代償ってそれ? (1)
あたりは真っ白だった。明るいことだけはわかったが、それほど眩しくはなく暖かい、そんな心地よい空間でエイムは横たわっていた。
「お兄ちゃん」
聞き慣れた声がする。すぐに誰の声か、エイムには分かった。隣に住む年下の幼馴染み ナディーンだ。
「ナディ、無事だったんだな。」
あれ?身体動かない?
「エイムが守ってくれたんだ。」
別の聞き慣れた女の子の声がする。これもすぐに分かった。同い年の幼馴染み レオンだ。
え?なんで二人とも裸?そう思いながらも、身体が動かないから視線を動かすにも限度が……しかも、凝視したいところに上手くピントが合わない。
レオンの少し日焼けした健康的な肌、ナディの色白で艶やかな肌、その感触だけが動けないエイムの身体に伝わってくる。
え?俺も裸!?そう思った瞬間、エイムの鼓動が早くなった。
「やっぱりエイムは男だな。村を守って戦う姿、かっこよかった。」
「お兄ちゃんはいつもかっこいいよ……」
「そうか、そうだね。」
二人を抱きしめたい。その衝動でどうにかなりそうなのだが、どうにも体が動かない。声も出ない。そんなエイムにぴったりと密着さした二人の肌から伝わってくる体温で、もう火が点きそうなくらい熱くなって……
チュッ♡
「お兄ちゃんにご褒美♡」
頬を紅潮させて照れくさそうに微笑むナディ、めちゃくちゃにかわいい。
「これは僕から……」
今度は目を閉じたレオンの顔が真正面から近づいてくる。
え?えっ!こういうときって俺も目を閉じればいいの?!心の準備が……と思いながら、目を閉じて、そしてもう一度、目を開けると、今度は間違いなく明るかった。しかも、真っ白ではない、この見慣れた天井。
そこにレオンの顔が割り込んでくる。
「エイム?エイム!分かる?」
分かるよ。レオン、俺、もう……
今度は身体が動く。レオンを思いっきり抱きしめた。
「わ!なんだ?どしたんだ?!こら!」
ベッドの上で、もみくちゃになり一度横に回ると、レオンにマウントされている体勢になっていた。
「三日も目を覚まさずに、やっと目を覚ましたと思ったら……不意を突けば、僕からマウント取れるとでも思った?」
勝ち誇るいつものレオン……って、え?!ご褒美にキスしてくれるんじゃ……と思っていたエイムに、レオンのお尻の張りと柔らかさが、しっかりと伝わってきて……あ、今、そこで動かないで……
「え?!」
違和感を感じる部分にレオンが目を移すと、決して色白では無いのに、それがはっきりと分かるほどレオンの顔がどんどん赤くなる。そして、エイムと目が合った瞬間。
「いぃぃやぁぁぁあああ!」
ここ十年くらい聞いたことないくらいかわいい悲鳴をあげたレオンが、エイムの上から飛び退いて、部屋を走って出て行った。その一連の動作の中で、思いっきりエイムにビンタをくらわせるという華麗すぎるヒットアンドウェイをみせた。
「い、いてぇえ……」
レオンに張られたところを手で押さえながら身を起こすと、ベッドの横にはオフィーリアが神妙な面持ちをして座っていた。
そして、この時、レビルオン・スーツどころか、布一枚身につけていないことにエイムは初めて気がついた。
「申し訳ございません。エイム様。」
まだイントネーションには違和感があるが、オフィーリアはずいぶんと流暢に話すようになっていた。しかも、丁寧語まで。
「レビルオン・スーツを装着する『代償』も説明せずに、あれを使わせてしまって……その責任、私がとらせていただきます。」
オフィーリアは椅子から立ち上がって、ベッドに座ったまんまのエイムの前で膝を突いた。そして、エイムがその身体を隠していたシーツをそっと取り去って、その感触をお尻で感じたレオンが驚いたものに、オフィーリアはそっと手を伸ばして包み込んで、そこにゆっくりと顔を近づけて……
「ちょっ!な、なにを……」
オフィーリアが震えてる。
そのことに気がついたエイムは、オフィーリアの頭を両手で押さえたその時。
「お兄ちゃん、目が覚めたの?レオン姉ちゃんが、飛び出して行ったけど……」
ガン!と、部屋に無造作に入ってきたナディが持ってきた水桶が床に落とした。
「お、お兄ちゃん……最っ低!」
裸のまま、オフィーリアを止めながら、しかし、ナディは止めることもできず、そのままエイムは泣きそうになっていた。
「待って!とにかく、オフィーリア。ひとまず、なんだ……一度、部屋の外で待ってて。その間にオフィーリアも落ち着いて。責任とか何とかはいいから。ちょっと俺も一人にさせて。」
それを聞くと、顔を真っ赤にして神妙な面持ちのまま、ゆっくりとオフィーリアは立ち上がり、少し速歩で部屋の外に出て行ってくれた。
それからエイムも、夢で感じたナディの唇、リアルなレオンのお尻、そして、オフィーリアがどうやって責任をとるつもりだったのかに思いを巡らせると、さらに落ち着かなくなってくる心と身体を、オフィーリアが部屋のすぐ外にいると思うと声も上げることもできずに、一人で落ち着かせるには、思いの外時間がかかってしまった。