レオンの涙 (1)
「あなたの母上様 マイアさんとはね。昔、同じ教会でおつとめしていたことがあるのよ。しかも、一年や二年ではなくてよ。マイアさんの方が先達ですし、当時は『豊穣の天使』なんて言う人もいて、私も何度も、あなたの母上様の料理に心とお腹を満たしてもらったわ。」
教会の一室に案内され、場を和まそうとしてくれたアンナ司教の昔話で、そう言えば、母 エレノアと同様、マイアもあの村で生まれ育ったわけではないと言っていたことをエイムは思い出していた。
「で、どうなさったの?あんな所でこんな時間に、わざわざ捕まるだなんて。今、あの爆心地に近寄るだけでいらぬ噂を立てられて、今、リオキリルの人は皆、近寄らないというのに。」
「噂ってどう言う?」
レオンが聞き返した次の瞬間からアンナ司教の表情から親しげな笑みが消えた。
「あそこに魔の力が落ちてきたと聞いています。」
いきなり核心に迫る言葉が出てエイムも鼓動が早くなった。
「地震はその衝撃で起こったと言われていて、爆発もそう。街の大半はその衝撃で壊滅して、そこに爆発と地震、さらに火事が重なって、こんな大災害になって。ですから、あの場所に行くと呪われるとかなんとか……」
耐えきれずにリアがまた泣き出した。
「彼女は?どうしたのですか?」
ここに案内される前からリアの側を離れないレオンが、泣き崩れてしまいそうなリアを抱きしめて支えていた。
「アンナ様、その堕ちてきたものは魔の力でも何でもなく、隕石のような物で、それに人が乗っていたと言って信じていただけますか?」
決死の覚悟を浮かべたようなレオンの目を見て、アンナ司教の表情はいよいよ柔らかさを失った。
「乗っていたって?この女性がですか?一人で?」
「地上に衝突する寸前、そこから脱出したっていうんです。」
レオンはリアの体を起こして、手で顔を隠して泣き続けるリアに問いかけた。
「お願い、リア。もう一度、僕たちに話して、ちゃんと。詳しく。リアに罪があるなんて、僕はこれっぽちも思ってないよ。一人で苦しまないで。きっとアンナ様も導いてくださるよ。」
そうレオンに説得されて、それでもリアが話し始めるまで、相当時間がかかったが、誰も何も言わず、ただリアが口を開いてくれることをじっと待ち続けた。
「私は仲間と一緒に新しい大地を探して、空のかなたを旅していました。しかし、事故で私たちが乗っていた船が難破して、乗り込んだ一人乗りの脱出船で、何十年も私は眠ったまま、彷徨い続けていました。」
リアは自分が生まれた世界と、この世界はあまりにも違いすぎることを理解していて、できるだけエイムたちにも分かる言葉を選んで話をしてくれていると分かっていても、エイムたちには何度聞いても夢物語にしか聞こえない話だった。
「緊急警報が鳴って、私が強制的に覚醒させらたときには、時空震に巻き込まれていて、すでに脱出船は制御を失っていました。」
リアがときどき使うエイムたちの理解の及ばない言葉。この『時空震』という言葉も、それだった。
「そして、搭乗者である私の命を守るために、私はそこから強制的に排出されて……この地に放り出されて、気を失っていたところをエイム様に助けられたのです。」
リアの話が一息付くと、部屋はしんと静まりかえった。




