それでいいの? (2)
エイムの家のリビングには、母 エレノアと二人で暮らしていたときでも不必要と思えたほど大きいテーブルが鎮座しているのだが、レオンとナディ、その家族を招いてパーティーをするために必要なものだと、エイムは小さい頃からそう理解していた。
その普段は大きすぎるテーブルに、所狭しと並べられた料理の数々。
「このほろっほろになったお肉、めちゃくちゃ美味しいです!」
リアが気に入ったのは、エイムも小さい頃から大好きな牛のお尻の方の肉を時間をかけてたくさんの野菜と一緒に煮込んだ料理で、つもみんなで集まるときにはマイアにねだって作ってもらっていた料理だ。とにかく手間暇がかかって、何日も前から用意するから『特別なときだけ』と、ねだるとよくマイアに釘を刺されていた。
もちろん、すでにエイムもしっかり自分の分は手元の皿に十分な量を確保している。
リアがこの村に来て三ヶ月、ナディとは一緒に住んでることもあるが、レオンともすっかり仲良くなって、村に来た頃に感じた影のようなものは感じにくくなり、今も女の子が三人、仲良く楽しそうなのが、エイムは見ていて何より嬉しかった。
「エイム、どうした?女三人の中には割り込みづらいのか?」
「そういうんじゃないけどさ……俺もそろそろ考えないといけないなと思ってさ。」
エイムの言葉に、ミネルバはすぐには何も返さなかった。
「俺、年が明けたら村を出ようと思う。」
「村を出てどうする?」
ミネルバがエイムに問い返した言葉が響くほど、いつの間にか、先ほどまでの賑やかさは消えていた。そして、全員がエイムの答えに注目した。
「冒険者に……なろうと思う。」
そう言ったエイムに、即応したのはナディだった。
「だったら私もついて行くね。」
「だめだ。」
そうエイムが応えると、ナディが勢いよく椅子から立ち上がって、エイムの前までやって来た。
「なんでよ?」
「冒険者ってのは多かれ少なかれ命の危険がある仕事だ。そんな旅にナディを連れていけない。」
「だったら、なおさらそんな旅にお兄ちゃん一人で行かせられない!」
「一人前の冒険者になったら、必ず帰ってくる。それまで待っていてくれ。」
「お兄ちゃんが一人前の冒険者になるのっていつよ?私はいつまで待ってればいいのよ!?」
エイムの言葉に、矢継ぎ早に言葉を返してくるナディの目には力があった。その力にエイムは蹴落とされそうになっていたが、自分の意思を試されているようで引き下がれずに、次の言葉を探していた。
「お兄ちゃんだけに一人前になって欲しいだなんて思ってない!」
ナディにまったく迷いは感じられなかった。ナディは普段、こんなに感情を露わにするタイプではなく、怒っても態度で示すだけで、感情をそのままを言葉にしてぶつけてくるナディは、エイムにとっても初めてで、そんなナディを説得する言葉は、エイムにはすぐに浮かんでこなかった。
「お姉ちゃんもこれでいいの?」
いきなり矛先を向けられたレオンが面食らって、椅子に座ったまま、ピンと背筋を伸ばした。
「お兄ちゃんがもう帰ってこないかもしれないんだよ?もう会えなくなるかもしれないんだよ?お姉ちゃんは、それでいいの?!」
ナディがなぜそんなにエイムが一人で村を出て行くことにむきになって止めるのか、やっとエイムにもわかってきた。エイムの行動に、冒険者になって帰ってこなかった父親の影を見ているのだ。
そんなナディとレオンは違う。そう思っていたエイムが見たレオンは、拭いもせずに大粒の涙をぼろぼろこぼしていた。
「やだよ。エイムにもう会えなくなるなんてやだよ。」
そして、レオンの涙は止まらなくなった。
「僕、夜一人で泣いてたんだ。気を失って運び込まれてきたエイムが、目を覚まさなかったとき。このまま、エイムが目を覚まさなかったら……そう思ったら、どんどん怖くなって、涙が止まらなくなって……お願いだから目を覚まして、僕を一人にしないでって……そう思いながらずっとお祈りして……泣いてたんだ。」
涙を流しながら懺悔するように言葉を口にするレオンに、ナディは何も言わずに近づいて、そっと抱きしめた。
「私だけじゃなく、こんなお姉ちゃんまでおいて村から一人で出てったら、二人で地の果てでも追いかけていくからね!」
その言葉をぶつけられたエイム次の言葉を探すことを止めた。
「お姉ちゃん。大丈夫だよ。私がお兄ちゃんを一人で行かせたりしないから。二人で一緒にお兄ちゃんのお嫁さんになって、お兄ちゃんについて行こう?ね?」
……な、なに?!




