 瞠目し、そして、引き裂いた音共に身体から赤が撒き散る。

 飛散した魔力は宙へと掻き消え、衝撃に耐えるかのようにファリドの身体が崩れ落ち掛かる。

 腹部から零れ落ちた血が足元に血溜まりを作る。

「ちょっ、なんだよ」

「きゃぁぁぁぁぁ」

「血っ!?」

「誰か、回復っ魔術」

 騒ぐ魔術師の卵を余所に腹部から大出血したファリドとこれが初めてではないハーガンは動揺を見せない。

「落ち着いて、傷は直ぐ塞がる。ただ、バスタオルで血拭うからバスタオル持ってきて」

 側に居た生徒に指示を出すとハーガンは青褪めた顔で膝を付いたファリドの顔を覗き込む。お互い、この状況が最悪だと言うことに気付く。

「雫、致命傷を受けたんだね、しかも形代も使い果たしてる」

 ハーガンは形代はまだ残っていると楽観視した己を心の中で叱責した。

「……じゃなきゃ、俺に傷が転移するわけないだろ」

 ギュッと唇を噛みしめてファリドはハーガンを睨み付ける。

 雫と正式な契約をしている、白鞘の最高傑作の“人形”であるファリドには《替贄》と呼ばれる特殊能力が付与されている。否、人形とは本来人形代を意味している。人形として精巧な程、害悪を軽減できるとされ重宝されているのだ。“替贄”は言葉通り、主人の致命傷を半分肩代わりし、その恩恵でマスターである雫は絶対的な致命傷を受けても即死はしない。この強制的な痛覚転移を嫌がる雫は形代などを用いて怪我をしないように注意を払っている。それでも、雫が自衛の手段がなくなれば強制発動をしてファリドに痛みが降り掛かる。最終的な身代わり人形は紛れもなくファリドである。言葉通り、ファリドは雫の剣であり盾であった。

「痛がってる、だろうな……」

 致命傷を軽減しているから辛うじて動けるだろうが痛みにもんどりうってるに違いない、とファリドは痛ましげに眉を顰め腹部の傷に手を添える。

「っ、傍に行ってやらなきゃ、きっと怖がってる」

 恐怖に打ち震えているだろう、とファリドは立ち上がった。唯一無二の主の傍らを離れている現状こそファリドにとってはおかしな現実だ。

「動けるのか?」

 人形と言っても、雫の傷を引き受けたのならば処置をした方が良いだろうと軫憂を滲ませたハーガンにファリドは眼光鋭く睨み付ける。


「動ける動けないの問題じゃないだろ。行かなきゃなんねーんだよ」


「本当、人形の鑑だねぇ」

 自己犠牲に富み、無償の献身を当然のように行動する様にハーガンは思わず口の端をあげた。

「お陰で、雫の場所も把握できた」

 ファリドはオロオロとしている生徒からバスタオルを受け取ると雑に血を拭い、魔力を腹部に集中し、傷口を無理矢理塞ぐ。

「俺も行くよ、取り残された奴もいるし」

「……勝手にしろ、何があっても助けない。俺は雫を優先する」

「いいよ。雫を助けるついでに他の生徒を助ける――それで正解だろうし」

 ファリドの言葉に了承したように首肯したハーガンは、後は頼むと言いたげな様子でクーエンに眼居で伝える。

「ちょっ、待てよ。なんでいきなり出てきた奴に――」

「彼は雫の爺や。ここにいる奴が束になっても適わない。俊傑と謳われる人形に任せる方がいいと思うけど?」

 ルカの言葉にハーガンは呆気なくファリドの素性をばらす。

「はっ、人形?」

「ちょっと、待てよ、人形ってどういうことだよ」

 騒がしくなってきた生徒達に誰一人雫の正体に気付いていなかったのか、と毒づきながらハーガンは視線を廻らせる。

「じゃあ、人形遣いって事かよ、あの女」

「魔術師じゃないって、ルール違反じゃないのかよ」

「おい、どーでも良いが俺は行くぞ。ガキ共の相手をしている余裕はない」

 そう告げると同時にファリドの姿はその場から掻き消える。玄関まで戻るのが面倒になり三階の窓から飛び降りたのだろう。

「雫は俺が巻き込んだの。ついでに、人形遣いじゃなくて人形師な。白鞘翁の継承者。じゃ、クーエン先生、収束お願いします」

 面倒なことに関わり合いになりたくない、と既に借宿から遠ざかっていくファリドの気配を逃さぬようにハーガンも傍の窓から身を投じた。

「えぇ……――」

 騒ぎ出す生徒を余所に、本当にクーエンは放り投げられた事を察して、何処から何を話せばいいのか、と肩を落とした。




 黒い靄の先、境界に漸く辿り着いたニコラスは知りうる限りの知識を総動員した。複雑に編み込まれた魔力を一つ一つ、解いていく。根気よく、少しでも穴が空けば一気に崩れる可能性がある。それにかけるしかなかった。

