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20.幼馴染の定義

緒方は立っているだけで注目を浴びる。その緒方に手を握られている響は緒方以上の視線を一斉に向けられた。視線の中には珠美と那須の姿もあって、驚いてこちらにやってきた。


「響さん!」

那須が叫び、緒方を睨みつけた。

「…何してんすか」

低い声で、那須は二人の手を裂く。

「緒方…あんた」

珠美も緒方に威嚇する。

「あとで説明するから」

緒方がスッと待ったの手を珠美に向ける。


「珠ちゃん昨日ごめんね」

響が帰ったあと片付けは珠美がやってくれたらしい。

「響さん、俺には?」

「え?」

何で那須が出てくるんだ。後ろで緒方が吹き出す声がした。

「俺と約束してたじゃん」

ジロッと不機嫌な目付きをされ、響は慌てた。

「や、約束か。ごめんごめん、帰っちゃったからね」

「じゃあ埋め合わせして」

「するか、バーカ」

緒方らしからぬ言動に響は仰天した。

「ほら、天谷ちゃんさっきのこいつに言って」

「「さっきの?」」

那須と揃って怪訝な顔をすると、緒方は響の頭に手を置いて那須の方に向かせた。

「那須クンが天谷ちゃんのこと彼女って言ってたよ」

「え?」

那須を見上げると、ふいと視線を逸らされた。

「私が?何で?」

「天谷ちゃん彼女だったの?」

「まさか」

響が言った途端、珠美の顔が青くなった。

「だったら、何すか。先輩ならなれるとでも?」

「誰がお前に言うか」

二人の間に火花散ったような睨み合いが始まった。


頭痛でもするのか、頭を抱えた珠美がため息をついて響の肩に手を置いた。

「響、二人のうち彼氏にするならどっちがいい」

「ええ?」

どこからそんな話しになるのだ。二人に失礼じゃないか?顔を引きつらせると、男たちも響を凝視していた。

「な、な、何ですか」

「気になる。教えて」

「聞いてどうなるの?付き合うわけでもないのに」

「響さん、緒方先輩がどういう人だか知ってますよね」

「おい一年ふざけんなよ」

「事実でしょ」


やりにくい。非常にやりにくい。気の置ける後輩と、憧れの同級生じゃなかったのか?これじゃまるで恵が2匹…。


「し、慎がいい」


呼吸も止めた瞳が6つ。

慎一ならその場の冗談として流してくれるだろうし、響の逃げ道だった。

「あ、あんたそれ冗談で通らないわよ…」

「「……………」」

男性陣は絶句していた。

「冗談だよ」

「実際どうなの?相馬とは」

「幼馴染だって何度も言ってるでしょ」

中学からの親友は何を見てきたのか、呆れて返す。


「納得いかねぇ。全部話してください―昨日の詫びに」

那須の有無を言わせぬ剣幕に響は後退り、頷いた。

そこで始業のベルが鳴って、一時解散となり昼休みに洗いざらい慎一との歴史を話さなくてはならなくなった。





慎一とは腐れ縁もいいとこ、数歩の距離の家に住み、生まれた病院も一緒だ。幼稚園から今に至るまで同じ学校に通っている。

ぽんぽん生まれてくる弟たちが母のお腹に宿ったときから知っているくらいだ、響のことで知らないことなどないだろう。


一人っ子の彼は、恵たちを本当の兄弟のように可愛がったし、響の良き理解者でもあった。



『私、これからみんなのお母さんになる』

小学生になったばかりの夏休みに、響は打ち明けた。その頃母は仕事に復帰して、少しずつ手伝いの範囲も増えていた。

『えー?響の家もうお母さんいるじゃん』

慎一は不思議そうな顔で聞いてきた。

『そうだけど、お母さんこれからお仕事で家にいないって。いない間アキたちが可哀相だもん』

響は当時まだ3つになる前の暁をすごく可愛がっていた。

『アキちゃんは響がお母さんになればいいけど、響は?おばさんいないとき響のお母さんは?』

『いいの。私はお姉さんだから我慢できるの』

きっと子どもの響には顔に出ていたのだろう。それがまだ酷く寂しいことだと。慎一は暫く考えてから提案した。

『じゃあさ、響が寂しくなったら僕がお父さんになるよ』

『えー?慎がー?』

響の父は髭を生やしていたので、それを思い出し二人で爆笑した。そのおかげで寂しさは吹っ飛び、それ以上話すことはなかったが、響には唯一頼れる存在ができてとても救われたのだ。


それから慎が父親らしいことをするかと言ったらそんなことはなかったが、響が慣れない料理や洗濯に失敗してヒステリーを起こすたび、慎は体を張って慰めていた。

それは年とともに減ってきたが、廊下の一件は子どもの頃の習慣である。


長年響の隣りに慎一がいたのは間違いない。その親愛は成長すれば恋情と呼ぶのだろうか。意識することもなく、彼は慧の恋人になった。それでも慎一が特別な人には変わらない。言葉で表す方がずっと難しいのだ。




昼ご飯もそこそこに、響と何故か慎一も揃って冷たい6つの目に晒された。

「歴史って言っても、ほんとに生まれてからずっと一緒ってだけで」

「すげぇ言い方だな」

緒方が呟く。

「…俺を巻き込むなよ~」

慎一が泣き声を上げる。

「だって何て言えばいいの?」

「一緒に風呂入ったとか中学まで同じ布団で寝てたとかは止めといて」

「分かった。じゃあこの間の…」

「「「まだあんのかよ!」」」

響と慎一はビクッと肩を震わせた。しまった聞かれてたのか。お茶の間もびっくりの突っ込みを入れられ、響と慎一は顔を見合わせた。疚しいことがないだけに何と言えば心証が良くなるのか分からないのだ。


「…まぁ、疑っといてなんだけど相馬も案外ボケボケだしこんな感じよ、昔から」

中学から二人を知ってる珠美が緒方たちに説明した。

「『も』って何よ」

一緒くたにされムッとする。

「何か突っ込むだけアホらしくなった」

「俺も…休戦にしません?先輩」

脱力した二人が嘘のように穏やかになった。


「あ」

暫く黙って様子を見ていた慎一が手を打った。

「緒方たちは、俺が響と付き合ってるって疑ってんだろ?」

今更なことを言い出す響と似て否なる者に目を向ける。

「それはないよ。だって俺、響の妹と付き合ってるから」

「あ、そうだ。それ言えば良かった。慎は彼女が―」

「「早く言えよ!!」」

ハリセンがあったら確実に頭をはたかれる勢いだった。

でも、それは珠美だって知ってたから同罪じゃないのか?横目で睨むと、珠美もすっかり抜けていたらしく明後日の方向を見ながら顔を逸らされた。

こんなオチですみません。。

次はそんな慎と妹・(さとい)の馴れ初めです。

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