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実らずの樹  作者: 朽九斎
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外の世界

朝靄に包まれた村の境界を越えた瞬間、六人の世界は一変した。


足元に広がるのは、見たこともない荒涼とした大地だった。

ごつごつとした岩が不規則に点在し、その隙間から申し訳程度に雑草が顔を覗かせている。

曇り空の下で、すべてが灰色がかって見えた。


「うわあ……」

ネネネが感嘆の声を上げる。


「本当に外の世界って、村と全然違うんだね」


六人は並んで立ち、しばらく言葉を失っていた。

これまで彼らが知っていた世界は、枯れ果てているとはいえ、まだ人の手が加わった場所だった。

しかし、ここは完全に手つかずの自然だ。


「さあ、行こう!オアシス探索隊!」

シェドが最初に歩き出した。

リーダーらしく先頭に立つのが彼の役目だと思っている。


「んで、クワレン。どっちが北だっけ?」

「え?えーっと……」


クワレンが空を見上げ、太陽の位置を確認しようとするが、厚い雲に遮られて判然としない。

それでも彼は自信ありげに腕を伸ばした。


「あっちの方角だよ。間違いない」

実際のところ、彼の判断も曖昧だったが、誰もそれを疑わない。

クワレンが一番物知りなのだから、きっと正しいだろう。


六人は縦に並んで歩き始めた。

シェドが先頭、その後にクワレン、ネネネ、ノッカ、フージィ、そして最後尾にコタという順番だ。

最初のうちは、すべてが新鮮で楽しかった。


「あ、変な形の岩があるよ」

「こっちには穴の開いた石がある」

「この雑草、村にはない種類ね」


みんなが口々に発見を報告する。

でこぼこした道も、まるでアスレチックのようで面白い。

岩から岩へと飛び移ったり、バランスを取りながら歩いたり。

普段の単調な村の生活では味わえない刺激だった。


「私たち、本当に冒険してるのね」

ノッカが嬉しそうに言う。


「うん! このまま行けば、きっとオアシスが見つかるよ」

ネネネが弾んだ声で答えた。


しばらく歩くと、振り返ってももう村は見えなくなっていた。

子供たちにとっては驚くべき距離を歩いたような気がする。

実際には、大人の足なら一時間程度の道のりだったが、彼らには大冒険だった。


「すごいね、こんなに遠くまで来たんだ」

コタが少し息を切らしながら言った。

彼は六人の中で最も体力がなく、既に疲れの色を見せ始めている。


「まだまだ序の口だよ」

クワレンが得意げに言うが、実は彼も結構疲れていた。

背負った荷物が思ったより重い。


「休憩する?」

フージィが提案すると、みんなが頷いた。


適当な岩を見つけて腰を下ろす。

水筒を取り出して、少しずつ水を飲んだ。


「節約しないとね」

ノッカが言うと、みんなが頷く。


七日分あると思っていたが、実際に歩いてみると意外に喉が渇く。


「でも、大丈夫でしょ」

「危なくなったら引き返せばいいしね」


そんな会話をしている時、コタが急に振り返った。


「あれ? 今、何か動かなかった?」


六人が一斉に振り返る。

しかし、そこには岩と雑草があるだけで、特に変わったものは見えない。


「どこ?」

と、ネネネが聞く。


「あの岩の陰……何か黒い影が動いたような……」

コタが指差すが、そこには何もない。


「気のせいじゃない?」

フージィが冷静に言った。


「そうよ、きっと風で草が揺れたのよ」

ノッカも同意する。


「でも、確かに見えたんだ……」

コタは不安そうに呟いたが、他の五人は気にしていない。


実際、風も吹いているし、見間違いということもあるだろう。


「あんまり神経質にならない方がいいぜ」

シェドがなだめるように言った。


「そうそう。せっかくの冒険なんだから、楽しまなきゃ」

ネネネが明るく同意する。


コタは渋々納得した。

確かに、みんなが言う通りかもしれない。

でも、心の奥で小さな不安が芽生え始めていた。


休憩を終えて、再び歩き始める。

午後になると、雲が厚くなってきた。

陽射しがないため、それほど暑くはないが、何となく薄暗い。


「雲行きが怪しい」

フージィが空を見上げて言った。


「雨、降るかな?」

ノッカが心配する。


「降らないさ!」

シェドが根拠もなく断言した。

相変わらず楽観的だが、実際のところ雨具は誰も持っていない。


歩き続けているうちに、みんなの足取りが少しずつ重くなってきた。

最初の興奮が薄れ、現実的な疲労が蓄積している。


「まだかな、オアシス……」

コタが弱々しく呟いた。


「まだ一日目でしょ」

クワレンが呆れたように言う。


「でも、もう結構歩いたよ」

「五日の予定なんだから、今日着くわけないじゃない」


そんな会話を交わしながらも、歩みは続く。

だが、誰の心の中にも、薄っすらと不安が忍び込み始めていた。

思ったより疲れる。

思ったより遠い。

思ったより心細い。

それでも、まだ希望の方が大きかった。

仲間がいる心強さと、新しい発見への期待が、彼らを支えている。


夕方になる頃、ちょうど良い場所を見つけた。

大きな岩の陰に、子供六人がやっと入れるような小さな洞穴があったのだ。


「おっ!ここ、いいじゃん」

シェドが満足そうに言った。


「天然の宿泊施設ね」

ネネネも嬉しそうだ。


六人は洞穴の前に荷物を下ろした。

思ったより重労働だったが、みんな達成感を感じている。


「今日は何キロくらい歩いたかな?」

ノッカが聞く。


「十キロは歩いたでしょ」

クワレンが自信ありげに答えた。


実際には五キロ程度だったが、子供たちには十分な距離に感じられる。


「明日も頑張ろうね」

ネネネが希望に満ちた声で言った。


「ああ。きっと明日は、もっといいことがあるさ」

シェドも同意する。


六人は洞穴の中で身を寄せ合った。

寝具はないが、互いの体温で暖を取れば何とかなりそうだ。


「おやすみ、みんな」

「明日は絶対、オアシスに近づけるよね」

「楽しみだなあ」


口々に希望的な言葉を交わしながら、子供たちは眠りについた。


しかし、洞穴の外では、何かが静かに蠢いていた。

黒い影が岩の間を縫うように移動し、やがて闇に溶けて消えた。


まだ子供たちは気づかない。

本当の試練は、これから始まるのだということを。

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