冒険者になんてならないで! (2)
ギルドの中はごった返していた。
地震後の混乱でも依頼は絶えないらしいのだが、ギルドもギルドでの中も、地震で破損したところなどを未だ修理中だったりで、設備も含めて地震前の機能を回復し切れていない。
そんな中、冒険者たちはここぞとばかりにいい話はないか、別の冒険者はダメになってしまった装備品の補充や、そうでなければ武具の修理などにやってくる普段からギルドに出入りする人間に加えて、たまにしか来ないエイムたちのようなギルドがかき集めている物資の搬入・搬出をしにやって来た者だのが入り乱れて、喧噪を助長していた。
「頼まれたハイポーションを納品に来たんだが、どこへもっていけばいい?」
エイムは捕まえた職員に注文票を見せた。
「あ、えと……少々、お待ちください。」
その職員はバタバタと職員用の扉の奥に入って、すぐに戻ってきて、一度、ギルドの外に出て、裏手の納屋に案内してくれた。
「大丈夫かよ。こんなとこにおいて目を離したうちに持ってかれたらどうすんだ。ただのポーションじゃないぞ、ハイポーション、しかも百本だぞ。」
「今ここしか場所がなくて、次から次へといろんなものが入って出ていきますんで、常に誰かがいますから大丈夫です。」
分かっているならそれでいい。一度馬車に戻って、ナディと二人、ハイポーション十本入りのケースを十ケース、運び終わってその職員に納品書を渡すと、金貨の詰まった袋と、新たな注文書を渡された。
「でき次第でいいので、もう百本。よろしくお願いしますとのことです。」
冒険者より、今は被災した人の治療などで、あればあるだけポーションは出ていく状況で、中でも高品質なハイポーションをまとまった数、用意できる錬金術師というのは、この近隣では師匠くらいなものらしい。
「注文書は確かに受け取った。あと今日、泊まる宿は?前回の注文書をもらったときに、お願いしておいたって聞いてるんだけど。」
「え?!あ、少々、お待ちください。」
またその職員はギルドの中に消えていき、今度は結構、待たされた。
「六花亭にご用意があるそうです。この通りを右にまっすぐで看板が見えるはずです。」
馬車はギルドに預かってもらって、エイムたちは早々に宿に向かうことにした。リアを早く横にさせてやりたいこともあったし、大金を持ってぶらぶらしたくもなかった。
ゼスからの討伐依頼と、エイム自身の冒険者登録などの所用は、あとでエイム一人で改めて来ることにした。
言われた六花亭なる宿を目指して歩いていると、ごった返していたのは、ギルドばかりではなかった。
被災した建物の解体や修理があちこちで行われていて、それだけで街の中が騒然としていた。それだけ人の出入りが激しくなると、当然、よからぬことを考える輩も増えるわけで、それを取り締まるためにまた人が増える。騒がしくもなるわけである。
宿に着いてみると、困ったことに予約は一部屋しかされておらず、部屋にベッドは二つ。当然、他に空きもなかった。
「私、お兄ちゃんと同じベッドでいいよ。」
ナディは笑顔でそう言うが、絶対、よくないので、再度、ギルドに行くついでに馬車に積んである寝袋を持ってくることにした。
「またギルドに行くの?」
「あぁ、ゼスさんからの依頼を出しにな。」
「私も行く!」
リアを心配すると自分のことはいいので、二人で行ってきてくださいというので、結局、ナディを連れていくことになった。
ギルドに戻ると、まだまだ賑わっていたが、幸い依頼受付の窓口は混み合っておらず、預かってきた依頼書はすぐに受領したもらえた。
「冒険者登録はどこに行けばいい?」
エイムが聞くと、登録だけならと登録用紙を持ってきてくれた。
「お兄ちゃん、冒険者になるの?」
「登録だけな。」
登録はしておくだけでも価値はある。登録なしで薬草を集めて持ってきても、ただ金になるだけだが、登録しておけば、その実績は履歴として管理される。
コツコツと実績を積み上げておけば、いざ冒険者として本腰を入れたときに、多少の足しにもなるだろう。
「登録だけなら私もしとこっかな?」
ナディまでそんなことを言い出し始めた。
「ただ、今は登録を受け付けることはできるのですが、認識票を発行できません。それでもよろしければ……と言うことになるのですが。」
対応してくれた職員によると、リオキリルにあるキリルのギルド本部と連絡が取れず、照会業務が滞っていて、マルタ支部だけの判断だけで、冒険者の新規登録を進めるかどうか、支部の上層部で議論中と言うことで、登録希望だけ受け取って認識票の発行は後日になるということだった。
少し話し込んでも待っている人もおらず、リオキリルの話も出たところで、今、リオキリルどうなっているかを、エイムはその職員に聞いてみた。
「壊滅したと聞いています。」
地震の後、リオキリルでは大きな爆発もあったようで、それに加えて火事と、近隣の街も被災して、マルタにも避難してきた人はいるらしい。
