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26.とんだサラブレット

今日の夕飯は餃子だ。


「100個は作ってね~」

響は弟たちに任せ、他の料理に取りかかる。

「なんだよ、その雑さは」

「あーら、そんな細かくヒダ作っても隙間から空気が入ってやぶれるのよ」

「響ちゃん!そんなことないよね!」

恵が綺麗にひだが出来た餃子を見せてきた。

「わぁ、恵上手だね。でもそんな細かくしなくていいからね」

「ほら、料理の優先さを分かってないわ」

「うるせーなほんと!」


先日の一件から、何故かマナミがたびたび天谷家にくるようになった。一人や二人増えても変わらないし、マナミなら弟妹たちより食事の手伝いをしてくれるので響も良く夕飯に誘っている。

当初険悪に思えた暁より恵の方がマナミに噛みつき、それを二倍三倍にも返すマナミとの口合戦は、とても賑やかだ。

「暁さん、お食事のときくらいそのリップ落としたら?」

無法地帯だったマナーにもマナミチェックが入る。

「せっかくの響さんのお料理味わえないでしょう?」

「ぐ、は、はい」

「良い子ね」

美人迫力とは良く言ったものだ。マナミの女神のような微笑みには誰もが口ごもる。

「マナミさん面白い~。将来恵ちゃんと結婚してウチに来てよ」

慧の声に暁と恵がブっとむせた。

「じょ、冗談…」

「おい、慧、これが小姑でいいのか」

「そうねぇ、でも今は恵に魅力を感じないのよね」

「てめーが言うか!」

訂正、賑やかすぎる食事に響は苦笑した。


その後、恵にマナミを駅まで送らせて、その間に風呂を済ます。上がると既に帰宅した恵がソファで新聞を読んでいた。

「恵、お風呂あいたよ」

「んー」

「ねぇ、留学の話しだけど」

響は一度確認しておきたかった。

「恵が行きたかったら、お母さんたちも賛成してくれるよ。お金も心配ないから」

「分かってるよ」

バサッと恵は新聞を閉じて、響の手を握ってきた。

「今は(ここ)を離れたくないのと、留学先のカリキュラムに興味がないのと。理由は色々あるよ」

「そう…」

「俺もさ、分かってるよ。いずれは皆ここを離れてくって」

「うん?」

「でも、最後まで響ちゃんにはそばにいてほしい…」

俯く恵がいじらしくて、安心させるように微笑んだ。

「何言ってるの。ちゃんと見守るよ。皆が立派に独り立ちするの見届けるよ」

「約束して」

「はいはい」

恵は座ったまま、目の前に立つ響を抱き寄せた。この甘えたがりの弟はいつまでたっても姉離れをしない。体は大きくなっても響には小学生のままだ。仕方ないな、としたいままにさせてやった。


その中で恵が舌を出しているのも知らず…。


「ねぇ、しつこく言うけど、成田には気をつけてよ」

「良い人じゃん」

「あいつ、帰国子女だってこと忘れないで」

恵の言った意味を、響はすぐ知ることになる。




マナミの両親も共働きで、食事は家政婦さんと取るのだそうだ。兄弟が多くて楽しいと言われたら、響はいつでもおいでと言ってしまうのだった。

「響ちゃん…私、あの人いや」

暁がこっそり耳打ちしてくる。

「そんな怖い?」

もう暁の見目にも慣れてうるさく言うことは減ったようだが。

「違う…。響ちゃん最近ずっとあの人とばっか喋る!」

べーっと舌を出す妹に、吹き出すのを必死で堪える。

「やーだ、焼きもちだ」

「違うよ、事実だもん」

「じゃ、今度の日曜、暁に洋服選んでもらおう。姉ちゃんじゃ流行りが分かんないから」

そう言うと、自称スタイリストの卵はマスカラべっとりの目を大きく開いた。

「えーっ!響ちゃんマルキューの服着るのお!」

「すごすぎるのはやめてよー」

釘をさしておかないと、暁のようなスケスケピラピラの服は困る。すっかりご機嫌になった妹を見て、響も頬が緩んだ。


「マナミさんって恵ちゃんのどこが好きだったのー?」

兄弟の中では一番にマナミと親しくなった慧が尋ねる。

「あ、聞きたいそれ」

その日は暁も随分トゲトゲしい雰囲気を消した。

「うーん、今となっては過去なんだけどー」

「こいつ超失礼!なにこの上目線!?」

「入学式で恵は挨拶したのよねぇ。あの長い答辞をぺらぺらと、どんな人かと思ったら次の日から遅刻。実力試験は全部1位なのに授業はほとんど寝てるの」

「うっわ、きも!天才風きもい!」

「風じゃなくて天才なのよー」

はぁとマナミはため息をついた。背景にバラが見える。

「私はね、生まれ持った素質もあるけれど、それ以上に努力も怠らないの。勉学、美容、コミュニケ―ション能力?全て完璧なのは努力の賜物なの」

「さらっとすごいこと言ったぞ」

兄弟の声を代表して恵が呟いた。

「それを軽く凌駕する人っているんだって驚いたわぁ。やっぱりそういう人って目立つでしょ。群れる女子に一喝『興味ない』ってね!ゲイかと疑ったときもあったわー」

マナミの言葉に、恵以外全員が爆笑した。

「まぁ、お姉さまを絶大に愛してたからって今は分かるけどね」

「分かってたまるか」

「…本当気持ち悪い、恵ちゃん」

毒舌の慧が辛辣に斬り捨てた。

「でも響さんって不思議な方。母のような温もりを持ちながら庇護欲をそそるか弱さもあるんだもの。離れられなくなっちゃうわ」

響はお茶を吹いた。

「あ、ああ、ありがとう」

この文語口調どうにかならないのだろうか。マナミさんはとても丁寧に日本語を学んだようだ。


「ああ、楽しかったわ!今度はうちにもご招待させてください」

「きゃあ豪邸行きたいー」

「慧ちゃん、例のオーガニックの美容液あげるわ」

いつの間にそんな約束をしたのか、慧は大喜びだ。

「じゃ、今日は遅くなったのでタクシーで帰ります」

と、マナミは優雅に礼をとって、呼びだした車に乗り込む。その前に、

「響さん、Au Revoir♪」

と言って、軽く唇が触れた。


「ギャーーーーーーーーーー!!!」

住宅街に恵の断末魔の叫びが響いた。


Au Revoir、フランス語でまた会いましょう♪です。

ここへきてマナミが一歩リードですね(笑)

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