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魔装変身 レビルオン  作者: 川端 大夢


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冒険者になんてならないで! (1)

「お姉ちゃんと何かあった?」


 少し小寒さを感じさせるようになったこの季節に、太陽の光に照らされその優しい暖かさを感じながら「うららか」という言葉の意味を実感できる晴れ渡った日に、手綱を引く手も、気を付けていないと放してしまいそうな心地よい程度の馬車の揺れに身を任せていたその虚を突いて、いきなりそう聞いてきたナディの方に、エイムは明らかに不必要なスピードで視線を向けた。

 自分でもその反応は過剰であったと反省した。


「な、なんだ?いきなり。」


 御者台に二人、横に座っているナディの、手綱を握るエイムを睨むくらいの視線に絶えきれず、馬車の進行方向に目を戻した。


「マイアさんがね。びっくりしてたの。お姉ちゃんが朝の食事の準備、手伝うようになったんだって。そりゃもう泣きだすんじゃないかってくらい。あんなうれしそうなマイアさん、初めて見た。」


 ナディの料理の師匠であるレオンの母 マイアは、常日頃から、一人娘であるレオンにもそれを教えたいと言っていた。レオンに物心が付いてから十年以上である。その母としての願いがある日、突然、叶ったのだ。泣きたくなる気持ちはエイムにも容易に想像がついたし、そのことをナディに話している時のマイアの表情も目に浮かぶようだった。


「お姉ちゃんが怪我して、お兄ちゃんに背負われて帰ってきたあの次の日から突然よ?」


「へぇ。」


 エイムは精一杯、気を落ち着けてから相づちを打った。我ながら噛むこともなく、よくできたとエイムは思った。


「ふーん。」


 馬車を引く馬を御していてよそ見はいけないと、視線を進行方向に固定しいるエイムだが、横からナディの視線が刺さりっぱなしになっていることは、しっかりと感じられた。


「お姉ちゃんが相手だったらいいけどね。」


 だったらなんでこんな尋問されているような気分にさせられるのだろう?エイムには理解しかねたが、ナディの問いに対して後ろめたさのような気持ちがないわけでもなかった。


 あの日、帰ってきて、けがをした猟師たちともどもレオンをゼスの元に連れて行って、エイムが家に戻った頃にはあたりは寝静まった真夜中だった。背中でずっと感じていたレオンの温かさと柔らかさが鮮明に思い出され、ベッドで横になってから暫し悶々としたが、それもつかの間で、疲れからかすぐによく眠れた。

 しかし、その日から、普段からそれをことあるごとにアピールしてくるナディと同じくらいレオンが女であることを、自分でもうっとうしくなるくらい意識するするようになっていた。


 ただそれくらいでレビルオン・スーツを使っても前回の時のような夢に見るほどの衝動はなく、次の日、リアにユダを返したときに、そのことを聞いてみると……


「装着していた時間が極端に短かったからではないでしょうか。」


 変身していきなり生命力が必要以上の増進するわけではない。ならば、どれくらいなら、冷静さを失わずにいられるのか?


「前回の装着記録を元に考えると、エイム様なら少なめに見積もって三分程度なら問題ないと思われます。」


「『三分』ってどれくらいだよ?わかんねぇよ。」


 この世界には時を正確に刻む道具がない。それ故、時間に関することを正確に伝えるのは非常に難しいことは、リアにも分かっていた。


「ユダ、レビルオンを装着したときに、視界の邪魔にならないところにタイマーのようなものを表示させることはできますか?」


「問題ありません。」


「では、エイム様。次回から、視界の片隅に『百八十』から始まって、徐々に減っていく文字が、視界の端に見えるようになります。それがゼロになるまでが、影響のないと思われる範囲内です。」


 そのあと、ユダにそれがどれくらいの時間かを、エイムは何度か体験させてもらった。


「短いな。まあ、あれを使うことなんて、普段は有り得ないからな。いいか。」




「お兄ちゃん、マルタが見えてきた。リアさん、大丈夫?もうすぐ着くよ。」


 そんな事をエイムが思い出していると、道のはるか先に、マルタの街らしきものが見えてきた。エイムが魔法学院への行き帰りに、宿泊のために必ず立ち寄っていた街がこのマルタだった。

 エイムの住む村からは徒歩なら丸半日以上かかるが、馬車なら朝ゆっくり出ても昼には着く街道沿いの宿場町で、ここからさらに一日歩いて、やっとリオキリルに行き着くことができる。


 それでもエイムの住む村よりリオキリルに近いこの街は、あの日、地震でエイムの宿泊した宿も倒壊したように、エイムの住む村とは比較にならない甚大な被害が出ていた。

 そのために、ミネルバの元に大量のハイポーションの発注があり、その納品のために、ナディに付き添ってこのマルタまでやって来たのだ。


「ギルドからの注文?ってことは、ギルドは機能しているってこと?」


「どこまで機能しているかまではわかんないけどね。注文書には間違いなくギルドの印が入ってた。それを持ってきたのも冒険者風の男だったし、少なくともマルタのギルドは組織が瓦解したってことではなさそうだよ。」


 ナディに付き添って、マルタまでハイポーション百本を届けてきてほしいとエイムが頼みに来たミネルバはそう言った。


「大商いだからね。駄賃は金貨ではずむよ。ゼスからも、例の遺跡の魔物の討伐依頼を、ギルドに出してきてほしいと頼まれてるしね。頼めるかい?エイム。」


 エイムは二つ返事で了承した。

 マルタのギルドが生きているなら、いろいろ考えたが冒険者登録もできるならしておきたい。それにマルタに行けば、リオキリルの惨状も、より詳しく聞けるだろう。


 そこにリアもついてくると言い出した。


「荷物運びくらいならできます。お手伝いさせて下さい。」


 とは言ってみたものの、実際、積み込みを始めるとナディより先にバテて、おまけに出発して、そう時間も経たないうちに今度は馬車酔い。村の共有の馬車を汚すわけにもいかないので、後ろでいつでも顔を馬車の外に出せる一番後ろで、ぐったりしていた。


「は、はい。何とか大丈夫です。ご心配をおかけしました。」


 大分、流暢になってきたリアの話し方だが、その返事にはまるっきり力感はなく、実際、マルタについてギルドに横付けした馬車を降りてもまだよたよたしていて、もはや荷物運びどころではなかった。


「ひとまず、俺とナディでギルドの中で納品の手続きしてくるから、馬車の番をしててくれ。」


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