「その人数が少ないのです。」
リオキリルはキリル公国の首都。もちろん、この国最大の都市だ。数十万にも及ぶ住人がいる都市で災害があって、そこから避難してくる人が、数千、万にも届こうかと言う数がいても不思議はないのだが、マルタには百にも満たない避難民しか流れてこなかった。
もちろん、避難するなら豊かなエレーニア王国との国境があり、そこへの街道沿いも栄えている西側に逃げた方が良いと判断する人も多いだろうが、それにしても少なすぎるというのである。『壊滅』と表現するほどの被害が出ていると想像しがたくはない。
「まだ本格的な救援隊や調査隊も組織できておらず、被害が拡大した原因も、被害の規模も把握できていないのが現状です。」
こういうときこそ冒険者ギルドの出番であるはずなのだが、本部が被災し、命令系統が混乱していて、半月以上経ってもこの有様だった。
「ありがとう。手間を増やすとあれだから、登録用紙だけもらえるかな。しっかり、書いて、次回、持ってくることにするよ。」
そう言って、ギルドでの用件はそこまでで済ませて、宿に戻ることにした。
あたりは日も暮れ始めていたが、マルタの街の喧騒は収まる気配もなかった。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
宿の玄関まで来て足を止めて、街の様子を伺っていたエイムが、ナディに促されて部屋に戻ると、回復したリアが神妙な面持ちで待っていた。
「何のお役にも立てず、申し訳ありませんでした。」
「気にしなくていいよ。もともと俺一人でやるつもりだったし。それよりちょっと頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
「私にできることであれば、何でしょう?」
「ユダに情報収集をお願いできないだろうか?」
先般の魔物が巣くった遺跡を探った際、離れた場所からでも群れの様子を探ってみせたユダなら、人の話し声などを聞き分けて情報を収集できるのではないだろうかとエイムは考えた。
例の筒を取り出して、呼びだしたユダにリアが指示をする。
「まわりの会話の中から、リオキリルの状況に関する情報を収集し、集約するだけなら可能です。短時間ですませるなら、できるだけ人が多く集まり会話が交わされる食堂や酒場などはございませんでしょうか?」
「リアも回復したみたいだし、夕食にはちょうどいい。宿の主人に聞いて、食事のできるできるだけ大きなお店を紹介してもらおう。」
宿の主人に聞いてきた食堂はごった返していた。食事を取るには少々、騒がしいが情報収集には申し分ない。
ユダはリアの右肩に止まっていて、集中して聞き耳を立てているように見える。
その間に、エイムたちは注文した鶏のローストを一羽と、各々好きなスープとパンをゆっくりと時間をかけて味わった。
「どうだ?なにか、聞けたか?」
一番最初に食べ終えたエイムがお茶を飲みながら、ユダに問いかけた。
「皆さん同じような話をしているので、総合すると量的にはどうかと思いますがある程度は。」
「それじゃ、ナディとリアが満足したら、もどるか?あと、帰り道でも集められたら頼む。」
「了解しました。」
結構、大きかった鶏のローストは残ったら、パンに挟んで持って帰って明日の朝飯にでもするかと思っていたが、ナディとリアで骨しか残らずきれいさっぱり平らげられていた。
「美味しかったね。」
「えぇ。特にソースがとても。」
二人とも線は細いのに、普段は食べないようなあんな量を食べて大丈夫か?エイムは不思議でならなかった。
部屋に戻って、落ち着いたところで、ユダが集めてくれた情報をまとめると、リオキリルはあの地震と、その後の爆発と火事で壊滅。ここまでは、ギルドで聞いた話と同じだった。
避難した人は、有力諸侯が統治する大都市がいくつかある西側に逃げた人が圧倒的多数だったようだ。その理由としては、他にも東側の海沿いでは大きな津波で沿岸の村や町で大きな被害が出ていること、比較的、国境越えが厳しいハン帝国に向かう東側に対して、それが比較的自由にできる、また大陸最大の穀倉地帯もあり豊かなエレーニア王国に続く西側へ、徐々に人の流れが偏ったらしい。
「他になにか気付いたことはないか?」
ユダが集めた情報に対して熱心に質問を繰り返すエイムの邪魔をするわけにもいかず、かといって特に興味のないナディは早々にベッドで横になり、そのまま寝付いてしまった。リアも頑張ってはいたものの、ついには船をこぎ出して、自力でベッドまではたどり着いていた。
ずいぶん夜も更けた頃にようやくエイムは質問を終え、ベッドに入った。ベッドは二つしかなかったが、ナディとリアが同じベッドで寝てくれることになったので、エイムは一人、広いベッドを独占できることになった。




