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1 ラース、判断に迷う

 四人はグーの部屋へ集合した。

 ユイハルが浄化したものは、マナをため込んだ梅の枝が、長い年月をかけて炭化した霊物だった。

 しかし、百年のあいだに邪神のマナが染みつき、もはや破棄するしかない代物になり果てた。

 そのはずだった……。


 今は、象牙のようにつるりと光り、ラースが触ろうとすると反発するほど、神聖力をまとっている。


「ユイハルのマナで、さらに変質したように見えるが、私にはこれが使えるかどうか判断できなかった。グーはどう思う?」

「ふむ……。確かに、邪神の影響がかなり薄らいだようじゃのう……」

 

 グーはじっと素材を見つめ難しい顔をしている。

「ユイハル、おぬしいったい何をしたんじゃ?」

「え、別に変なことはしてないよ。これの元の姿が気になって……、想像しながらマナを込めたら、こうなった」

「ユイハルのすることだからな」

「そうじゃのう」

「なんだよ、その顔」


 ユイハルは不服そうだが、そもそも神聖魔法の使い手というのが珍しいものなのだ。

 それに彼には実績がある。変化したての幼獣であったとはいえ、魔獣を玉に変えた実績が。

 

「僕にも見せてください」

 ミケが背伸びでのぞき込んだ。グーが普通に手渡したので、害はないと判断したのだろう。ミケが目を丸くして象牙色の枝を矯めつ眇めつするようすを、グーはほほえまし気に眺めている。


「それで、どうだ、グー」

「何とも言えんのう。完全浄化ともいかぬようだし、わずかに残っている邪神のマナを取り除ければ、あるいは……」

 グーの懸念は、やはりわずかに残る邪神のマナのようだ。

 ミケが小さくうなずいて呟いた。

「これが使えるようになれば、素材集めがギュッと短縮されますね」


 ラースはじっとユイハルに視線を向けた。

 何も言っていなかったのだが、彼はたじろいだようにわずかに身を引いた。

「わかったよ! 他のもやってみる」

「僕も、なんとか邪神の成分を取り除けないか実験してみます」


 まじめな二人があくせく働く間、ラースはカピバラになって温泉でぬくぬくしていた。


 そうして一か月がたったころ、邪神封印の準備が整った。

 ユイハルがついに、素材の完全浄化に成功したのである。それは、結界の起点に置く触媒として使われることとなった。


 ミケが錬金術で作ったインクでグーが巨大な魔法陣を描いていく。

 その間、邪神が逃げ出さぬよう、ユイハルと人間の姿のラースで見張った。


 封印場所は、前庭。


『ま、待て、おまえたち本気なのか。我は役に立つのだぞ!』


 邪神の訴えを聞き、ラースは静かに考えた。

 確かに家事方面には役に立つ――ラースよりも。

 だが、問題ない。


「そなたの知識など、ユイハル一人いれば済む話だ」

「おい、俺はずっとおまえの面倒を見るわけじゃないんだぞ」

「そうなれば、元の暮らしに戻るだけのこと」

 そう、カピバラとしてゆるゆると。

 だが隣でユイハルは頭を抱えた。

「あー! なんて脅しだ!」

 別に脅した覚えはない。


「緊張感がないのう」

 そういうグーもどこか上の空だ。きっと、仕事のあとの一杯のことでも考えているのだろう。

 神妙な顔をしているのはミケだけだった。


「邪神さん、とうとうお別れですね、お世話になりました」

 ぺこっと頭を下げている。

『ぐぅ! 心がこもっているだけにひどい! こんなところに封じたら、洗濯物が干しづらくなるぞ』

「日差しの角度を計算しましたが、ここは案外邪魔になりませんから」

 ニッコリ笑って追い打ちをかけるミケ。

 幼いからと侮れない。邪神を追い詰める手腕は見事である。


『やめておけ! 近々新たな邪神が立つ。我にはわかるのだ!』

 苦し紛れの噓か……?

 ラースはかすかに眉を寄せる。

 反対に、グーは面白そうにニヤリとした。

「事前に場所がわかれば、倒すのも楽になるのう」

『そうだろう! 我は役に立つぞ!』

「さて、それをどう信じたものかどうか」


 グーでは相手が悪いと察したのか、邪神が次に声をかけたのはユイハルだ。


『ユイハル、おぬしにならわかるだろう、我にもう害意などない!』

「騙されるなよ、ユイハル。そなたもコレが少女を襲ったところを見ただろう」

『害するつもりなどなかった! ただ少しだけマナを借りようと』

 

 邪神がラースの言葉を遮るようにわめく。

 ユイハルはうつむいていて黙りこくっている。

 ラースは内心、少し焦っていた。

 効率的だからと、ユイハルに頼りすぎていた。

 邪神に子守唄を歌う男だ。ひょっとするとほだされてしまったのかもしれない。


「ユイハル――!」

 ラースが呼びかけたその時、ユイハルはゆっくりと視線を上げた。

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