リアからの依頼 (3)
朝起きると、ベッドにはエイム一人だった。
ベッドサイドの水差しに残っていた水を飲みながら、窓の外を見ると、なんとリアがレオンと一緒に体術の稽古をしていた。どうもレオンの指導を、リアが受けているように見える。
ひとしきりその様子を見てからエイムは、からになった水差しを持って、寝室を出た。
「あ、お兄ちゃん、やっと起きてきた。朝ご飯用意するから、ベッドからシーツ剥がしといて!洗濯しとかないきゃ、私とお姉ちゃんのでシミになっちゃうから。」
そんな生々しいナディとの会話で、起きたてで昨日の夜の激しい情事を思い出して、エイムは顔を赤らめそうになった。
ナディの言うとおりにシーツ剥がして、洗濯場に持っていき、リビングに戻って、ナディが用意してくれていた朝ご飯を食べていると、レオンとリアが稽古を終えて戻ってきた。
「おはよう、エイム。」
「おはようございます。エイム様。」
「ああ、おはよう。」
そう挨拶を返すと、リアはエイムの前に座った。
「あの、エイム様。昨日の今日で恐縮なんですが、昨日、いただけると聞いた金貨なんですが、有効な使い道を考えついたので、やはりいただいてよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろん。で、何に使うんだ?うちの村にあんな大金を使えるところはないぞ。」
「当面の自分の生活費に使う分に一枚だけ残しておいて、あとは教会に寄付したいと思います。」
「えぇ?!」
そう驚いたのはエイムではなく、風呂場で汗を拭いて戻ってきたレオンだった。
「いくら何でも多すぎるって。うちのお父さん、お母さん、びっくりしてひっくり返っちゃうよ。」
「いえ、ゼス様にも、マイア様にも大変よくしていただきました。その恩返しもかねて……」
「……あ!そう言えば、僕、お父さんとお母さんに、帰ってきてたこと、まだ言ってない!」
「ちょうどいいじゃないか?リア、レオンに連れてってもらえば。」
「エイム!そんなこと言わないで一緒に来てよ!僕の旦那様でしょ!」
そう言われると、ミネルバには用があったとは言え、顔を見せておいて、ゼスやマイアにはなしというわけにもいかず、結局、エイムも教会に付いていくことになった。
「あら、帰ってきてたのね。」
出迎えてくれたマイアが、ゼスを呼んでくれ、再会の挨拶をそこそこに、すぐにリアの意思を伝えた。
「こんなに、いいのかい?リアさん。お金は持っていても腐るものでもないよ。」
「いいんです。帰るところもない私を助けていただいたこの村に、何か恩返しができないかと、ずっと考えていましたので。使う当てもないお金です。是非、この村のために、お役立ていただければと。」
そのよどみのないリアの言葉を聞いて、ゼスとマイアは顔を合わせた。
「リアさん、それではありがたく受け取っておくよ。この教会も、お世辞にもきれいな教会とは言えないしね。」
そのゼスの言葉を聞いて、リアは笑顔を見せた。
「ただ、リアさん。あなたがこの村のことを思ってくれるなら、帰るところはもうここにあります。だから、あなたが帰ってきたときに、安らげる場所であるように、誇れる故郷だと思えるようにするために、このお金は大事に使わせてもらいます。」
マイアの言葉に少し驚いたような表情を見せたが、その後、リアの笑顔はすぐより鮮やかになった。
「ありがうございます……ありがとうございます。」
「何言ってるのよ。こちらこそよ、リアさん。あなたにいつも神様の祝福があるように、お祈りさせてもらうわね。」
「よかったね。リア。」
「はい、ありがとうございます。レオン様。」
「これからはここはリアにとっても故郷。うちのお母さんのお祈りは御利益あるんだから、まちがいないよ。また一緒に、元気で帰ってこようね。」
「は、はい……」
そう言ってリアを抱きしめたレオンを、微笑ましそうにゼスとマイアは見ていた。すると突然、レオンの身体が淡い光を帯びた。
「はぁれ?」
「どうした?」
感動の場面には似つかわしくない声を上げたレオンにエイムが尋ねた。
「今、啓示があった。僕、また新しくセンス・ライ(看破)を授かったみたい……」
そんなおまけも付いてきて、次の日、エイムたちは、一度、マルタに戻るために、この村を再び旅立つことになった。




