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18.珠美見聞録

親友の珠美視点です。

由良(ゆら)珠美は混乱している。


まず、今の状況を説明したい。

珠美は教室で食事の済んだお皿とカップを片付けようとしていた。制服がコスプレに見えるくらい妖艶で有名な小橋沙織が座っていた席だ。彼女は緒方と付き合っていると噂されるほど緒方ファンの中で最も親しい位置にいた。

その彼女が、レジの前で顔を真っ赤にして唇を噛みしめている。ネイルが施された指も小刻みに震えているのが分かる。

それは緒方がハッキリと口にしたから。―『飽きた』と。


ざわついてた教室も水を打ったように静かになった。珠美とて、開いた口が塞がらない。

このクラスにいた者は皆聞いていただろう。そのうち、視線に気づいた沙織が逃げるように出て行った。と言っても泣き乱れるなんてことはなく、酷くプライドを傷つけられたようにツンと顎を逸らして、だが。

問題の本人は仕事も沙織も投げ捨て、教室を出て行ってしまった。委員長が慌てて呼び戻しに行ったがもう姿はなかったと言う。


…まさか。

珠美は顔を引き攣らせてポケットにあるケータイを開こうとした。『響が憧れてる?男が家に行くかもしれない』と通告するか迷ったのだ。先ほど珠美は親友の弟へ似た内容のメールを送信した。憧れてるではなく、後輩の、と言う文面で。もう一度送るのはためらわれたし、珠美も信じられないのだ。あの見境いなく女を誑しこんだ緒方が、響の家に見舞いに行くか?

それは何事にも動じないと思っていた珠美を絶句させるほどの衝撃だった。さすがに教室の面々はそこまで読んではいないようだった。しかし、珠美は那須と委員長の会話に耳を立てていたし、那須が響を見舞に行くだろうと予想していた。その那須を追っていくように、駆けて行った緒方。

珠美の目にはあの緒方が焦って響に会いに行くように映ったのだ。


珠美は頭を振って、これ以上考えることを止めた。あの暴走弟からの抗議は着信拒否にしておこう。出来ることは協力したのだ。全てはいたいけな親友を思ってこそ、あとは響に任せようと珠美は仕事に戻った。




響たちが通う高校の文化祭は、学生のみで後夜祭が行われる。体育館では軽音部によるライブ、校庭ではキャンプファイヤーをする。そのキャンプファイヤーには特別席と言われる場所があって、ただの芝生の一角なのだがそこに何故かカップルが集まるのだ。男女の距離が縮まる文化祭の告白のメッカでもあり、恋人同士の語らい場所でもあると代々言われ続けている。


さて、恋愛のれの字も見せなかった響になかなかの好青年が現れた。一学年下の那須だ。響から良く話す後輩ができたと聞いていたし、実際会ったとき珠美恒例の脅しにも怯まなかった男だ。何より、響の家族構成も知っている。それだけ心を許している証拠だと思った。


あまり齢の変わらない弟妹たちの親代わりになり、家庭を第一にしている響はどこか世間ずれしていて学生の中では浮いていた。ぬくぬくと育った珠美にはアカギレの手も気にせず5人分の弁当をこしらえる響に最初とても驚いたものだ。それを自慢にも愚痴にも出さず、嘆くこともない姿に珠美は感動し、親友が自分だけの幸せを見つけられるまでは外敵から守ろうと決意したのだった。


『先輩、俺、響さんを後夜祭に誘いたいんですけど』

彼なりにアプローチしているらしいが一向に気付かない響に郷を煮やして、那須は珠美を訪ねてきた。

『響は後夜祭があることすら知らないよ』

残酷な現実を伝えると、那須はやっぱり…と頭を抱えた。響は学校行事とは言え、お腹を空かせた弟妹たちがいると、自由参加のものは一度も顔を出していなかった。なので彼女に限っては後夜祭=告白には繋がらない。下手すればそんな時間はないと断られるかも知れなかった。

