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24.突然の訪問者

恵が風邪をひいた。


「えーっ!嘘だぁ」

「メグ兄、体温計暖めたんじゃないの?」

日々の行いによる、妹たちの痛烈な言葉である。


「どれどれ、あら本当だ」

ベッドに横たわる恵の額を触ると38度ほどある気がした。

「何だろ?寝不足かな?恵、今日はこのまま寝ておきな」

弱々しく頷く恵に、布団をかぶせて看病の準備に取り掛かった。

4人も弟妹がいれば、看病も手慣れたものだ。それぞれ弱い季節と言うのがあり、慧は季節の変わり目、哉は冬、暁は春先に必ず風邪をひく。

恵が寝込むのは久しぶりのことだが、最近遅くまで勉強していたから体に疲労が溜まったのかもしれない。


熱冷ましシートと市販の風邪薬、それから天谷家恒例の飲み物を持って2階に上がった。


「恵、起きれる?タオル首に巻いておこうね」

病人には優しく、が響のモットーだ。

「お腹に少し入れて薬飲まないと」

「ん…」

牛乳と香草、生姜を煮詰めてハチミツと砂糖で甘くした、天谷家の薬湯を(ただのチャイ)手伝って飲ませてやる。

「お腹空いたら、うどん作るからね」

そう言って、寝息が聞こえるまで見守った。



「響ちゃん響ちゃん、私も飲む」

リビングに行くと暁がコップを持って待っていた。

「え?これを?いいけど」

注いでやると暁は機嫌良く部屋に戻った。その後ろ姿を見て懐かしい思い出がよみがえる。昔、暁は他の兄弟が風邪を引くと、響を取られることにヤキモチでも妬くのか必死で気を引いてきたものだった。本人は否定するが、今でもその名残が出るときがある。響はそっと微笑んだ。


恵はその後二日間寝込んだが、病院にも行き快方に向かっていた。


「響ちゃ~ん」

「はいはい」

声も出るようになってから、恵は1時間に1度は響を呼び出す。

「背中が痒い~掻いて」

「どこ」

「あと、熱測って」

「体温計でやんなさいよ」

「嫌だ!響ちゃんの手しか信じない!」

「……はい、平熱。恵、明日学校行きな」

「えーっ」

「えーっじゃない!」

「響ちゃん、背中が寒い!擦って」

…本当なんだろうか。こんな具合に響は一日潰されて行った。

翌日も駄々を捏ね恵は学校を休み、どうしてもモモ缶が食べたいと言うので響は仕方なく学校帰りにスーパーに寄った。



「響ちゃん!」

家の前で暁が血相を変えて待っていた。

「暁、どうしたの?」

「お客!てかあの女マジキチだよ。やばいのが来た」

「お客さんか」

暁の言葉が分からないのはいつものことだ。急いで茶の準備をしなきゃと駆け込んだ。


「響ちゃぁん…」

涙目の慧に出迎えられた。驚く間も無く、

「お帰りなさいませ、響さん」

後ろから背の高い黒髪美女―マナミが現われた。


「あら、お久しぶりです。すみません、留守にしてて。すぐお茶出しますね」

テキパキと動くと、マナミも微笑んで姿勢良く椅子に座った。

「ひ、響ちゃん、何で私の名前言ってたの?」

「は?」

慧が震えながら抗議してきた。

「はっ!!」

その意味に気付き、響はお茶缶を落とした。


響は以前、恵がついた嘘―ヒビキと言う名の女性と付き合っている―から逃げるため、マナミに慧だと偽っていたのだ。


「あの人、めちゃめちゃ怖いよー。早く恵ちゃんとこ行ってもらおうよー」

酷い目に遭ったのか、慧は響の背中に隠れた。

「マ、マナミさん、お待たせしました。どうぞ」

「ご丁寧にありがとうございます」

「今日は、あれですか?恵のお見舞いですか?」

「はい。でもその前に…」

マナミはニコッと微笑んだあと、切りかかるような目付きを向けてきた。

「ひっ…!」

「以前、お姉様のお名前はサトイとお聞きしたのですが、まぁ驚きましたわ。妹様も同じ名前だとか?それより、やはりお姉様のお名前がヒビキ様、とお聞きしたんですが」

どういうことでしょう、とまた柔らかく微笑まれ、響は背筋を凍らせた。

「すみません、誤解を招きました。私が姉の響です」

嘘を言っても仕方ない。響は堪忍して頭を下げた。

「べ、別に頭を下げなくても…」

マナミは響の予想外の行動に慌てた。

「原因はあのバカ弟です。全然知らなかったのですが、弟は私と同じ名前の彼女がいるって」

「は、はい!ずっとその彼女さんの束縛がすごくてケータイの番号は教えられないと断られていました」

ピシッと…今度は響の持つ湯飲みにヒビが入る音がした。

「他には?」

「そうですね、その彼女さんの得意料理とかの自慢を。家事が得意でいらっしゃっても英語が読めないとか」

「あらまぁ」

響は、今なら湯飲みを粉々にできると思った。

その様子に、後ろで怯えている妹たちとマナミも固まった。


「そうですか。でもそれは私であって私ではありません。マナミさん、あなたなら分かってくれますね?」

微笑みの中に携える怒りを察知したのか、マナミはぎこちなく頷いた。

「恵くん…は、響さんにとても懐いてらっしゃる」

「ご覧の通り、兄弟の多い家系です。後ろの妹達にまだあと1人います。両親を取られて寂しかった分、懐いてるだけだと思います」

どこまで特殊な環境を理解してくれるか分からなかったが、響はそう宥めた。マナミは漆黒の瞳を伏せ、少し沈黙が続いた。


そのとき、

「響ちゃーん、モモ缶買ってくれた?」

原因がへそをかきながらやってきた。

「恵!」

「げっ!成田」

「恵、お客様。そこ座りなさい」

大人しく恵は響の隣りに座った。

「恵、何日も休んで心配したのよ。これ授業のノートとプリント」

「どーも」

「ちゃんと言えっ!」

ボサボサの頭をはたく。

「…ありがとうございます」


「ねぇ、恵。ヒビキさんが彼女って本当?」

「嘘だよ」

さらっと認めやがった。

「どうして嘘なんか…」

「妄想くらい、いいだろ!」

恵は拳でテーブルを叩いた。

「はい?」

呆れて力が抜ける。

「俺の理想はこの響ちゃんなの!妄想は自由だろ、哲学者のJ.S.ミルも言ってるぞ」

「あの、血が繋がってないとか…?」

「正真正銘の姉弟です」

「当たり前だろ、目なんかそっくりだろ?首のホクロも一緒だ」

必死に見せようとする弟に、慧と暁はものすごく退()いた目を向けた。


「………帰ります、おご馳走さまでした」

ふらりとマナミはそのまま出て行った。

「響ちゃん!あいつに何かされたら言ってね」

「してくれればまだいいわ!」

あの様子じゃ、さすがに失望してしまっただろう。ようやくできた変態好きだと思ったのに…。響はがっくりとうなだれた。

「違うんだよ、あいつは俺と同じ匂いがする」

「私アノ女嫌いっ!塩まこうよ響ちゃん」

「あんな人に好かれる恵ちゃんって…やっぱ変」


ぎゃあぎゃあうるさい恵たちを無視して、響はまだ温かい湯飲みを片付けた。


いつもウィキ先生にはお世話になっています。当然ですがフィクションですのでさらっと流してください。

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