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訳あり王子はカピバラライフを満喫中!~邪神を封印したのだが呪われて、追放されたので温泉を作ることにした~  作者: 山端のは
煮炊きの匂い

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7 ラース、羞恥にもだえる


 食堂に顔を出すと、ユイハルは少しだけホッとしたような顔を見せた。

「昨夜はいったい、どこに雲隠れしてたんだ?」

「ずっと屋敷にいた」

「ふうん? 探したんだけどな」


 ユイハルは納得していない様子だ。

 だがラースは、自分こそがカピだと、なぜか口に出せずにいた。


 ユイハルはいつものように、三人分の料理をテーブルに並べ始めた。

 朝はパンとチーズとスープがこのところの定番だ。

 ラースが手を付けないとわかっていても、彼はこうしてラースの分も用意し続けている。

 その並びに、彼は湯気の立つカップを置いた。


「これは……?」

「お茶?」

 なぜか疑問形だ。確かにラースの知っている茶とは匂いが違う。

「その辺に自生してたハーブだよ。味は悪くないと思う。当然、おまえの分は祈ってないから」


 祈っていないと強調されたからというわけではないが、好奇心に駆られてラースは匂いを嗅いだ。

 案外と爽やかな香りがする。


「わしのぶんはないのか?」


 遅れてやってきたグーがあくびまじりに催促すると、ユイハルは一瞬、顔を歪めた。

 グーは構わず、カップを受け取るとすぐに口をつけた。

「ふむ。ミント、レモンバーム、イチゴの葉に、狂い咲きのカミツレを少し。と言ったところかのう」

「草の抽出液だな」

「おい、言い方」


 ラースは一口含んでみて、ほっと息を吐いた。

「温かいな」

 するとユイハルはぱくっと口を閉ざし、席に着いた。

 ユイハルとグーが食事を進めるの横目に、ラースはもう一口だけ飲んでみた。

 これはきっと、カピバラとして飲んでもうまいとは思えない。

 



 食堂を出ようとしたところ、ユイハルに引き留められた。

「ラース、ちょっと待った」

 振り向くと、彼はラースにこぶしを突き付けてきた。何か手渡したいものがあるらしい。

「手、出せよ」

 ラースの手の平に載せたものは、昨日の玉だった。


「なぜ、私に」

「気に入ってたみたいだったから」

「これはそなたのものだ。教会に持ち帰るんだろう?」

「うーん、どうだろうな。魔石とはあまりに違いすぎるし。とにかく持っておけよ」


 気に入ったのは確かだが、これは清らかすぎる。

 持っていると手がピリピリするのだが……。

「いいからもっておけ。お守りくらいにはなるだろう」

 ラースが断る前に、ユイハルは玉を手のひらに押し込んだ。


「それから、昨日のアレだけど、俺は約束しないからな。俺は諦めない。別な方法を考える!」

 言い捨てるような感じで、彼はラースに背を向けた。


 ラースは内心で首を傾げる。昨日のとは……?

 そうして廊下に足を一歩踏み出したところで、ラースの足が止まる。

「あ」

 殺してくれと言ったあれか。


 あんな年端もいかない少年に、運命を任せるようなことを言ってしまったのか。

 廊下に出てから急に気が付いて、ラースは「キュイ!」とカピバラに変身した。

 昨日は、かなり動揺していたらしい。なんという醜態だ。


 カピバラになったラースは床にごろごろ転がった。

 しかも悪いことに、先程の玉はこちらの姿の方が効くようだ。

 ピリピリのせいか、ごろごろのせいか、ラースはそのうち、どうして自分が床に転がっているのか分からなくなってくる。


 先に行ったと思っていたグーが、呆れた様子でラースを見下ろした。

「ラース、ノミなら外で取ってこんか」

「キュキュ(違う! 私は温泉好きの清潔なカピバラだぞ。ノミなんてついているものか!)」

「では一体、何をしておるんじゃ」

 

 一瞬にして場が白けた。

 しばしの沈黙が落ちる。それを打ち破るように、響いたのはユイハルの声だった。


「あああああああああっ! 邪神がいなくなってる!?」


 ラースは急いで人の姿に戻り、グーと一緒に調理場を覗き込む。

 そこには、(かめ)を抱えて半泣きになっている、ユイハルの姿があった。


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