リアの棺 (3)
「お前たち、そこで何をしている!」
くぼみの底にいたエイムたちは、松明を持った衛兵にいつの間にか取り囲まれて見下ろされていた。
真夜中に地震の中心地でウロウロしていていて、怪しい奴と言われて申し開きようない。かといって、レビルオンで強行突破しようにも、抱えて飛ぶにも二人が限界。まずいな……と一瞬、エイムは思ったが、百八十度考え方を変えてみた。
「怪しい奴です。衛兵さん、僕ら四人、まとめて捕まえて下さい!」
その発言に、ナディもレオンもぎょっとして、エイムの方を見た。
「な、なにいっての!?お兄ちゃん!」
「そうだよ!僕たち、別に怪しいことなんて……」
『これでリアも逃げられないだろ?』
エイムの突拍子もない発言に慌てたナディとレオンに目配せして、二人にだけ聞こえるようにエイムはそう言った。
「衛兵さん、僕たちを逃がさないで!優しくしてね!」
「一人も逃がしちゃだめよ!痛くはしないでね!」
レオンとナディはエイムの意図を瞬時に理解してくれてありがたかったが、少々やり過ぎ感は否めなかった。
こうして、エイムたちは腕を縛られて繋がれて、思惑通りリアも一緒に連行されることになった衛兵の詰め所が仮設されていたところには、教会やギルドなども隣接していた。まとまっていると言えば聞こえはいいが、要は集まらない支援のために、宿泊できる部屋から水回りに便所まで、共有できる物は共有できるよう棟続きにするしかなかったというのが正直なところだろう。
ただ、そんなリオキリルで一番、今、活気のあるのは間違いなくこの周辺だけで、深夜だというのにまだ何人もの人間が活動していた。
そう言えばギルドへの届け物も忘れずに渡さなければ……と思いだしていたエイムの前から、法衣を来た女性とそのお供と思われる三人の女性の集団から歩いてきた。
「夜遅くまで、おつとめご苦労様です。」
その先頭の女性が、衛兵たちをねぎらった。着ている法衣といい、衛兵たちの恐れ入り方といい、若く見えるが相当位の高い教会関係者だろう。
「お心遣いいただき恐縮です。アンナ司教様。司教様こそ、こんなに遅くまでご助力いただき有難うございます。」
そのやりとりに反応したのがレオンだった。
「あ、アンナ司教様?!え、うそ!?あのピレスノアの聖女様!?」
レオンの驚きの声はとても夜分には似つかわしくないボリュームだった。
「あら?あなた、私のこと、ご存じ?」
「えと、あの、僕、いや、私も神様に祝福をいただいた聖職者で……その、うちの父や母も聖職者で、アンナ司教様のこと、聞かされたことがあって……こんな所でお目にかかれるだなんて……こ、光栄です。」
確かにそんな高貴な人と、縄で腕を繋がれた状態で会うなんてな……こんなタイミングで、光栄というより恐縮の極みだなとエイムは思っていた。
「あなたの父上様、母上様から?あなたのお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「あの、レオン。レオン・ラインハート、あ!今はこのエイム・アービンのお嫁さんになって、レオン・アービンと申します。」
「ど、どうも。」
繋がれている縄でレオンに引っ張り寄せられたエイムが挨拶をしたアンナ司教の顔を改めてよく見ると、明らかに驚きの表情が浮かんでいた。
「ラインハート?ひょっとするとあなたの母上様のお名前は、マイア・ラインハートではなくて?」
『え?!』
声を上げたのはレオンだけではなかった。エイムはもちろんナディも声を揃え、リアすら声は上げなかったが驚きの表情を隠しきれずにいた。
「あら。本当ですの?」
アンナ司教もびっくりしたようだった。それはそうだろう。真夜中に衛兵に連れてこられた輩が、まさかの知り合いの娘、横にその旦那まで一緒に縄で繋がれて、何一つ驚かずにいられる要素がない。
「衛兵さん、彼女たちは何をしたのです?」
「いえ、何かしたというわけではなく、夜分に例の爆心地で何かしていたようなので、不審に思い声をかけると、自分たちから捕まえてくれと……」
「??」
アンナ司教は衛兵の説明への理解に苦しみ、表情を決めかねているようだった。
「でしたら、この方たちは私の知り合いと言うことで、教会で預からせてはもらえませんか?」
「よいのですか?実は牢屋ももういっぱいで、こちらとしても願ったり叶ったり、いや、ありがたいお話で。その、よく分からない人間を、しかも、女までいては扱いに困っていたところで。」
どう言葉で取り繕っても、明らかに体の良い厄介払ができたとしか聞こえず、それを隠しきれない衛兵の顔が、暗い場所でもはっきり分かるくらい明るくなった。
「神様のお導きですね。レオンさん、あなたたちも、私と一緒に教会にいらっしゃい。あなたの父上様、母上様のお話も伺いたいですし、それだけじゃないんでしょ?こんなことになったのは。私で良ければ、話を聞くわ。」
エイムもナディも、特に熱心な信者ではないが、さすがにアンナ司教からそう言われると、人生で初めて衛兵に捕まった体験から、この奇跡とも言える邂逅から釈放までの劇的すぎる展開は、神様のお導きと言われても信じていい気分になっていた。




