大地震ってなんだよ! (1)
目を開けると、夜空が広がっていた。満天の星空だった。パチパチと薪が爆ぜる音もする。木が焼ける匂い、そして、草木の匂い。
「お、やっと目を覚ましたか?」
まだ少年の面影を感じる男の声だった。目を覚ました娘は、ゆっくりと上体を持ち上げて、まわりを見回した。
「あんたの持っていた荷物は真後ろにあるよ。」
身体をひねって、その雑嚢のような物に手を伸ばして、そこから筒のような物を取り出した。それを彼女がひねると、一瞬、光が溢れて、ふたが開いた。そこから飛び出した何かが、筒の輝きを奪うように輝きだした。
それは不可思議な音……というより、男には娘と会話しているように見える。しかし、それはこのあたりに住む人の使うキリル語とは明らかに違った。
「あんた、ずいぶん変わった格好してるし、キリルの人間じゃないのか?」
上半身には、上着のような物を羽織っているが、それ以外は濃紺の色が付いていなければ、地肌かと思えるほど、ぴったりとした服のような物を着ている…と言うより身体を覆っているように見える。
その女の子が取り出した筒から飛び出した何かは、声をかけた男の子の方に飛んできて、その目の前で止まって、何度か煌めいた。
「こりゃ……妖精?あんた、精霊使いか?」
そして、また娘の側に戻っていった。
「あんたもリオキリルの方から逃げてきたのか?俺はエイムって言うんだ。あんた、名前は?って、言葉がわかんねぇのか?困ったな……」
「キリル?リオキリル?……エイム?」
娘が初めて、言葉を口にした。
「あぁ、あっちの空が赤いだろ?まだ燃えてる。あの地震が起こる前に、俺はリオキリルから故郷の村に帰るところだったんだが、あんたも向こうの方から逃げてきたんじゃないのか?」
こちらが言っていることをわかっていない。それは表情からわかった。しかし、立ち上がった娘は、夜になってもまだ空が赤く染まっている方向を見つめて、そして、小刻みに震え始めた。
エイムは秋から通う予定だったキリル連合共和国の首都 リオキリルにある魔法学院への入学を手続きを終え、丸二日はかかる自分の村への岐路の途中の町で、あの大地震に遭遇し、泊まっていた宿から何とか抜け出した。しかし、散発的に何度か揺れが続き、混乱が収まるどころか極まっていく町中で、どうすることもできずに、そのまま村に帰ることを決めた。
その道中で、リオキリルはその上空を赤く染めるほどの大惨事となっていることを知った。
魔法学院はどうなっただろう、故郷の村はどうなっているだろう……考え出すと途方に暮れそうになりながらもエイムは歩を進め、急げば何とか今日中にたどり着けるかと言う距離まで来たところで、倒れていたこの娘を見つけて、放っておくわけにもいかず、仕方なく野宿して、目を覚ますのを待っていたのだ。
「寒いのか?そりゃそんな薄い服着てりゃ、いくらこのあたりでもこの時期になると、夜は冷える。」
崩れ堕ちるようにひざまずき、その娘は泣き出した。
びっくりしてもどうすることもできずに、泣き止むまで、エイムはたき火を見つめながら時を過ごすしかなかった。