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大地震ってなんだよ! (2)

「ほら、飲むか?暖まれば少しは気持ちも落ち着くかもよ。」


 何とか地震で傾いた宿から抜け出すときに持ち出せた自分の手荷物の中に入れていた、もしもの時のために用意していた乾燥した豆や肉を煮て作ったスープをエイムは、娘に差し出した。

 差し出された器を娘は手に取って、その香りをゆっくり嗅いでから、恐る恐るそれを口にした。

 その間にエイムはキリル語でも、片言ではあるが隣国のハン帝国の言葉でも話しかけてみたが、娘には理解できていないように見えた。


「言葉が通じないんじゃな…どうしたらいいだろう?」


 そうぼやいたエイムの方に、娘の肩に止まっていた妖精が飛んできた。


「言葉……二十パーセントくらい……わかる」


「え?」


 その妖精が話した言葉を、すべてではないがエイムは初めて理解できた。


「彼女、助け……て」


「おまえ、わかるのか?俺が言ってることが?なら、あと半日ほど歩けば、俺の故郷の村に着く。夜が明けたら、ひとまず彼女を村まで連れて行きたい。わかるか?」


 それを聞くと、今度は彼女の耳元まで妖精は飛んで行って、またエイムのわからない言葉で彼女に話しかけている。

 そして、彼女はエイムの目を見てうなずいた。了解してくれた言うことだろうか?


「わ……たし……オフィーリア」


「オフィーリア?それがあんたの名前か?よかった、通訳してくれたんだ。この妖精すげぇな。」


 オフィーリアが初めて微笑んだ。その笑顔を見て初めてエイムも笑顔をオフィーリアに返すことができた。


「日が昇ったら、出発しよう。それまで俺が火の番をしているから、それまでゆっくり休んでてくれ。」




 そうして、日が昇ってすぐに村に向かって歩き始めたのだが、旅慣れていないのか、オフィーリアの脚は予想以上に遅かった。線も細いので、その見かけ通りやはり体力もなかった。


「乗り物……ない?」


 まだまだオフィーリアの言葉数は少なかったが、それが弱音だとエイムにもすぐにわかった。


「この辺には馬車とかあまり通らないな。」


「ば、馬車?」


 がっくりと肩を落としたオフィーリアに、やれやれとエイムが近寄ってその方に手を当てた。その手が淡い光を帯びた。


「ストレングス(身体強化)……俺が使える数少ない魔術の一つだ。連発はできないからな。」


 するとオフィーリアの身体が軽くなった。力が湧いてきた。


「いくら何でも、日が沈むまでには村に着けるだろう。俺も昨日、寝てないし、もう少し行って、木陰でも見つけたら、そこで俺も一寝入りさせてもらう間に、足を休めててくれ。またそこで出発前にまたかけてやるから。」


 オフィーリアの肩に止まっている妖精を介しての会話になるので、反応は遅かったが、そのエイムの言葉で、オフィーリアは笑顔を浮かべた。


 そうして何とかこうにか、夕暮れには村の明かりが見える近くの丘の上までたどり着いた。あとは目の前の小さな森林を抜ければ、すぐ村だ。このあたりには地割れも、地崩れしたあともなかった。村に地震の被害はあったとしても少なそうで、エイムは少し安心した。

 しかし、オフィーリアが疲れと、おそらく空腹で、ちょっと前から明らかに表情に暗い。


「あの明かりが見えるところが、俺の村だ。もう少しだ。がんばれ!」


 そうして、歩き出して森に入ろうとしたところで、エイムはその異変を察知した。明らかに人間ではないものの会話。


「隠れるぞ。」


 オフィーリアの手を引いて、近くの茂みに身を潜めて、まわりに目を凝らして見回した。

 いた!オークだ。しかし…なんて数だ。まわりにいるのは、狼に乗ったゴブリンか?あの地震で、縄張りから移動して来やがったのか?

 オフィーリアの目にも、魔物達が見えたのだろう。身体が小刻みに震えだした。


「なに?あ、れ?」


「落ち着け。村まで走るぞ。」


 そう言ってエイムは、オフィーリアに再びストレングスの魔術をかけた。


「合図したら走れ。あの明かりが見える方向だ。後ろは絶対振り向くな。村に着いたら、このことを村人達に知らせるんだ。いいな?」


「エイム、ど……うする……の?」


「俺も逃げるさ、あんたの後ろを追っかけていく。化物どもが追いついてきたら、俺のとっておきをぶっ放してやる。だから、あんたは逃げることに集中しろ。行け!」


 出だしは鈍かったが、自分にはどうすることもできないと悟ったか、エイムの言うとおり一目散に村に向かってオフィーリアは走り出した。ストレングスの影響もあって、その脚は相当速い。


「やればできんじゃないか……。」


 そのオフィーリアの後ろ姿を見てそう思った。あのスピードなら狼に乗ったゴブリンでも追いつけまい。エイムもそれを追った。できうることなら、気付かれずに村まで着ければ…しかし、その思いはすぐに挫かれた。

 森は抜けた。

 しかし、その視界が広がったところで、すでにオフィーリアの後を追う狼が目に入った。ゴブリンが乗っている。スリング(投石ひも)で届く距離ではない。


「レイ・ボウ(光の矢)!」


 当たった。

 狼ごとゴブリンを吹き飛ばした。しかし、さっきストレングスも使った。もうあとが続かない。

 そう思いながら、エイムは後ろを振り返って、ぞっとした。

 オークだけでも、さっき確認できた倍はいる。そのまわりには、数え切れないほどのゴブリンに狼……冗談じゃない。もし村にたどり着けても、あんな数の魔物を迎え撃てるほどの戦力は、村にはない。


「くそっ!」


 強がってみたところで、魔力はすぐに回復しない。ワンド一本とスリング一つで何ができる?そんな絶望感がエイムの体を凍えさせた。


「エイム!」


 その声はオフィーリアの妖精。


「オフィーリアが許しました。エイム、あなたに『力』を与えます。」


 この妖精は何を言ってる?エイムはすぐには理解できずに、反応もできなかった。


「あの怪物達を倒す『力』をあなたに与えます。『変身!レビルオン!』と叫びなさい。」


 妖精の言うことを理解しきれないエイムに、村に魔物達が近づいてきていた。もうその目の前まで。


「『変身!レビルオン!』と叫びなさい。あなたに未来を変える力を、未来の力を与えましょう。」


 もうどうにでもなれ!できることなら何でもやってやる!村を救えるのなら、神でも妖精でも何にだってすがってやる!何にだってなってやる!


「変身!レビルオン!!」


 次の瞬間、エイムの目の前が、いやエイム自身が光に包まれた。

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