「っ……自己修復が早い」

 外部からの衝撃に結界は補い合うように即座に穴を塞いでいく。その様子に急かされながらニコラスは指先に魔力を溜めていく。

 あんな獰猛な獣の前に雫を置き去りにした罪悪感がニコラスの手を振るわせる。だが、雫からもらった、大丈夫だという信じているという言葉が即座にニコラスの落ち込んだ気持ちを慰める。

「っ……俺が、やらなきゃ――」

 決意を新たにしたニコラスの視界に不意に影が差し込む。

 接近されても気付かれなかった己を苛みながらニコラスは慌てて距離を取ろうとするが、互いの間にある結界が盾代わりになっていることに気付く。

「貴方、なんですか?」

 先刻の奴の同類か、と身構える。

「それは、こっちの台詞、雫、ここに、いますよね?」

 途切れ途切れの言葉と身体の至る所に朱線が走っている、静まりかえった水面のような男にニコラスは目を見開く。

「雫の知り合い、ですか?」

「ええ、雫の従者です。彼女を迎えに来ましたが、放り出されて偵察しろと言われました。そして、貴方に会った。貴方は雫を知っている、だって、胸ポケットに雫の匂いがする形代がある。雫は、何処ですか?形代を手放していると言うことは、恐らく雫は無防備です、適確に説明してください」

 呼吸を乱さず淡々と告げた青年にニコラスは、何から、と考え込む。

「俺は、ニコラスです。この結界で外に出られなくなって、彼女は異能者と相対してる。早く、解かないと、逃げられなくなる」

「グルゲス――雫の剣です。退いてください」

 結界の前に居たニコラスを邪魔だというように手で追い払うと、グルゲスはほんの少し穿たれ場所を確認するように屈む。

「さっさと、壊しましょう」

「待ってください、これ内側からじゃないと解呪できないらしくて――」

「外側から壊せない道理はありません。貴方の解呪を待つ時間はない」

 手に生み出した、剣を結界に突き付ければ、途端に手から奪われ吸収される。

「っ……――」

 瞠若したグルゲスは、それでも、と自分を奮い立たせる。

 吸収する事に長けた結界ならば、それを上回る程の質量を降らせば良いだけだ。

 自分の創造者のように魔法陣を宙に描いて武器を敷き詰め、一斉に射る。凹み、解れた結界は直ぐに自己修復を繰り返す。

 それでも、圧力に耐えきれないのか所々靄が薄くなる。

 僅かな綻びを繰り返し繰り返し、その小さな点を壊すことによって全体の機能を停止させる方法を選んだ。

 せめて、体力が削られていない状態であれば、とグルゲスは心の中で託ちながら、剣を、槍を、斧を、綻びに叩き付ける。奪われる度に、即座に生み出しては、振り上げる。一度メルトダウンを起こしている上に、ファリドに突き刺された傷を修復する為に魔力を大分消費しているのがグルゲスにとって随分と傷手だった。

「待ってください、両方から衝撃を与えれば壊れるかも――」

「出力低そうだけど出来るんですか?」

 侮るわけではなく純粋にグルゲスはニコラスの不安定な魔力の形が見えるからこその疑問だった。

「……やります。だって、雫が頑張ってるのに――」

 何もしないわけにはいかない、とニコラスは、グルゲスが攻撃を仕掛けている箇所に焦点を当てる。

「では、カウントをします。3、2、1――」

 零のタイミングでグルゲスとニコラスは一撃に全てを込める。

 両方からの衝撃に結界は一瞬、大きく穴を広げるが、解れた端から修復が始まりかける。

「ちっ――」

 持たない、とグルゲスは思わず舌を鳴らす。

 妙手だったが、如何せん勢いが足りない。

 空手だった左手に武器を生み出して、もう一撃と銜えようと振りかぶった。


「後は、任せろ」


 背後からの一撃を察知してグルゲスは飛び退こうとするが削られた体力では、真横に転がるのが精一杯だった。

 鋭い一撃が結界を突き刺すと同時に罅が走り薄い膜の内側から光が漏れ、割れた。

 隔てていた黒い靄の存在が掻き消えた事にニコラスは驚愕し、思わず手を伸ばした。

「雫は奥だな。お前達は休んでいろ」

 小柄な――だが、身体から迸る威圧感にニコラスは目を屡叩く、背にいるハーガンに知り合いだと言うことは分かるが二人の中は良好には思えなかった。

「俺も、行きます」

「雫と離れてて魔力尽きかけた上に暴走して動ける状態じゃないだろ、寝てろ」

 地面に転がったままのグルゲスにファリドは呆れたように溜息を漏らす。

 一撃で結界を破裂させたファリドの魔力の出力量にグルゲスは、正規契約をしているファリドとの差を見せつけられたようで気落ちする。この男に勝てなければ、雫の傍にいる権利はない、と遠い背中に掌で目元を覆う。

