森の家で楽しむ
夏の合宿で学年全員、森の家に行くことになった。
森の家とは、田舎の山奥にある施設で、自然と触れ合うのをモットーとしているようだった。
例えば昆虫採集とか、ラフティングといって、川で遊んだりとか、色んな行事があるようだった。
「私達、何をするんだろうね?」
バスが到着し、私は不安そうに言う。
しかし彼は動じないようで、
「自然と遊ぶなら、狭い教室で過ごすよりも楽しみだ。それとも、お前は勉強したいのか?」
「そんなわけないわよ!! 私だって…その、何するのか、気になって聞いただけだから」
「そうか。よし、行こう」
彼に手を繋がれ、バスから降りる。
荷物を手に持ち、森の家の玄関前に並ぶ。
「よろしくお願いいたします」
引率の先生が挨拶したので、私達も挨拶を口にする、
「私、支配人の木村と申します。よろしくお願いいたします」
髪をオールバックにし、スーツを着た男性が挨拶してくる。
見た目はどちらかと言うと、厳しい感じで、目つきも鋭かった。
誰の指示も受けない、狼みたいなタイプの人だなと、私は印象づける。
彼はどうだろうと見上げると、木村さんを見て興奮しているようだった。
ライオンさんが珍しいと思っていると、木村さんが続ける。
「荷物はコテージに運んでください!! よろしくお願いいたします」
木村さんの指示に、皆、動き出す。
バスの中はエアコンが効いていて、快適だった。
しかし、外は少し暑さを感じるくらいで、普通に過ごすよりは、なめらかな雰囲気だった。
田舎でも山のほうなので、風がふわりと舞い、鳥がそれを受けて、大きな翼を広げていく。
心地良いなと思っていると、木村さんが言ってくる。
「では、早速、そば打ちをしましょう」
手を大きく叩き、皆の注目を集める。
私は彼を肘でつつくと、
「お前、大丈夫か?」
と逆に聞かれ、
「何が?」
「その、そばなんて作ったことがないよな」
「そうだね。でも楽しそう」
私は張り切ってジャンプすると、場所を移動し、広間に集まる。
和紙の有名なところなのか、和紙細工がたくさん飾られている。
それは温かみがあり、自分の家にいるように、身体を緩める。
それからそば打ちなのだが、彼と班が分かれており、スタッフがやり方を教えてくれる。
「まず、そば粉を水でなめらかにしないと」
言われた通り、私は緊張気味にそば粉に触れる。
まるで砂時計のように、さらさらしており、気持ちが良かった。
そのうち水を加えていくと、固まりだし、スタッフの指示で練っていく。
しばらく練ると、別の人と交代し、側で見ている。
すると視線を感じ、彼のほうを見る。
彼に手を振ると、彼も手を振り返してくれる。
順調にいっているらしく、機嫌が良いようだった。
「早く戻れ」
と口パクしてきたので、「はい!!」と1つ跳ねる。
ライオンさんは楽しそうだから、放っておいても大丈夫かと思い、自分の班に集中する。
「さて、丸めたら、次は伸ばします」
板と棒が用意され、皆、初体験のことに、固唾を飲んでいる。
私は好奇心が強く、班の皆に聞く。
「私がやってもいい?」
どうぞと手を差し出されたので、私はチャレンジする。
「なるべく平均的に伸ばして…」
スタッフのアドバイスを聞きながら、手を動かしていく。
そば粉はクッキー生地の大きなヴァージョンみたいに、均一に広がり、ふうと息を吐く。
「じゃあ、包丁で切りましょう」
「それ、私がやりたいです!!」
私はわくわくして、包丁を手にする。
そばの細さって、どれくらいだったっけと思いながら、丁寧に切っていく。
同じ幅にしているつもりなのだが、やはり素人なので、ばらつきができるが、誰も文句を言わなかった。
「よくできました。あと茹でるのは、私達がやるので」
スタッフはそばを回収し、奥へ行ってしまう。
私はお腹がぎゅーと鳴り、恥ずかしかったが、手作りのそばが楽しくてしょうがなかった。
彼を見れば、腰に手を当てているので、自信があるようだった。
私が親指を立てると、彼も手を振ってくる。
それから待つこと、しばし。
「茹で上がりましたよ!!」
スタッフが手にざるを持ってきて、そばを置いていく。
香りがふわりとし、すでにいつも食べているそばとは違うと分かる。
木村さんが手を叩き、皆の視線を集める。
「皆さん、自分で作ったそばです。努力して手に入れるものは、何でも美味しい。普段と違うそばを五感で楽しんでください」
その言葉が終わると、
「いただきます」
とそれぞれが食べ始める。
私は恐る恐るそばをつゆにつけ、一口、すすると、目を大きくする。
思った通り、市販のものとは比べものにならなかった。
香り、食感、見た目、全てにおいて、贅沢だと感じ、私は次もすすると、満足そうに頬を緩める。
あちこちでそばをすする音がし、まるで合唱のようだった。
皆、笑みを浮かべ、幸せな一時だった。
私は彼を見ると、豪快にすすっていた。
オーラが綺麗なので、美味しいんだなと伝わってくる。
「あ、美味しかった!!」
私は満足そう腹を擦ると、木村さんが、
「次は少し休んでから、外に出ましょう」
と告げたのだった。
何が始まるんだろうと、うきうきする私。
こっそり彼の元に向かうと、嬉しそうにハイタッチする。
「そば、美味しかったね」
「そうだな。味が全然、違う」
「うん!! 次も楽しみだね」
「おう」
私は彼と笑うと、しばらく身体を崩して、力を抜くのだった。




