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秘密にしといてくれるか? (1)

 三日も寝て起きて、腹を満たした次の日、ナディが用意してくれた朝食を届けに来てくれたリアに起こされるまで寝ていられた自分に、エイムはちょっと驚いた。


 体調は万全。というところで、今日はレオンのところに行く。

 ナディが作ってくれた腸詰めを挟んだパンをじっくりと味わってから水をたっぷり飲んで、身支度をして、行動を開始した。


 レオンの実家は村の教会である。

 父 ゼスは村の司祭で、母 マイアは助祭ということで、レオンは聖職者としては申し子である。実際、法術も使えたりするのだが、小さい頃は病気がちだった身体を鍛える為に、父が習ったことある体術を教えてもらってからそれに夢中になって、今もよくエイムは組打ちの相手をさせられる。レオン曰く、体格的に変わらない(実際はレオンの方が背はやや高い)エイムは格好の練習相手だそうで、おかげでエイムも身を守るための技くらいは使えるようになっていた。


「お、エイム君、元気になったようだね。」


 教会の近くまで来て最初に会ったのはゼスだった。


「レオン、いますか?」


「いるが、今、出かける準備をしている。エイム君もちょうどいいところに来た。君にも少し手を借りたんだが、話を聞いてくれるかい?」


「何でしょう?」


 ゼスはエイムがこの村で生まれたときに洗礼を授けてくれた人である。

 エイムの母 エレノアが熱心な信者であったことはもちろん、レオンの母 マイアとは同じ年頃の子を持つ、いわゆるママ友で、互いに村に他に身寄りが無いこともあって、親友と公言しあっていたほどの仲だった。

 そんな二人のこともあって、冒険者だったエイムの父 リアムが幼い頃に行方不明になって、その記憶がほとんど残っていないエイムに、ゼスはことあるごとに男親のようにいろいろと諭してくれた。三年前にエレノアが亡くなったときも、葬儀を仕切ってくれ、夫婦して涙してくれたことに、今でもエイムは恩義以上のものを感じている。


「うむ。先般、襲ってきた魔物どもの残党か、それとも別のところからやって来たのか分からないんだが、北の山の遺跡に巣くっているらしくてね。それの様子をまずは探ろうという話になって、教会にも手を貸してほしいと相談があってね。」


 ところが先般の地震で、この村にも大きなものではないが被害が出て、けが人も出た。村のよろず相談役的な立場を担う司祭であるゼスと、その助祭であるマイアは村を離れられない。

 ここまで聞いて、レオンが何の準備をしているのか、エイムは悟った。


「レオンを止めればいいですか?」


「止められるのかい?」


 今、レオンに上からものを言うことは避けたいことも確かにある。エイムの素直な今の気持ちであった。それを見通したわけではなく、一度言い出したら言うことを聞かない娘に甘い男親として、いつも苦労していることからの言葉であった。


「あの地震で、隣町のギルドも混乱の極みにあって依頼も出せない。しかし、自力で殲滅できないまでも用心はしておきたい。」


 寄せ集めでは攻めていくことはできなくとも、準備さえしておけば守ることならできる。それが可能か不可能かを判断するためにも、まずは情報収集ということである。


「村の猟師たちを中心に何人かで斥候に出てくれることになったのだが、エイム君は魔術も使える。ついて行ってやってくれると、誰より私が心強い。」


 加えて、レオンが無茶しないように頼むと言うことだろう。

 村の腕っ節の猟師たちなら弓も使える。衛兵も二人付いて来てくれる上に、エイムの魔術もある。レオンの法術もある。北の山の遺跡があるところは、中腹でさほど入り組んだところでもないし、偵察に徹しさえすれば、大きな危険は無いように思える。


「分かったよ。俺も準備してくる。」


「ありがとう。」


「礼は帰ってきてからでいいよ。マイアさんの晩飯一回で考えといて。」


 そう言ってエイムは一度自宅に戻って、いつものワンドとスリング、あとはポーションを二本ほど雑嚢に入れて、薄手のローブを纏った。それらを手早く用意して身につけて家から出ると、そこにはナディとオフィーリアが待っていた。


「どこか行くの?」


 そう聞くナディに、ゼスからの依頼の話を掻い摘まんで説明した。


「私も行く!」


「だめだ!ゼスさんからレオンのこと頼まれてるのに、これでナディまで付いてきたら、今度は師匠に頼まれることになる。依頼は一つで十分だ。」


 武器もスキルも持たないオフィーリアは、さすがに行きたいとは言わなかった。


「ただの偵察だ。ぞろぞろと雁首揃えて行くもんじゃない。すぐ帰ってくる。待っててくれ。リア、ナディを頼む。」


「わかりました。エイム様、差し出がましいようですが、ユダをお連れ下さい。偵察なら役に立ってくれるはずです。」


 確かにユダは空を飛べるのでいいかもしれない。


「私めがいれば、いざというときにあれもお使いいただけます。」


 ただでさえ勘の鋭いナディがいるというのに、お前の主人が内密にといった話をほのめかすような言葉を口にするとは……まったく『口にする言葉をおろそかにするな。』と、エイムは言いたかった。

 ただナディの感性には今回は幸い引っかからなかったようで、不満そうな表情のまま、そこから大きな変化はなかった。


「行ってくる!」


 話がもつれでもしないうちにと、エイムは教会に走って向かった。

 教会に戻ると、まだゼスが同じ位置に立っていた。


「エイム君、皆、すでに村の門の方に向かった。追いかければすぐ追いつく。マイアが腕をふるって晩御飯用意すると言っていたよ。」


 エイムは走りながらゼスに向かって親指を立てて見せ、そのまま止まらずに門の方に走って向かって行った。


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