『調理の方は人足りてなくて響は休憩いらないって言ってたけど、私からお願いしてみるから誘ってみたら?』

『は、はい!ありがとうございます』

目を見開いて嬉しそうに那須は頷いた。背の高い珠美でも見上げるほどの背丈だが、素直で可愛い奴じゃないか。

『挫けないでね、どんなことがあっても』

『ひ、酷ぇ』

酷くもなんともない。これは珠美なりの忠告なのだ。頼む、可愛い後輩。どうか最後の難関を突破してくれ。珠美は心で呟いた。


本人は知らない学校行事でも、何故か弟は知っている。粘着質たっぷりの弟、恵だ。

恵はここのとこ頻繁にメールを送ってくる。『響ちゃんはメイド服を着るのか』『自由時間はあるのか、誰と過ごすのか』『まさか後夜祭に出て告白なんかされないだろうか』などなど。

本人に聞け!と言いたいが、その本人が分かっていない。嘘が下手な彼女は賢い弟に『分からない』ばかり口にするのだと思う。そして弟の危惧してる事態はやってこようとしている。

珠美が響の幸せを願う気持ちは、長年連れ添った弟も一緒だと言う。姉には世話になったから、ちゃんと姉だけを大事にしてくれる人と一緒になってほしい、だから珠美の目に適わない者は排除してくれ。あと逐一報告してくれと高校に入るとき懇願された。そのとき背だけは高くても幼さの残る恵に、姉思いの良い奴だと感心した珠美はその協定を呑んだ。…呑んだのだが、最近幾分逞しくなった弟はどうも様子がおかしいと思っている。あいつ、響の幸せを望んでたんじゃなかったっけ?今のままだとどんな男でさえ許すものかという剣幕である。

いつかガツンと言わなくてはと思っているものの、頭だけは回るからか珠美の尋問をするするとかいくぐり、気付けば那須のことも喋らされていた。


『…そいつなら響ちゃんに合うとでも言うの』

年下のくせに恐ろしい声を出してくる。

『良い奴だよ、しっかりしてるし恵くんたちのことも知ってるよ』

響あこがれの緒方とは大違い、と言おうとして珠美は慌てて口を押さえた。

『ああそう…。分かった』

意外にも恵はあっさりと食い下がった。それ以上聞くこともなく電話は切れた。

だから珠美は、那須が響にいつ告白しようとしているか言っていない。


でも、あの恵がこのまま大人しく黙っているとは思えなかった。




響はお人好しがたたって、調理担当を引き受けてしまっていた。珠美も手伝ってやりたいが料理オンチなため何もできない。一人持ち帰り仕事をして、日に日にやつれた顔をしていた。

当日なんて緑のような顔色をしてきて、聞くと徹夜だと言う。これじゃ那須の約束は覚えていないかもと同情し、仮眠を進めた。少しくらい寝れれば回復するかもしれない。


『こんにちは!僕、天谷響の弟です』

珠美が休憩しているときに、元凶はやってきた。しかも妹の慧を連れて。

『なっ、何できたの恵君、慧ちゃん』

『あー!珠ちゃん。メイド服可愛い~』

どこか外れている妹は珠美の形相に気付かず、その間に恵は委員長に響の早退を掛け合ってしまった。

『ちょっと、響寝てるよ。寝かしとけば?』

『いや、響ちゃん一度寝ると起きないから連れて帰っとくよ』

涼しい顔をして恵は言う。慧はいつの間にか、スコーンを口にしていた。

そうして止める隙もなく、颯爽と弟は響を連れだしてしまったのだった―。


間違った方向に成長している恵と言い、報われない那須に、おまけにアノ緒方に囲まれて響は大丈夫なのか…珠美は一人震える体をさすった。

今更ですが、皆さま兄弟の名前読めているでしょうか?似たような漢字でルビも1話にしかふらず…。誰がどれと混乱させていないか…力不足ですみません。

少しずつ特長出せればと思っています!

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