レオンの涙 (2)
「こんな話、この世界の人には誰も信じてもらえない。そんな何も知らない人たちの命を、私がここにたどり着いてしまったがために奪ってしまった。そして、そこでのうのうと私だけが生きているなんて、許されていいわけない。どうすればいいのか、今はわかりません。ですが償いたい、償わなければいけないと思っています。」
その重い空気の中でも、口を開いてくれたのはアンナ司教だった。
「にわかには信じがたいお話だけど……私にはあなたが嘘を言っていないことだけは分かります。」
センス・ライ(看破)を使ったのか?とも思ったが、そんなそぶりをしたようにもエイムには思えなかった。
「あなたが罪の意識に苛まれている理由も理解できました。」
アンナ司教は淡々と、リアを傷つけないように敢えて抑揚をつけないで話しているようにエイムには思えた。
「あなたは、あなたも巻き込まれるはずだった不運からあなただけが逃れられたことに罪の意識を感じている。」
「その大勢の人たちが亡くなった原因は私が……」
ここでアンナ司教は一つ、目を閉じて、心を落ち着けるように息を一つついた。それから目を開けてまっすぐにリアを見てこう問うた。
「あなた、お名前を教えてくださらない?」
「オフィーリア。オフィーリア・キルレインと申します。」
アンナ司教の目を見て自分の名を語るリアから、アンナ司教も目を離さなかった。
「ではオフィーリア、あなたは今から私が話すことを、他言無用と約束できますか?私も必要以上のことは申し上げられませんが……」
アンナ司教の真剣な眼差しを受けて、リアは少し考えたが、返事は一つしかなかった。
「はい。」
「あの隕石の落下は禁呪によるものだと言われています。」
「禁呪?」
「えぇ、メテオ・ストライク(隕石召喚)と言うもう大昔に失われた大量殺戮のための儀式魔術です。察するに、あなたの言う時空震と言う現象は、おそらくその魔術によって人為的に起こされたものです。」
メテオ・ストライクという名はエイムも初めて聞いたが、昔、悪い魔法使いが人を滅ぼすために星の雨を降らせたなんていう絵物語は、小さい頃に見た記憶があった。
ただそんなこと、本当にそんなことが魔術でできるのか?それはエイムにも分からなかった。
「このキリルの魔法学院から奇跡的に逃げ出せた魔術師たちからも、あの日、異常な魔力を観測したと言っていたといいますし、エレーニアでも、同様の話をがありました。」
「その異常な魔力が禁呪の……」
エイムが口を挟んだ疑問に、アンナ司教はこう答えた。
「えぇ、あくまで状況証拠ですが。今、王国でも禁呪による騒動はあれ以来、いくつも起こっていっていて、私も被災地への慰問という形を取って、王国からその隕石の落下あとを視察してくるようにという密命を受けています。実際、王国内で、私自身も禁呪で不死化しようとしたヴァンパイアに襲われましたし……。幸い私は勇気ある冒険者に助けていただきましたが、禁呪を紐解いた何者かが暗躍していることは間違いありません。」
吸血鬼?!それこそ子供の絵物語でしか、エイムは聞いたことも、見たことももちろんなかったが、それでもエイムにとっては、隕石召喚などという禁呪や、リアの話よりは現実感はあった。
「このことはエレーニアでもごく一部の人間しか知らないトップシークレットになっています。」
「そんな……でも、たとえそうだとしても私が乗っていた『ゆりかご』が……」
「そりゃ結果だろう。リアの乗った『ゆりかご』が召喚されていなければ、別の隕石が呼ばれて落ちてきただけで、結局、あの不幸な災害は回避できなかった。しかも、それを意図してやった何者かが他にいる。そういうことですよね?」
「えぇ。エイムさんのおっしゃるとおりだと、私も思います。」
そして、静寂は再び訪れた。




