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訳あり王子はカピバラライフを満喫中!~邪神を封印したのだが呪われて、追放されたので温泉を作ることにした~  作者: 山端のは
邪神、逃亡する

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5 ユイハル、心配が空回る


 森を出て、一つ目の町についてからというもの、ラースの様子がおかしい。

 彼は、ひどく戸惑っているようだった。


「なぜ、こんなにさびれているんだ?」

 店を覗き込んでは、品数の少なさに驚き、つぶれたままの空き家を見ては心を痛めているように見えた。


 錬金術師の情報も、思ったようには集まらなった。

「錬金術……? まだそんなこと言ってるやつがいるのか」

「もうとっくに、そんな胡散臭い連中いなくなったよ」


 ラースとグーは顔を見合わせている。

 そんな不安そうな顔をされると、どうにも気になる。

 ユイハルはもともと、困っている人を放っておけない性質だ。何かしてあげたくなってしまうのだ。


 次の町へ向かう道すがら、ラースは畑を見てふと立ち止まり、いきなりその場にしゃがみこんだ。

 具合でも悪くなったのかと心配して横に行けば、何やら熱心に地面のマナを探っている。


「やはり、大地がずいぶんとやせ細っている。……ユ、他の町もこんなふうなのか?」

「別に呼びたいなら呼べばいいだろ」

「なに?」

「今、ユイハルっていいかけただろ」

「別に呼びたいわけではない。それより、質問の答えはどうした。わからないのか?」

「知らねえよ! どこもこんなもんじゃないのか?」


 本当に素直じゃない。

 ユイハルの怒りをするりと無視して、ラースとグーはふたりにしかわからないことを話をしている。


「なぜこんなふうになってしまったのだろう。兄が悪政を敷いたせいか?」

「アレは確かに無能じゃったが、アレ一人の仕業ともいえんじゃろうよ」

「兄? 悪政? なんだよ、おまえ。王子さまだったのかよ」

 ユイハルが口を挟むと、ラースは一瞬ハッとして、どこか投げやりに言った。


「いいや、ただのカピバラだ」

「真面目に答える気なしかよ」

 

 するとラースはじっとりとした目でユイハルをみて、小さく首を振った。

「今はそれよりも、錬金術師を探すのが先だ」

 なんだか、馬鹿にされたような気がした。




 三つ目の街で、彼らは宿を取った。

「酒じゃ……」

「風呂だ」


 などと呟いて。

 まあ酒は飲めるだろうが、風呂は難しいのでは?

 そう思いながらユイハルは部屋に荷物を置きに行く。部屋割りは、ラースとグーが同室で、ユイハルだけ分けられた。邪神を持っているからという理由で。


 ため息交じりに窓を開けたら、裏庭にラースの姿があった。

 どこで見つけてきたのは、樽を運び入れて、魔法で水と炎を出してお湯を作っている。


「え!? まさか、あいつ、あんなところで!?」

 ユイハルはギョッとした。自分やグーならともかく、一見少女のように見えるラースはいけない。

 ユイハルは慌てて裏庭に駆け出し、そして小声で叫んだ。


「バカ、おまえ、客室から丸見えだぞ!」


 しかし、樽の中で悠々と振り返ったのはカピだった。

 ユイハルは足元から崩れ落ちた。


「風呂に入りたかったの、おまえかよ……」

「キュイ?」


 その日の夕食。ユイハルは食堂で信じられない光景を目にした。

「え? なんか、グーが酒を飲んでるように見えるんだけど」

 グーは見知らぬ男たちとテーブルを囲み、肩なんて組んで一緒に騒いでいる。


「酒は人の口を軽くする。あれは手段だ」

 ラースは、頼んだ料理に全く手を付けていなかった。

 それを見て、ユイハルは何となくホッとする。そしてホッとしたことになんとなく動揺して、視線をグーに戻した。


「いや、知ってるけど。でも、いつも一口で撃沈してるだろ? 飲んだふりか……?」

 ユイハルはキョロキョロした。


 実は魔法でどこかに飛ばしているのではと疑ったのだ。

「グーはもともと全く酔わない。いや、マナを極めたときに全く酔えなくなったそうだ」

 どういうことかとラースを見つめる。

 するとラースは束の間、唇の前に手を当て、ユイハルを黙らせた。


「グーが手掛かりをつかんだようだ」

「何も聞こえなかったけど?」

「修行が足りないな」


 そんな会話をしているうちに、グーがラースたちのテーブルに戻ってくる。

「グー、あれはどういうことだ。いつものは狸寝入りか!」

「おお、そのことか。簡単なことよ」


 グーは身をかがめて声を潜めた。

「安酒で酔いたくないんじゃ! 今夜は秘蔵の酒で酔うと決めておるからの」

「それよりグー、先に成果を聞かせてくれ」


「いや、待った! その前にグーの秘密を聞かせてくれ! うやむやにする気だろう!」

「別に秘密というほどのものではないがのう……。そうじゃな、わかりやすく言うのなら。酒も過ぎれば毒と同じなんじゃ。普通に飲めばわしの体からはすぐに追い出されてしまう。じゃが、酒に酔えぬなんて人生の楽しみを捨ててしまったようなものじゃろう? だからわしはマナの性質をさらに見極め、ある一点をあえて滞らせることで酔いを楽しんでおるんじゃよ! そもそもうまい酒というのは――」


「そこまでだ。グー、脱線しすぎだ。ユ……そなたも、好奇心が強いのは悪いことではないが、いつもどこかズレているぞ。今本当に知りたいことが何なのか、きちんと考えるんだな。


 それ、おまえが言うのかよ!



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