1.ストライキを起こすサンタクロース(改訂版)
これも、官僚の描写が長すぎる気はする。ただ、国と地方の違いがあるから、普通の小説なら、出向して来た主人公、山口が財政破綻をどうにかしようと考えた。の一文で説明しないと思うんですね。
私の友人は、小説家や映画監督がたくさんいます。で、彼らは、官僚の話も書く。でも、実際にはありえないことなんですよ。
ゴジラが、日本に上陸して来たら、まず、自衛隊を出す根拠法がないから、国会が止まる。で、国会で審議している間に、永田町がゴジラに焼かれて終わり・・・。
踊る大捜査線の話を、政治本なんかの読者にはよくするんですが、「事件は会議室で起きていない」。そうなんですが、警察庁が、財務省から予算を貰うのに失敗したら、青島さんの給料は支払えない。
(青島さんの給料は都庁が支払ってるけど)。警察は国と自治体、両方の予算で動くから、「会議室の戦い(予算折衝)」に敗けたら、「事件が起こっているけど、パトカーのガソリン代がない」とかそういう話になる。
30市町村が消防本部がないんです。理由は2つあって、1つは、自前で消防本部を維持するお金がない。他の自治体に消防を依頼したくても、毎年、負担金が必要になる。この負担金が税収不足で支払えない。だから、火事は消防団が消す。救急車は救急車両の許可が取れないから、役場の車(救急車と同型が多い)で、法定速度で病院まで役場の公務員が運ぶ。
だから、「事件は現場で起こっているんだけど」、「予算がなければ警察官を現場に派遣できない」
あと、キャリアは原則、捜査はしません。刑事1課長もノンキャリです。殺人とか、派手な事件にキャリアを入れても、役に立たないでしょう。だから、捜査指揮なんかしません。
現場に出てくるのは、「政財界人を逮捕する」捜査2課、インテリが犯人のことが多い公安。
インテリとか、相手が権力を持っている場合は、キャリアを出す。それ以外の現場には、研修的な意味で刑事1課にも新米の20代の警視の管理官いますけど、「現場指揮なんかさせませんよ」。
法律を作る、国会答弁を作る。予算を貰う。この3つの仕事のためにキャリアはいる。現場に出しても、どこの役所でも邪魔でしかないから・・・。
政治家でも、大物議員を逮捕する時は、首相秘書官(警察官僚)から、首相に確認を取る。
で、政治的圧力で捕まえるのが、難しい場合、与党の敵対派閥に相談する・・・。
ロッキード事件で、田中元首相を逮捕出来たのは、政敵の三木武夫が総理大臣だったからです。
ちなみに、田中角栄の金権政治をマスコミを使って煽ったのは、福田赳夫。ところが、三木首相が、田中潰しを図った時に、田中派は、福田派と手を結び、「事件解明派の三木首相を退陣に追い込み、福田を後継首相にする」。
政治家は、逮捕しても、服役して選挙で勝てば、報復してきますよ。
鈴木宗男さんが逮捕された時、外務省以外の役所は、復活する可能性があるから、粗末に扱わなかった。で、外務省は、お公家さんだから、鈴木宗男はもう、政界に戻れないものとして扱った。で、逮捕されて、服役して、選挙に勝ったでしょう?そのあと、大量に質問主意書を外務省にぶつけて、業務妨害してましたよね?
そういうドロドロがあるから、官僚小説というのは、わかりにくいかな?とは思います。
「山口さん、サンタが働きたくないと言ってストを起こしています」
細田美代が眉をひそめて、内閣官房副長官付参事官兼申路市副市長心得の山口望に報告をした。
細田美代は、北海道の札幌にある国立大学を卒業した。それから、北海道の申路市役所で働き始めて5年になる。細田美代の上司である山口望は、東京の国立大学の経済学部を卒業した32歳の女性官僚である。
細田の報告を受け、いつものように呆れた顔で山口は眉をひそめた。
「また、サンタクロースがごねているの?」
山口は、サンタクロース振興課を出ると、昭和時代に建てられた鉄筋コンクリートの古い市庁舎の廊下を歩いていく。
「さて、サンタクロースをしばきにいくか」
足早に歩き始めた山口の部屋履きのサンダルが、「ぽこぽこ」と、緊張感のない間延びした音を奏でる。
山口に同行する運動靴を履いた細田の足音は、静かに古い市役所の庁舎の廊下を軋ませる。山口は、白いパンツスーツ姿である。申路市に国から出向してから延ばし始めた髪は、肩にかかっている。山口は、すらりとした体形の女性である。細田は、少し肉付きが良く、ゆるふわ系のお嬢様のような容姿をしている。
2人が歩く市庁舎の廊下には木漏れ陽が入って来る。ガラス窓から見える市庁舎の中庭には、申路市の泉田市長が植えたラベンダーが、市長お手製の温室の中で、一面に咲いている。雪で枯れないようにビニルハウスを増築し続けた結果、巨大なラベンダー畑が市庁舎を取り囲む形で設置されている。この地域では、桜のお花見は、できないが、年がら年中、市庁舎を取り囲むビニルハウスのどこかで、真冬でも、ラベンダーを見ることができた。泉田市長が、順番にラベンダーが咲くように管理していたからである。
