それでいいの? (3)
そう思ったのは、少なくともエイムだけではなかった。
「知ってたよ。お姉ちゃんが、泣きながらお兄ちゃんにヒール(小癒)のお祈りを何度も何度もしてくれてたこと。その時はね、お兄ちゃんを思う気持ちで、お姉ちゃんに負けたくないって思ったんだ。」
いつの間にか涙も止まったレオンもきょとんとして、何も言えないでナディを見つめている。
「でもね。こんなお姉ちゃんの気持ちに気付かないお兄ちゃんもやだなって思っちゃったんだよね……」
そう言って、そっと立ち上がったナディは振り返って、エイムに勢いよく近づいてきた。
「私をお嫁さんにしてくれるって、お兄ちゃん、約束してくれたよね?でもね、私、お兄ちゃんがお姉ちゃんもお嫁さんにしてくれたら、三人でもっと幸せになれるって思っちゃった。」
「く、くくっあはははは。」
エイムが視線を向けると、こらえきれずにミネルバが笑い出していた。
「ナディ、でかした!」
この時点でエイムは相談しようとした相手を間違えたと確信したのだが、それでも聞いてみた。
「いいのかよ?自分の娘の旦那がいきなり二人の嫁持ちになるんだぞ?」
「ナディはできすぎるぐらいよくできた自慢の娘だよ。そのナディの男を見る目に、とやかく言う気は毛頭ないよ。」
そこまで聞いて、やはり聞いた相手を間違えたことを確信したエイムは、今度はマイアに同じ質問をした。
「あら。私はレオンが、もしお婿さんを連れてくることがあったら、それはエイム君だと思ってたし。ねぇ?あなた。」
「レオンが結婚したらエイム君が息子になる上に、ナディちゃんも娘になるんだろ?家族みたいに付き合ってきて、これから本当の家族になれるんだ。ナディちゃんの言うように、みんな幸せになれる気がするねぇ……」
この場でたった一人の男親であるゼスまで。なんというか……この夫婦、器がでかすぎる。
『エイムよ。まずは目の前にいる自分に想いを寄せてくれる女をこれ以上泣かせないことが、一人前の男の甲斐性の一つではないのか?』
頭に直接響いてきたミネルバの言葉で、やっとエイムは気付いた。
そして、目の前のナディをそっと抱きしめた。抱きしめたナディの身体はかすかに震えていた。
「ごめんな。無理させて。」
ナディのカラダの震えが止まってから、エイムはそっと身体を離すと、今度は固まったままでいたレオンに近寄って抱きしめた。
「ぼ、僕、エイムのお嫁さんになれるの?」
「いいのか俺で?ナディと一緒にだぞ?」
エイムに抱きしめられたまま、レオンは声も出せずにうなずいた。
「僕はそれがいい。ナディと一緒でいい。ナディと一緒がいい。」
そう言って、少し間をおいてもう一度、うなずいた。
「まぁ大変。これから花嫁衣装用意しなきゃ!しかも、二人分。年が明けたらすぐ結婚式よ!」
「ナディの分も頼めるのかい?それはありがたいね。」
「もちろんよ。ナディちゃんもうちの娘になるわけだから。任せといて!」
そんな盛り上がる親同士の会話を聞きながら、エイムがレオンの身体を離すと、レオンはナディに近づいていって抱きついた。
「ありがとう。ナディ。ありがとう。」
「お姉ちゃん、お兄ちゃんと三人で幸せになろうね。」
「うん。うん。ありがとう。ありがとう。」
そんな二人を見ながら安心して力が抜け、近くに椅子に座り込んだエイムに横に、ずっと成り行きを見ていたリアが寄ってきた。リアも目を赤くしていた。
「なんでリアまで泣いてんだ。」
「ちょっと感動しちゃって。ナディ様も、レオン様もいいなって。よかったなって。」
リアは笑顔だった。まだ数ヶ月しか一緒に暮らしていないナディやレオンのことを本当に祝福してくれているようだった。
「エイム様、これから新妻を二人も守らなければならないわけですから、『あれ』は必要ですね?冒険者として村を出て行かれるのなら、私もお供させていただきます。よろしいですよね?」
エイムに反論する余力はもうなかった。
「よろしく頼む……」
「はい。かしこまりました。」




