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39.絡まる糸くず

荷物検査の翌日、高田麻由が一週間の停学処分になった。


それが何を意味するか考えるのは容易なことだった。

皮肉なことに、今まで響と麻由、緒方の三角関係で持ちきりだった噂は、麻由の独り相撲だったのではと見解を変えた。

「てかフツーに考えて、天谷さんと緒方くんってナイナイ」

「それより高田さんでしょ!やっぱ芸能界に足突っ込んでると、煙草どころかクスリだってさぁ」

「ちょっとそれ言い過ぎー」

くすくす、とあちこちから押し殺した笑い声が聞こえる。関係のない噂なら面白おかしく笑えるものなのかもしれない。響は周りを恨めしく思った。


緒方とは冷戦状態だ。昨日あの場で緒方の名前を出したのは悪かったと思うが、どうしても謝る気がしなかった。最近は何だか頭を悩ますことばかりで、響はため息をついた。


「ねえ、響ちゃん」

「んー?」

夕飯の支度の最中、(さとい)がわざわざキッチンに声をひそめてやってきた。

(あきら)の授業参観って今週でしょ。あんなこと言ってるけど、多分来て欲しいんだと思う」

その言葉に、響はエプロンで手を拭きながらカレンダーを見上げた。

「そうか、もうそんな時期か」

確かに万引き事件のときそんな話があった。暁がそのお知らせをゴミ箱に捨てていたと言うこと。その理由はひとえに響のダサさがたたってと他の弟妹に言われていたのだ。

「……………」

同じことを考えていたのか、慧が同情した目で見ていた。

「な、何よ。綺麗な格好すればいいんでしょ」

「響ちゃん、綺麗な格好って毎日お風呂に入ることじゃないよ」

「知ってるわ!」

それ以上相手にせず料理に集中すると、弟妹たちが好き勝手言い始める。

「どう、さすがに気にして変わると思う?」

「姉ちゃんのことだから明日には忘れてるよ」

「何でお前らはあの良さに気付かないんだよ。中学生から変わらない見た目こそ国宝だろーが」

恵のハンバーグは焼かないで出してやった。


「暁、授業参観って何か発表とかしないの」

「えっ?街の歴史のグループ発表があるけど…いいよ、来なくて。響ちゃん学校でしょ?」

「でも暁のことだから、ポスター凝ったんじゃないの。見たいなぁ」

「まあ、うちの班は無駄にスパンコールとか使ってめっちゃ派手にした。萌が安いところ知ってて、マルキューの近くの手芸屋さんなんだけど」

「どんな感じ?」

そう聞けば、暁は嬉しそうに語った。仲の良い友人、萌たちとの傑作らしい。

「暁さえ良ければ見に行っていい?」

えー…と渋りつつ頷く妹を、恵たちは珍しくからかわなかった。



その翌日、響はある人物を探して校内を歩き回っていた。視界に入れば鮮やかな金髪ですぐ気付くはずだ。それを証拠に、ものの五分でミホは見つかった。

「あのー…」

「げっ!あ、天谷」

ミホは真っ黒に囲んだ目を見開いて何歩か下がった。

「な、何。あんたと関わるとロクなことないんだけど」

「私、高田さんのお見舞い行きたいんですけど」

「は?」

今度は持っていたペットボトルを落とす。

「住所知ってます?」


メモを手にして、響は思い返していた。

『妊娠、とか言い出してからマユは変になった。準はさー…何ていうか、やっぱあんたも、その、ヤったの?』

『え?何がですか』

『…いや、やっぱ言わなくていい。想像すんの怖い。準が軽いってのはみんな知ってるじゃん?本人も隠さないし、それなのにマユ…本気だったのかなー』

『そうなんじゃないですか』

『だってあの準だよ?あり得なくね?』

ミホの話はどこかちぐはぐで、半分も理解出来なかった。それが顔に出ていたのか、ミホは眉を顰めて、ため息をついた。

『あんたも好きなの?やめたほうがいんじゃない』

『好きじゃない』

『え?』

口の中が苦いものでいっぱいになった気がして、響は言葉を吐き出した。


『私は―嫌いです』



―あんな緒方くん、好きにはなれない。





響は勇み足で、麻由の家を目指していた。可愛らしい一軒家に辿り着くと、見慣れた茶髪が視界に入った。

「マユちゃん、いい加減にしようよ」

「なにが?準はもう他人なんでしょ。放っておいて」

緒方だ。部屋着の麻由と、玄関口で口論している。

「学校辞めんの?ミホちゃんが言ってた」

「もうどうだっていいもん。準もミホたちも嘘ばっか」

「嘘つきはマユちゃんじゃねえの?」

「ああ、妊娠のこと?そうだね。でもそうでもしなきゃ、マユの話聞いてくれないでしょ?そこまであたし馬鹿じゃないよ。準のこと本気で好きな子もいるって、考えなかった?あたしの…っ、あたしの気持ちはどうなるの!」

麻由の声は今にも泣きそうで、響の胸に突き刺さった。

「…ごめん」

「帰って」

「ほんとに、ごめん」

「聞きたくない!」

激しくドアが閉まる音がした。緒方はしばらく立ち尽くしていたが、静かに引き返したので響は咄嗟に隣の民家に隠れた。


「何ですか?あなた」

「えっ!あ、あの、すみません」

「うちに何の御用?」

不審者扱いされた響は、咄嗟の言い訳が出来ず、解放されるまでかなり時間がかかってしまった。


結局、無駄足になってしまった道をとぼとぼ引き返す。一度絡まってしまう糸はこんなにも解けないものなのか。緒方と麻由のこと、萌と母親のこと、元を正せば案外単純だったりするのに、ちっとも解決しない。やっぱり人との関係って難しい。


…そんなことを考える響もまた、初めて家族以外のことで頭を悩ますのだった。




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