ハイキングに行こう! (4)
次の朝、エイムが目を覚ましてテントから出てくると、日の出前に火の番を代ったレオンが、朝から一人で体術の稽古をしていた。
「どうした、こんなに朝早くから。相手しようか?」
「起きたばっかで僕の相手なんかしたら怪我するよ。それにちょっと試してみたいことができてね。その練習。」
「ふーん。」
そんな会話を交わしながら、レオンの朝稽古を眺めていると、ナディが朝ご飯を持ってきてくれた。
「あ、おはようございます。」
「珍しいわね。リアさんがこんなに遅くまで寝てるなんて。」
そう言って、ナディは自分用に用意していた朝食をそのままリアに差し出した。
「すみません。朝の準備もお手伝いできなくて。」
「気にしなくてもいいよ。」
「今日もおいしいです。トマト味ですね。」
「瓶詰めのだけどね。」
朝ご飯を食べながらリアはエイムの横に腰を下ろした。
「よく寝れたか?」
「はい、おかげさまで。」
「じゃあ、ゆっくり朝飯食って、終わったら今日の指示をくれ。」
それから稽古を終えたレオンも加えて、みんなでおかわりまでしてナディの作ったすべて朝ご飯を平らげた。
「エイム様は、昨日、山の上に置いてきた岩盤を順次運搬してください。私とレオン様で、エイム様に持ってきていただいた岩を割っていきます。ある程度まで、小さくなったらその中からナディ様には球根探しをお願いします。」
「え、これを割るの?僕とリアだけで?」
「はい。簡単とは言いませんが、道具があれば私とユダ、レオン様の御力をお借りできれば可能かと。」
そう言うとリアは道具を取り出してきた。
杭のようなものを複数と、鑿、そして、大槌、小さめの槌などなど。ベラントールに寄ったときに職人に借りてきたらしい。
そうして岩の上に登ると、リアは槌を使って鑿を岩に打ち込み始めた。結構な時間をかけて四つほど、鑿で小さな穴を開け、そこに杭のようなものを差し込んでいった。
「石には石目と言うものが必ずあります。簡単に言うと石が割れやすい方向です。そこにこのセリ矢を打ち込んで……レオン様、お願いします。」
「これをこの大槌でぶったたけばいい?」
「思いっきりいっていただいて大丈夫です。」
リアに言われるように順番にセリ矢を打ち込んでいき、最後のセリ矢を打ち込むと……バッカン!
「わ、すごい!お姉ちゃん、すごい力!」
ナディが驚嘆の声を上げた。
「別に僕が馬鹿力だからじゃないからね!」
「確かにすごいな。」
「この調子で、どんどん岩を小さくしていって、そこから球根を探します。おそらくですが、岩でも所々黒くなっているところが、銀が多く含まれている部分で、球根があるとすればそのまわりかと。」
ミネルバによるとクリストル草の球根には、多分に魔力が蓄積されているのだそうで、リアは植物であるクリストル草が自ら魔力を蓄えるとは考えづらく、外部から吸収していると考える方が自然で、その供給源に銀が何らか関わっているのではないかと考えた。だからこそ、銀の鉱脈がある地域でしか発見されなかったのでは……と思ったそうなのだ。
ただ銀が取れる場所で、かならずクリストル草が発見されているかというと、そうではない。
「ひょっとしてミスリルじゃないのかい?」
ミネルバの言うミスリルは真銀とも呼ばれ、月の光を浴びた銀が魔力を帯びたものと言われている。その銀から変化したミスリルの魔力を、クリストル草の球根は蓄えているのではないかとミネルバとリアは考えたのだ。
もちろん単に月の光を当てれば、どこでも銀がミスリルになるわけではないのだが、少なくとも、過去にクリストル草が見つかった場所ならば、その銀にミスリルが含まれていた可能性はある。
ただクリストル草の花は、数十年に一度しか咲かないと言われていて、そんなものを悠長には待っていられない。
そこで、月の光のよく当たる南側、かつ過去の発見の経緯から標高が高い所で、銀が含まれている剥き出しの岩盤の中から、まだ咲いていないクリストル草の球根だけを探してみようとなったのだ。
「標高も、銀の含有率もユダなら正確に分かりますし、レビルオンのパワーで岩盤をくりぬいて運搬すれば、空気の薄い標高の高い場所で作業しなくてもすみます。」
誰にでもできることじゃない。だから誰もやったことがない。もしこの推論が正しければ、世紀の大発見……かもしれない。
もちろん、見つかればの話である。
「わかった。なら、俺は昨日、切り出した岩をここに持ってくればいいな?」
「はい。ただくれぐれも無理はされずに。ユダにも問いましたが、昨日も少々、レビルオンを長時間使い過ぎてます。」
「わかった。午前と午後で一個ずつくらいにしておく。それで三日あれば、全部持ってこれるだろう。あとは岩砕くのも、球根探しも手伝う。じゃあ、行ってくる!」
そう言って、エイムはレビルオンに変身して、飛び去っていった。
「相変わらず。すごいね。レビルオンって。ずっとあれ着けてってできないの?」
「エイムの身体に無理がかかるんだって。」
「そうなのかぁ……だったらお兄ちゃんに精のつくご飯、作ってあげなきゃね。」
「いえ、それは……普通の食事で良いかと……」
「?」
顔を見合わせたレオンとリアを見て、ナディは不思議そうな表情を浮かべていた。




