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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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78/83

第78話 関係ありません



 俺の目に映った、ギラリと光るなにか……意識が朦朧とし始めても、それがナイフであると本能的に直感した。

 それが、俺をどうするためのものか……それは、考えるまでもない。


 俺の命を、奪うためのものだ。


「……っ」


 声も出せず、薬のせいで力が入らない。迫りくるナイフが、やけにスローモーションに見える。

 それが、俺の目へと……狙いを定めて、ぐんぐんと迫り……



 ガギィン!



 ……鋭い音を立てて、ナイフが弾き飛んだ。

 ナイフを落としたのではない、ナイフが弾き飛ばされたのだ。なにに?


 カラン、と近くになにかが落ちた音がした。

 それは、黒く光る鋭い武具……クナイだった。クナイ、それを見た瞬間、俺の頭には一つの顔が浮かんだ。


「主様ぁ!」


 そして、直後に声が聞こえた。それは、思い浮かべた顔と同一の人物のもの。

 空から降ってきた声、少し遅れて人影が飛び降りてきた。


 それを確認したのは、俺だけじゃない。俺の背後を取っていた人物もだ。

 その人物は、自分に刃が迫っていると確認するや、俺を突き飛ばした。


「ぁ……うぐっ」


 薬で力が抜けていた俺は受け身を取ることもできず、突き飛ばされて倒れてしまう。

 打ち身の痛みに顔をしめつつ振り返ったのと、その人物がナイフを構えたのと……飛び降りてきた人物が短刀を振り下ろしたのは、ほとんど同時だった。


「せぁあ!」


「っ!」


 ギンッ、と金属の衝突した音が響く。

 振り返った俺の目に入ったのは、飛び降りて短刀を振り下ろした影響でなびく黒髪と、見覚えのある背中だった。


 顔を見なくても、わかる。


「く、のいち……さん……」


「主様、ご無事ですか!」


 彼女は……俺を主様と呼んで慕ってくれる久野市さんは、今俺のことを助けてくれた。

 本当ならすぐにでもお礼を言いたいが、なかなか言葉が出てこない。これも、薬の影響か。応えることができない。


 久野市さんが振り下ろした短刀を、ナイフで受け止めている人物……黒いフードを被って身を隠している。

 だけど、その服装はスカートだった。ってことは……女、か?


「主様!」


 短刀とナイフの拮抗……飛び退いた久野市さんは、ちらっと背後の俺を確認した。

 情けなくも、うつ伏せに倒れている姿だ。意識も朦朧としている。


 だが、それを見て久野市さんの目の色が変わったのが、わかった。


「よくも……!」


 俺に向けられているわけではないのに、俺でもわかるほどの殺意が……久野市さんから、溢れ出す。


 フードの人物を睨みつけると、一気に距離を詰めて刃を振るっていく。

 それはまるで踊るように舞い、目の前の敵を仕留めんと突きを繰り出している。


 フードの人物は、それらを紙一重で避けていく。時にナイフで弾き、傷を負わないように。

 しかし……


「っ、くっ……」


 明らかに、押され始めている。久野市さんの猛攻に、体が追いついていないのだ。

 このままいけば、久野市さんがあいつを倒してくれる……そんな気持ちが生まれたと同時、久野市さんの左手が振るわれる。


 隠し持っていた二振り目が、振り上げた短刀が……フードの人物を狙う。


「……っ」


 とっさに後ろにのけぞるフードの人物だが、放たれる斬撃を完全に避けきることはできなかったようだ。

 振り上げられた刃は、フードを切った。


 鋭い短刀に刻まれたフードは、ビリビリと破れ……フードに隠れた素顔を、露わにした。


「! うそ、だろ……そんな……」


 その素顔を見て、俺は唖然とした。信じられない人物が、そこにいたからだ。

 なんてったって、知っている顔だった……それも、ここ最近で知り合ったもの。正確には、その人物と俺の友達が知り合った。


 フードが破れ、露わになった顔……薄めの栗色の髪をツインテールにして、まるで猫みたいな大きな目がきりっとしているのが印象的な、女性。

 その目は、今鋭く細められているが。


「……っ」


 俺のバイト先の先輩、篠原さんの娘である……篠原 美愛(しのはら みあ)さんの姿が、そこにあった。


「な、なんで……あなたが?」


 彼女とは、一度会ったきりだ。それも数分。だから、見間違いという可能性もある。

 あるのだが……俺の言葉を聞いた瞬間、彼女がわずかな反応を見せた。


 そして、忌々しげに顔を歪め……「ちっ」と舌打ちをしたのだ。


「……顔を見られるなんて。そうならないように、終わらせるつもりだったのに」


 それは、明らかな"答え"だった。

 俺に顔を見られないように、背後から狙い……"終わらせる"つもりだった、と。


 終わらせる、とはなんのことなのか……わざわざ、聞くまでもない。


「ちょっ……なんで、こんなこと! 篠原さんの娘さんが……なんで、俺を!?」


「関係ありません」


 なんとか立ち上がり、彼女に真意を問いかける。だけど、それをバッサリと切る声があった。

 それは、美愛さんのものではない。


 短刀を構える、久野市さんのものだった。


「主様を害しようとした……その事実だけで、充分です」


 俺から、久野市さんの表情を見ることはできない……だけど。

 どんな表情をしているのか、予想することはできる。


 きっと……ものすごく、キレている。


「なんなのあんた、邪魔なんだけど。なにその変な服、コスプレ?」


「……」


 美愛さんの言葉に、久野市さんは答えない。

 ただ、じっとしたまま……まばたきをした次の瞬間には、その場から消えていた。


 自然と、視線が動いた。美愛さんの方へと。

 彼女の背後に……短刀を構える、久野市さんの姿が見えた。

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