「動けるようになったら、行きますから――」

 精一杯の強がりを告げてグルゲスは、静かに目蓋を下ろした。

「そっちも休んでろ。雫と一緒にいてくれたんだろ?トリップスから聞いた。感謝する」

「いえ、俺は何も出来なかったです。何も――」

「一緒にいただけで随分救われたと思う。無理しないで離れてろ」

 ニコラスに労いの言葉をかけたファリドに、俺にもその優しさくれよと思いながらハーガンは過去の様々な件を思い出し無理かと思い至る。

「あっ、もう、いない」

 気を緩めた隙に既に勢いよく森の中を駆け抜けていったファリドの後ろ姿を見詰めながら、取り敢えず最悪の事態は回避出来ただろうと息衝いた。







 腹部の痛みに、口腔に広がる鉄の味に雫は堪えるように閉じていた目をゆっくりと開けた。

 鬱蒼とした森に変化はない。

「致命傷だった筈なのに、よく動けるね……まぁ、その絡繰りなんとなくわかったけど」

 にこにこと笑っているモラードに恐怖を感じて雫の身体が跳ねる。そんな些細な動作に身体は痛みを訴える。

「くっ……っ……――痛っ――」

 声を吐き出すのも苦痛で、呻き声を漏らすだけの雫は大地に転がりながら、屈んで面白そうに自分を見詰めるモラードに目を遣る。

「傷の具合が軽減されてる……つまり、誰かに肩代わりさせたわけだ。臆病な人形師がやりそうな事だね」

「好きでやってる事じゃないわ」

 ファリドの契約は雫が物心が付く前の話だ。産まれた時から傍にいた守り役だった。それがある日を境に、お前のものになる、と言われ強制的に契約は履行された。繋がりがあると、孤独ではないのだと馬鹿みたいに嬉しかった雫の思考が黒に塗りつぶされたのは大怪我を負った時だった。溢れ出る血に怯え、痛みに呻いた。だが、目の前のファリドには自分の怪我と同じ箇所に傷を負っていた。何故、と驚く雫を余所にファリドは手慣れた仕草で傷を塞ぎ、己の失念を疎んだ。『痛覚転移』と呼ばれるそれだと知ったのは後になってからのことだ。出血を伴う裂創にのみ適応される為、仮に扼殺されてもそれは、防ぐことは出来ない。だが一番攻撃の手段としてシンプルなものを防ぐには絶対の盾だった。

「……そうね、のろいかも」

 自分の過失ならば甘んじて全てを受け入れよう。だが、それが他人に無理矢理押しつけられるのだ。必要以上に傷を負うことが怖くならない方がおかしいだろう。大切な相手を傷つける可能性があるのが自分だというのは笑い話だ。

 アキュリスを出現させられるかと雫は己の身体に問いかける。魔力の径は未だに閉ざされていない。回復は遅いが、数度放つ事は可能だろうと判断する。

 廻る。

 満たす。

 子供のように虫を観察するように自分の傍らで無防備な様子のモラードに一矢報いる事は可能だろう、と思った刹那、何か破裂する音と共に、空の色が一変する。

「無理矢理、結界を破ったね」

 すくっと立ち上がったモラードは周囲を探るように視線を彷徨わせる。

「ねぇ、凄いスピードでこっちに来てるの君の武器?」

 モラードの言葉に安堵と誇らしさで雫は口元を緩めた。

「――たいせつなかぞくよ」

 視界を掠めた黄金に雫は、大丈夫だ、と安心して目蓋を下ろし全てを委ねた。




「てめぇ、人のマスターに何しやがった!!」

 血に塗れた雫を視るのは初めてではない。だが、ファリドにとってそれは久しぶりだったし、何よりも護衛としての矜持が傷ついた。

「ちょっと、お返ししただけだよ。見た目よりも頑丈で驚いたよ」

「っ!!」

 無言のまま愛用の槍を振るったファリドはそのまま目の前の自分と外貌の変わらない幼い少年の急所を狙う。手加減をする意味もなかったし、惨状を見せたくない主も今は目を閉ざしている。

 ファリドの攻撃にモラードは腕を一本負傷しながら後退する。

「ねぇ、追ってこないの?」

 殺す気はないのか、と無邪気に尋ねるモラードにファリドは渋面を作りながら雫を庇うように前に進み出る。だが、一定の距離を保ちそれ以上は進まない。

「お前を仕留めるよりは最優先すべきは雫の命だ」

 殺意を抑えているファリドにモラードは、随分と修羅場を潜り抜けているのだろうと推測して笑った。

「そう。君達は分かりやすいね。でも、きっと、また会うよ。その子、面白いんだもん」

 不穏な言葉を残してモラードは闇に消えていった。

 気配が遠ざかったのを確認してファリドは屈み込んで雫の腹部に手を添える。

「ごめん。ごめんな。ちゃんと護れなくてごめん」


 どうして、うまく、まもれないのだろう。









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