眠れぬ夜は
私はベッドの中で寝返りを打った。
あー、眠れないじゃない!何で、目が冴えてんの?
理由はすぐに思い当たる。夕方に、バカみたいにコーヒーを飲むからだ。これじゃあ、誰にも文句は言えない。自業自得というか。
仕方ない、ベッドから出ますか。私は起き上がる。布団を捲り、ベッドから降りたのだった。
寝室を出てリビングに向かう。まだ、旦那が起きていた。名前を勇樹という。顔は人並みだが、性格は明るくて大らかだ。年齢は私と同じく、三十九歳になる。傍らには愛猫のネロがいた。
勇樹は映画をテレビで見ていたらしい。熱心に画面に釘付けになっていた。私は気を使い、静かに通り過ぎる。
キッチンの片隅にある冷蔵庫の前に辿り着く。扉を開け、中からミネラルウォーターのペットボトルを出した。蓋を開けてごくごくと中身を飲む。半分くらいそうしたら、飲むのをやめた。蓋を閉め、キッチン台の上に置く。
「あー、生き返ったわ」
独り言ながら、大きく息をついた。やはり、喉が渇いていたからか、ミネラルウォーターが甘露のように感じる。ふう、目的は果たせたし。再び、寝室に戻るのだった。
リビングをまた通る。勇樹は映画が終わったのか、座っていたリビングから立ち上がった。ふと、私に気づいたらしく、こちらを見た。
「……あれ、順子?」
「あ、ごめん。ちょっと、眠れなくて」
「いや、謝らなくていいけどさ。目が冴えちゃった?」
「うん、今さ。何時か分かる?」
「今かあ、午前十二時を回ったとこ」
私は確か、午後十時頃に就寝したはずだ。二時間しか眠れていない。
「そっか、二度寝してくる。おやすみ」
「ふうん、映画は終わったからさ。俺もそろそろ、寝るよ」
「分かった、先に行くね」
私が言うと勇樹は頷く。寝室に向かった。
先にベッドに入り、眠りにつく。少し経ってから、勇樹もやって来た。ゴソゴソと毛布や布団を捲り、入ってくる。
「……順子、もう寝た?」
「うーん、何?」
眠い目をこすりながら、瞼を開けた。後ろにいる勇樹に返事をする。
「ごめん、ちょっとさ。くっついて良い?」
「はい?」
「いや、良い年して何を言ってるんだとか思われるだろうけど。たまには、スキンシップを取りたいんだよな」
「……分かったよ、くっつくだけならいいよ」
「本当にごめん」
勇樹が苦笑いしたのが気配で分かった。仕方なく、私は彼との空いていた隙間を一気に埋める。なんなら、自分から抱きつく。久しぶりに旦那と添い寝をしている事に今更ながら、気がついた。
「……ん、あったかい」
「やけに積極的だな」
「たまにはいいじゃん」
私が言うと勇樹はおもむろに背中に両腕を回す。ギュッと力を込められ、抱き寝の状態になった。しばらくはそうしていたのだった。
――END――