第45話 笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?
……とある理由から、命を狙われることになった俺瀬戸原 木葉。
なんの変哲もない高校生だった俺の下に、ある日一人の女の子、久野市 忍が現れた。驚くことに……というリアクションが正しいのかはわからないが、彼女は忍者で、俺の命を守るためにやって来たらしい。
当初はそんなことは信じられなかったが、実際に命を狙われたことで彼女を信用することになった。そんな彼女は、俺の通う学校に突然転入してきた。
俺の部屋には彼女と……俺の命を狙った火車 紅葉が居る。
火車さんは、仲の良いクラスメイトの一人。だったが、実は俺の命を狙う殺し屋。俺を殺そうとしたが、久野市さんが止めてくれたわけだ。
俺は今、なぜか転入してきた久野市さんと、俺の命を狙ってなお学校に通っている火車さんと同じ空間にいる。
そして、この空間にいるのは俺たち三人……だけではない。
「……じゃあ、木葉くんが火車さんに命を狙われたのは、木葉くんに相続される遺産を狙った誰かに依頼されたから……ってこと?」
「そーゆうこと」
これまでの説明を経て、重々しく口を開くのは、この部屋……というかアパートの大家代理である、桃井 香織さんだ。
正直な話、彼女はこの話にまったく関係がない。なのに、わざわざ桃井さんを部屋に呼んで説明をしたのは……
いろいろと誤解を与えたままなのは、もう耐えられないと判断したからだ。ただでさえ、久野市さんとの関係を誤解されていたんだから。
「安心してください、この女に主様の殺害を依頼した依頼人は、私がちゃんと処理しておきましたから」
「……殺した、とか?」
「いえ、そんなことはしていません。もっとも、この女共々コンクリート詰めにして海に落とそうかとも考えましたが……」
「笑顔で物騒なこと言うのやめてくれない!?」
俺も一度、状況を整理するために話をまとめたが……いくら聞いても、火車さんは俺の命を狙うよう依頼した人の名前を出さない。
あれかな、守秘義務……ってやつかな。
とはいえ、依頼人が誰かはわからなかったものの依頼人に対しての対応は、久野市さんがちゃんとやってくれたらしい。
ただ……実は殺してしまったのではないかと考えていたので、違うとわかってほっとしている。
「それにしても、驚いたな……木葉くんのおじいさんが残した遺産が、木葉くんに相続された結果命を……そんなドラマみたいなことがあるなんて」
「あはは、俺もです」
俺の話のはずなのに、実際に命を狙われなければ今も信じてはいなかっただろう。
俺がその話を知ったのは、いや聞いたのは久野市さんからだ。
正直、命を狙われているなんて話、冗談でしたで済んだらどれだけよかったことか。
「でも、クラスメイトに殺されそうになったら、信じるしかないですよね」
「……ありがとね」
「え?」
苦笑いを浮かべる俺に、なぜか桃井さんはお礼を言った。
俺、桃井さんにお礼を言われるようなことしたか? むしろ俺の方がいつもありがとうなんだが。てかなぜこの流れで?
「この話をしてくれたのって、私を信用してくれて、ってことでしょ? なんだか、嬉しくて……あ、不謹慎だよね、嬉しいなんて。ごめん」
お礼の理由……そして、直後にそれが不謹慎だったと、謝罪する。お礼と謝罪に、慌ててしまう。
確かに、桃井さんに話したのは彼女を信用したからだ。信用できない人間に、こんな話はできない。
まあ、クラスメイトに裏切られて……ってのもなんか違うが、友達だと思ってたクラスメイトに命を狙われて、信用とかなに言ってるんだって思うかもしれないが。
それでも、俺にとっては……桃井さんは、本当に信用できる人だ。
上京してきた俺が、ここまでちゃんと生活することができたのは、桃井さんのおかげだ。アパートの部屋を借りられたのも、コンビニでバイトをすることができたのも、都会の常識をある程度学ぶことができたのも……
「謝らないでください。それに、お礼を言うならこっちの方です」
「え?」
今俺が一番信用している人間は、桃井さんだと言ってもいい。それだけ、彼女には世話になっている。
もしかしたら、この話をしたことで桃井さんが豹変して俺の命を狙うのではないか……そんなことも、考えなかったわけではない。
でも、そんなことを気にしていたらなにもできないし。なにより、桃井さんに関してはそんな人ではない、信じたいという気持ちが強い。
それに……
「桃井さんに、もう隠し事はしたくないですから」
「! そ、そっか……」
それが、混じりっけのない本音だ。
それを受けて、桃井さんも納得してくれたようだ。コクコクと、何度もうなずいている。
ただ、うつむいているので表情は見えないが、なんか耳が赤い気がする。暑いのかな?
「さて……桃井さんに説明が済んだところで、キミたちの説明を聞こうか」
「はーい!」
「ちっ」
桃井さんへの説明を終え、俺は久野市さんと火車さんへと視線を向ける。二人の態度は正反対だ。
ウキウキな様子の久野市さんは元気よく手を上げ、ふてぶてしく座る火車さんは舌打ちをする。
久野市さんは素直に答えてくれそうだけど、火車さんちゃんと答えてくれるのかな。
「じゃあまず、久野市さん」
「はい!」
「どうして、俺の通ってる学校に転入してきたの? それも俺のクラスに」
「主様を守るためです!」
……ある意味予想していた答えが、予想していた通りに返ってきた瞬間だった。
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