秘密にしといてくれるか? (3)
翌朝、しっかりと朝食も済ませて、いよいよ魔物が巣くっている山の中腹にある遺跡を目指して、慎重に移動を始めた。
事前に、合わせた段取りはこうだった。
遺跡近辺は開けていて見渡しもいいので、様子を探るだけなら身軽な方がいいということで、エイムが一人で向かうことになった。いざ見つかれば、ストレングス(身体強化)を使えば、一人なら捕まる危険も少ない。
カノンら衛兵の二人は、後方で退路の確保。近辺の森の様子は、レオンと猟師三人で探るということになった。ひとまず、日が一番高くなるまでを目安に、それぞれ役目を果たすことにした。
そういうことで、カノンらと別れて、単独行動になったエイムが、リアから預かった筒を取り出して、そのふたを捻って開けるとそこからユダが飛び出してきた。
「おはようございます。エイム様。」
「ああ、おはよう。ユダ。呼びだして早速で悪いが、あの遺跡まで行って中の様子を探ってきてくれるか?」
「行く必要はありません。ここまで近づいていれば、石造りであろうと、中の様子は見えますので。オークと呼ばれる魔物が八匹。先般、村を襲ってきたオークとは違い、装備が充実していますね。それぞれ鎧と、帯剣しているものが三匹、斧を携えているものが二匹ほど。かなり統率が取れた群れのようです。」
エイムは唖然とした。
ユダにこんな能力があるなら、一人でこんな所まで近づく必要もなかった。
「遺跡の裏手の森には、遺跡からかなり離れた位置にですが、ゴブリンなどの反応もあります。こちらはゴブリンだけで十匹程度でしょうか?もう少し正確に把握してきましょうか?」
エイムは首を横に振った。
目的はあくまで偵察である遺跡に魔物が巣くってる。しかも、無視はできない数の。その事実を確認できればそれで良い。
「それより……森に入ったレオン様たちがゴブリンの群れに包囲されているようです。」
「ばか!そっちを先に教えろ!」
目の前には五匹のゴブリン。普通に平地であれば、こちらには両手に戦棍があり、相手の武装を上回っている。ものの数ではない。が、獣道で足場が悪い上に、奇襲を受けて一人の猟師と分断され、負傷した別の猟師を先に逃がしたときに右足を挫いた。おまけに目の前の五匹だけではない。まだいる。レオンには、それが分かっていた。
しかし、それらまで全滅させる必要ない。目の前のこの五匹を何とかして逃げる。
戦棍を左右に構えて動かないレオンに、じりじりと近寄ってっくるゴブリンたちだが、足場が悪い上にまわりがうっそうとしていて取り囲む動きが出来ずにいる。
一番右にいるゴブリンが、木を避けて前に出てきたら、こいつから順番に各個撃破する。
そして、その時が来た。
標的に向かっていくと、剣を振ってきたが左の棍で弾いて、右手の棍で脳天を一撃。手応えはあった。振り向くとすでに残りの四匹が駆け寄ってきていたが、やはり思い通りに距離を詰められずにいる。
挫いた右足で踏み込んで、正面から向かってきたゴブリンの顔を目がけて右の棍を突き出す。あと三匹!
右足に激痛が走る。左足も動かない?!
「クっ!放せ!」
最初に頭を砕いたゴブリンが、左足首をつかんだまま絶命していた。死後硬直していて簡単に振り払えない。
それに気をとられた瞬間に、レオンからメスの匂いを嗅ぎ取ったゴブリンが武器を捨てて飛びかかってきた。
挫いた右足一本では踏ん張りきれず押し倒される。
「きゃあぁ!!」
大の字になって倒れたところに、上から跨がられ即座に首を絞められる。
意識が遠のく。落ちたら最後、身ぐるみを剥がされ、この小汚い化物どもの苗床に……その嫌悪感を、何よりこんな所で死にたくないと言う思いを糧に、レオンは必死にもがいた。
「いや、いやだ!」
立ち技ならまだしも、寝技で複数相手では体術も役に立たず、次のゴブリンに左手を押さえられ、さらに別のゴブリンに右手の棍を踏みつけられた。三匹のゴブリンが、レオンの防具をはがしにかかりながら、その舌がレオンの肌を這いずり回る悪寒を感じながら、どんどん意識が遠のいていく
「いやーあぁぁぁ!!」
残り僅かな意識と気力と体力で声を上げたとき、レオンに馬乗りになって首を絞めていたゴブリンの頭が、目の前から弾け飛んだ。
「お前ら……俺のレオンに何してんだ!」
それはレオンも今まで聞いたことがないくらいの怒気を孕んだエイムの声。
気力を振り絞って、なんとか半身だけ身体を起こすと、そこに立っていたのは一人の男は全身を聖騎士のような白い鎧を纏っていた。
「時間がなくても一匹も逃がすか!まとめて消し飛べ!レイ・ボウ(光の矢)!!」
見たことのない数の光の矢が、一斉に森の中に向かって一直線に飛び去り、次々と破裂音をかき鳴らし、ゴブリンたちを絶命させていった。
「レオン!大丈夫か?どこを怪我した?!」
そう言ってレオンを抱きかかえた白い鎧の騎士は、レオンの目の前で、エイムになった。
「え、エイム……エイ……」
そう言って残りの力全部を使い切ってエイムにしがみついたレオンは、そのまま気を失ってしまった。




