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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第二章 現代くノ一、現代社会を謳歌する!

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第59話 え?



 久野市さんへのプレゼント選び。桃井さんと二人きりで、デパートにやってきた。

 そんで、なにがいいかと頭を悩ませていたところ……化粧品はどうか、という話になった。


 というわけで、俺たちは化粧品売り場へと向かった。


「ここかぁ」


 たどり着いた、化粧品売り場。立ち止まり、ざっと店内を見渡す。

 やはりというか、女性客が多い。こんなところに入るのか……

 なんか下着売り場の時を思い出すな。


 いやいや、俺一人ならともかく、桃井さんも一緒だし、化粧品だ。変な顔はされないだろう。


「木葉くんは、こういうところは初めて?」


「そりゃあ、まあ……」


 振り向く桃井さんが、どこかいたずらめいて聞いてくる。可愛い。

 こういった場所は初めてか、と聞いてきたわけだけど……そりゃ、初めてだ。


 男でも化粧品を使う人がいる、とは聞いたことがある。だが、数か月前まで田舎の故郷で過ごしていた俺にとっては、信じられない話だ。

 こういう場所も、女性しか来ないだろうし。自分には縁のない場所だと、割り切っていた。


 それがまさか、桃井さんと一緒とはいえ……いやむしろ、桃井さんと一緒に来ることになるなんて。


「行くよ、木葉くん」


「あ、はいっ」


 桃井さんに促され、続いて俺も店内へ入る。

 瞬間、鼻の奥にまで広がるような、濃い香り……


 こ、これが、化粧のにおいってやつか……


「……木葉くん、大丈夫?」


「え、えぇ。ただ、思ったより香りがすごくて……」


「え?」


「え?」


 思わず鼻をつまみそうになったが、そんなことをしてはさすがに失礼だと思い、耐える。

 しかし俺の異変を、桃井さんは感じ取ったらしい。情けない。


 俺は、大丈夫だと伝えたつもりだったが……なぜか、桃井さんは固まっていた。

 しばしの間見つめ合って、そして……


「! あ、あぁ、香り、香りだよね……そう、ね。慣れてないと、ちょっときついかも、ね」


 俺に背を向けた。ただ、耳が赤くなっているようだった。

 なんだ。なぜ桃井さんは、なにかに納得したような……いや、納得しようとしているんだ?


 香り、という言葉がなにかおかしかったのだろうか……

 ……そういえば、桃井さんの下の名前って、香織だったな……


「! え、いや、違いますよ!?」


「わ、わかってるから! 蒸し返さないで!」


 もしかして桃井さん……俺が化粧の香りが強いって言ったのを、香織と自分の名前を呼ばれたと、勘違いしたのか?

 うわ、やば……俺も、まったく気にしてなかった!


「うぅ……じ、自意識過剰でごめんなさい……」


「いえ……俺も、言い方が曖昧でしたね……」


 うわぁ、なんだろうこれ。意識した瞬間、すげー恥ずかしいぞ?

 ただでさえ、女の人のことは下の名前で呼んだことなんてない。そりゃ、昔は近所の子を名前で呼んでいたが……小さい頃だったからだ。


 このままじゃ気まずい。なんとか雰囲気を変えなければ。


「け、化粧品のことは俺はさっぱりなので、桃井さんに頼ることになると思いますけど……」


「う、うん、任せてよ」


「……さ、桃井さんも、化粧を?」


「目立たない程度にはね。私はすっぴんには自信ないから、忍ちゃんみたいにってわけにはいかないかなぁ」


 ……よし、雰囲気も柔らかくなってきたぞ。


 それにしても、桃井さんも化粧をしているのか。ぱっと見わかんないな。

 こうして見ると、女の人ってすごいんだなぁ。


「ただ、いきなりファンデーションっていうのも難しいかもしれないから、まずは香水から慣らしていくといいかもね」


「は、はぁ……えっと、香水って、女の人が首とかに振りかけてる?」


「そうだよー。男の人用もあるし、なんなら木葉くんも興味ある?」


「な、ないですよっ」


 周囲の品を見ながらも、なにを買うのか決め、香水が並んでいるエリアへ。

 香水なら、俺も知っている。そして、その認識は間違っていなかったようだ。


 しっかし……一口に香水って言っても、いろんなものがあるんだなぁ。


「香水って言っても、大きく四つくらいの種類があってね。確か……パルファム、オーデパルファム、オードトワレ、オーデコロンだったかな。香りの持続性とか、深みによって変わってくるんだけどね。

 あと、香水をつける種類もあって。しゅってかけるスプレータイプかコロコロと簡単につけられるロールタイプ、クリーム形状の練りタイプってあるんだけどねやっぱり持ち運びとかを考えるとロールタイプかなあでも部屋に飾って映えるのはスプレータイプなんだけど一番肌に優しいのは練りタイプで種類を決めるだけでもわりと考えるっていうか……」


「…………」


「……あっ、ご、ごめん私ったら……」


 たくさんの香水を見て、口早に語り始める桃井さん。

 俺がぽかんとしているのを見て、我にかえったようだ。顔を赤らめてうつむいている。


 な、なんていうか……


「す、すごいんですね……香水も、桃井さんも」


 なんていうか、これまでに見たことのない一面を見た感じだ。


「はぅ、恥ずかしい……」


「いや、それだけ真剣ってことですし。恥ずかしがることはないですよ」


 それにしても、そうかぁ……半分も理解できなかったけど、香水一つ選ぶのも大変そうだ。

 わりとスタンダードな香水でこれだ……こりゃ、香水以外を選ぶってなったら大変だ。


「と、とりあえず選びましょう。ね」


「う、うん」


 赤くなってしまった桃井さんは、なんだか子供みたいでかわいい。俺より年上にこんなこと思うのも、失礼だろうけど。

 とにかく、だ。どの香水が久野市さんに合うのか、選ばないとな。

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