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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!

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第11話 彼女とか、いるの?

こっからキャラクターも増えていきます!



 さて、篠原さんの言っていることだが……


 俺だってお年頃の男子高校生。かわいらしい女子大学生が自分に親しげに話しかけてくれる、というだけで勘違いしそうになったことはある。てか今もある。

 だが、桃井さんには彼氏がいるようだし……本人の性格は、どうやら世話好きだ。俺のことは、弟くらいにしか思ってないだろう。


 バイト終わりに一緒に帰ることについても、たまたま時間が一致したからそうなっているだけだ。俺としても、アパートまで近いとは言え夜道を桃井一人に帰らせるわけにはいかないし。


「ま、いいわ。それよりも、早く行ってあげなさいな。もう交代の時間よ」


「あ、本当だ。

 じゃ、お先に失礼します」


 時計を確認し、タイミングよく次にレジに入る人が来たので、俺はこのまま失礼することに。

 篠原さんももう少しで終わりみたいだ。お客さんの数も少ないし、これから忙しくなることもないだろう。


 俺は休憩室に戻り、その奥の更衣室へ。テキパキと若干急ぎながら着替え、荷物を纏めると、部屋を出る。

 その後タイムカードを通して、仕事は終了。駆け足で、コンビニの入口へと向かう。


 目に見えた先には、見慣れた人影があった。コンビニの光に照らされた茶髪を指でいじりながら、壁を背にしゃがんでいる。

 その手には、先ほど買った棒アイスが握られていて、それをペロペロと舐めていた。


「桃井さん、お待たせしました」


「あ、木葉くんお疲れ様。……って、そんな走ってこなくてもよかったのに。勝手に待ってるって言ったのは私なんだし」


「いや、待たせてることに変わりはないので」


「まったくもー……はい」


 俺の姿を確認し立ち上がった彼女は、マイバックからなにかを……アイスを取り出し、俺に手渡す。

 反射的に、それを受け取ってしまったが……


「え、これ……」


「お仕事お疲れ様、木葉くん。行こっか」


 先ほど、同じアイスを二つ買っていた。てっきり、好きなアイスなのかな程度にしか思っていなかったが……

 桃井さんは、おそらく困った表情をしているであろう俺を見て、カリッとアイスを噛み砕き……ニッと、笑ったのだ。


「……ありがとうございます」


 夜道を、桃井さんと並んで歩く。

 もう日付が変わるころだ。人通りは少なく、暗がりを電柱の明かりと時折通る車のライトが照らしている。


 先ほど桃井さんにもらった棒アイスを、かじる。ソーダ味で、さっぱりとした食感が口の中に広がっていく。

 二人並んでアイスを食べながら歩いている姿は、なんだか悪いことをしている気分になった。


「木葉くんは、もう晩ご飯は食べたの?」


「はい。バイトに行く前に」


「そっかそっか」


 桃井さんとは、今でこそそれなりに普通に話せてはいるが……考えてみれば、俺は年の近い年上の女性と親しく話すのは、桃井さんが初めてだった。

 村には同じ年頃の女の子もそりゃいたが……俺が年長だったから、お姉さんはいなかったんだよな。妹に感じる子ならいたけど。


 だからか、初めて会ってしばらくは、そりゃ挙動不審だったと思う。正直、あんな変な男に話し続けてくれた桃井さんに感謝だ。


「それにしても、桃井さんは変わってますよね」


「変わってるー?」


「だって……コンビニバイトの俺が言うのもなんですけど、ペットボトル飲料とか、アイスとか……スーパーで買った方が、安くつくのに」


 何気ない会話。こういう会話が気楽にできる相手がいるっていうのは、いいよな。

 互いに止まらず足を進めて……いたが、隣から気配と足音が消えたのに気づく。


 振り向くと、桃井さんはアイスをかじろうとしたまま、立ち止まっていた。


「桃井さん?」


 どうしたのだろうか。もしかして、アイスをかじっていたら頭がキーンとなってしまったとか?

 そう心配しそうになったとき、しゃくっ、と桃井さんはアイスをかじった。そして、足を進める。


「いや、それはほら……コンビニって、24時間営業じゃん? こんな時間でも、空いてるから……それに、あ、これ欲しいなあれ欲しいなーってときに、コンビニのが便利だし」


「……欲しいなって思い立ったにしては、買い物の量多くないですかね」


 それに、こんな時間に買いに行くくらいなら、夕方にでもスーパーに行けばいいのに……とは思ったが、そこまでは言わない。一応コンビニバイトだし、別に桃井さんに来てほしくないわけじゃないのだ。

 俺から言っておいてなんだが、このせいで桃井さんが今後スーパー通いになっても困るし。


「あ、あとほらっ、コンビニのが家から近いし……」


「あぁなるほど!

 ……あれ、そういえば桃井さん、確か自転車持ってませんでしたっけ。わざわざ歩くんですか?」


「! い、いいじゃない別に! だ、ダイエットよ! 女の子にそんなこと言わせないで!」


「す、すみません」


 ダイエット代わりに散歩をするなら、まずアイスをやめたらいいのでは?

 そう思ったが、言わない。余計怒らせそうだし、しかもアイスを奢ってもらっている身だし。


 それから、会話は途切れてしまう……と、思ったが……


「そういう、木葉くんは……自転車は、買わないの? 通勤通学に、便利じゃない?」


「うーん、そうですね……確かに、自転車があれば移動にはすげー便利だし、長期的に見ればここで高い買い物をするのも悪くはないんですが……」


「ですが?」


「歩くの、好きなんですよ。学校への道も、コンビニへの道も……歩いているから、こうしてのんびり夜空も見上げられますしね。足腰の運動にもなりますし。

 それに、こうして桃井さんと歩く時間、好きなので」


「! そ、そ、そう……」


 こうして、どちらかが話しかけ、話が膨らんでいく。なので、桃井さんと会話していて、会話に困ったことはない。

 桃井さんとの時間は楽しいし、俺からも積極的に話しかけて行ったりするし、その逆も……


 ……しかし、会話が途切れてしまう。今度は隣に桃井さんは並んだままだし、止まっているわけでもない。ただ、うつむいてしまった。

 もうアイスのなくなった棒を、口に含んだり出したりしている。あんまり行儀が良くないし、ちょっと視覚的にもアレなのでやめた方がいいと思うが……


「……ねえ、木葉くん」


「はい?」


 数分か……もしかしたら数秒だったかもしれない沈黙の後に、桃井さんは口を開く。

 桃井さんと会話が途切れることはなかったので、なんだか時間間隔が狂う。


 周囲には、たまにすれ違う人の話し声と、車が通り過ぎる音だけが響いている。


「あの、さ……木葉くんって、か、彼女とか、いるの?」


「……彼女ですか?」


 やがて聞こえてきた、桃井さんの言葉……それは、俺が思いもしていなかった内容だった。

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