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6.染みは早期治療が肝心です

会議は順調に進む…と思えたが2年生のクラスでメイド喫茶がブッキングしてしまい、そこで煮詰まってしまった。


「うーん、同じ階に二つはちょっと…。せめてメイドは変えられませんか?」

と言う文化祭委員長の言葉に、緒方節が炸裂した。

「うちのクラス本格イギリスカフェやるんですよ。アキバのメイドじゃなくて、イギリスのメイド。だから違うでしょ?」

「本格って例えばどんなことですか?」

「ほら、天谷ちゃん」

緒方に背中を押され、舞子さんからの伝達を読み上げる。

「アフタヌーンティを再現するため、3種の茶葉の紅茶、スコーンとサンドイッチの軽食のメニューにします」

「そうですか。6組は?」

「うちは焼きソバに男子がAKVを踊りまーす」

ドッと笑いが起きた。勿論響は置いてけぼりだ。

「ほら全然違うじゃん!あ、じゃ2組の男子は執事の格好するよ」

緒方が提案する。

「それ、ただの学ランじゃん」

「いや、ちゃんと蝶ネクタイ付けて『お帰りなさいませ』する」

女子の冷やかしにも柔軟に返し、また笑いが起きた。

「うーん…じゃあ外装や店名は趣旨が違うと分かるようにしてください」

委員長から許可がおり、ホッと胸をなで下ろした。


「緒方くん、すごい!」

「やったなー」

響は興奮していた。やはり緒方は尊敬に値する。

「さすが、チャラ男なだけあるよね」

柄にもなくはしゃいで、緒方の顔を仰ぎ見ると張り付いた笑顔があった。

「―何て?」

声に迫力が増したと思うのは気のせいだろうか?

「チャラ…って、あっ良くない言葉だったっけ」

そう心に呟いたはずの言葉は残念ながら口に出て全部緒方の耳に届いたが、響は気付いていない。

「…俺のこと良く知ってるんだ」

おまけに緒方の低い声も、目付きが変わったのも気付かない。

気付けば階段の踊り場にいた。響は無意識の内に壁に追いやられ、かぶさるように緒方の腕に閉じ込められていた。

「…それなら、」

顔の左側に日に焼けた腕が、右の頬は緒方の掌で包まれていた。

「これから良く知ってもらおうかな?」

かすれた声が、いつもの何倍も彼を妖艶に魅せる。人好きする笑顔とは違う、鋭い眼差しに響は思考も奪われた。

「こ、れから?」

「俺のこと嫌いじゃないでしょ?」

形の良い口元が上がる。それに釣られて響はゆっくり頷いた。

「じゃ行こうか」

耳が痺れる甘い声で囁いて、緒方はくるっと響の肩を抱いた。そのとき、ネクタイに小さい染みを見つけた。

「緒方くん!染み!」

「え?」

「これ、ジャムの染みじゃない?早く洗わないと取れないよ!」

条件反射だった。染みは本当に厄介で一刻も早い処置が必要だと頭を悩ましていたから。

「ごめんね、これ試食のときに付いたんだよね」

作った身として罪悪感が沸いた。

「台所洗剤があれば落ちるかも。調理室で借りてこようか?」

「いいって!」

思わずネクタイを掴んでいた手を振り払われた。

「ご、ごめん。でも、早く取らないと落ちないよ。うちの兄弟もね、」

「いいからっ」

刺のある声で突き放され、ようやく我に返った。

私……何を流暢に…。

響は血の気が失せた。

「何!?天谷ちゃん、わざと!?」

ヨロヨロと重い頭を上げると、身ぐるみ剥がされたように真っ赤になった緒方が慌てていた。初めて見る不似合いな表情にポカンと口を開けてしまう。

「無理だ、タチ悪ぃ。俺帰る」

脱力したように肩を落とし、緒方は早足で立ち去ってしまった。


どれくらい経ったのだろうか。口がカラカラになって初めてずっと開いていたことに気付いた。骨が軋むほど固まった体を動かしながら、響も帰宅することにした。


あの、緒方くんじゃない緒方くんは何だ?


首を捻ると、ポキッと小気味良い音が廊下に響いた。


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