山口と細田が向かったのは、市庁舎の離れにあるサンタクロースの待機室である。この待機室も泉田市長や市役所の守衛である太田が、修理をしてサンタクロースの待機室に改造した木造のぼろ小屋であった。
「日本人は、労働者の人権を尊重しろ!」
おとぎ話のサンタクロースのように小太りで白髪の初老の男性が一人でストライキをしていた。
山口は、一人で抗議活動をして、駄々をこねている男性の顔を一瞬だけ、じっと見つめる。それから、床に座り込んでいる男性の前にしゃがみ、いつものように怒りを抑えつつもあきれ顔で慇懃無礼なくらいに丁寧な口調で日本唯一の公認サンタクロースである太田に話しかける。山口は官僚という仕事柄、あまり職場では感情を表に出さない。だが、太田相手には、冷静な山口も感情を露わにすることが増えた。
「太田さん、あなたは日本人です。北欧でサンタクロース研修を受けてきただけのただの日本人。ここは、日本です。日本のルールに従ってください」
ゆっくりと、子供に諭すように山口は床に座り込んでいる守衛兼日本唯一の本物のサンタクロースである太田和紀に笑顔で話しかける。今日は、疲れているのか、それとも殺人的な量の仕事を抱えているせいか山口望の目は笑っていない。
山口の横にしゃがみこんだ細田が、山口の耳元で呟く。
「山口さん、笑顔が逆に怖いです・・・・。」
本省から出向して来た山口にはっきりと指摘をしてくる5歳年下の山口直属のただ一人の部下、細田のことを山口はとても愛おしく感じていた。太田は、山口達のことを意に介していないのか、床に座ったまま、しゃべり続ける。きっと暇なのだろう。
「日本人は働きすぎだ。過労死するぞ。サンタをいたわれ」
待機室には、鼻をつくような、シンナー臭がする。「スト中」と書かれたプラカードの横には、太田が使ったペンキ缶が置かれている。
山口が淡々と諭す。
「太田さん。これ、市の備品ですよね。サンタクロースの自称組合活動に使うのは止めて頂けますか?。そもそも、組合活動をしたいなら、組合の設立届を市に提出してください」
太田が反論しようとしたが、山口が遮る。
「北欧も、フィンランドも組合の設立届は必要です。両方とも、法治国家ですから。まあ、ラップランドがどうなっているかは知りませんけどね」
山口は、細田が「よいしょ」と待機室のパイプ椅子を持ってくると、太田に座るように促した。細田は小さい。初対面の細田を見て、「コロボックル」的可愛さを感じたことを山口は懐かしく思い出し一瞬だけ感慨にふける。
「サンタクロースは、年に1回しか働いてないわけじゃありませんよね?」
満面の笑みを浮かべた山口の詰問に対し、
「世界中の子供達に夢を与える仕事じゃぞ。しかも、今はふるさと納税の返礼品人気1位(当社比)」
「ふるさと納税のことは感謝しています。おかげさまで、道庁が他の自治体にもサンタを貸せと言ってきましたよ」
山口と太田のやり取りを、いつものことだからと傍観していた細田が声をあげる。
「ええ、サンタを貸しちゃうんですか?市の貴重な財源ですよ。山口さん、反対してくださいよ」
「細田さん、心配しなくても大丈夫よ。北欧のサンタクロース協会とフランチャイズ契約ができるのは州政府単位で1市町村だけなのよ。日本は州はありませんけれど、少なくとも北海道内ではサンタクロースのフランチャイズ契約ができるのは申路市の1自治体だけですから」
「それなら、青森県や秋田県ならサンタクロース協会とフランチャイズ契約ができますよね」
山口は、真面目な顔で細田が答えると苦笑いする。
「そうですね。あちらには、ナマハゲやイタコがいますから。ナマハゲや恐山のイタコがサンタクロースと共存ができるのであれば契約もできるでしょうが・・・。それよりも、太田さん、来月は11月のかきいれ時です。トナカイやソリの点検をしてください。12月は忙しくなりますから、今は大目にみます。12月になってからもそんな勤務態度だと物理的に大怪我をしますよ」
正直、サンタクロースの飛行の仕組みは山口にもまだ理解できないでいる。いや、理解すべきものではないのであろう。自動操縦でトナカイがソリを引いているのなら、安全なのかもしれない。トナカイの自動操縦という概念が、山口の常識を崩壊させるのだが・・・。いや、それ以前にトナカイが空を飛んでいることが摩訶不思議な事象である。サンタクロースが操るトナカイのソリは、この申路市で実証実験を細々と行っている国土交通省の自動運転の完成形のレベル5、操縦者を必要としない完全な自動運転装置といえる。
AI搭載の自動操縦飛行機、ソリとトナカイ、それがサンタクロースの移動手段である。
米国やAIを開発する多国籍企業、大国の軍需産業、きな臭い人々がその仕組みを血眼になって調べていた。
山口望は、国から自治体への出向職員である。申路市に出向している山口は、来年の春には、派遣元である国土交通省に復職するだろう。少しでも山口と話をしたいのか、最近、
太田は駄々をこねることが増えたように細田は感じていた。




