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久野市さんは忍びたい  作者: 白い彗星
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!

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第10話 甘酸っぱい関係じゃないの?



 ……しかし、驚いたよなぁ、彼女に初めて会ったとき。上京して、アパートの部屋を借りるぞとなったときだ。

 契約した時は本来の大家さんだったのだが、そのわずか数日後に大家交代。

 とりあえず孫娘が代理を務める旨の連絡を受けた。で、後日改めて挨拶をしに来たのが、今店内に入ってきた女性だ。


 ……「大学生だから時間があるし、おじいちゃんのお手伝いができるから苦ではない」とは、大家の代理なんて大変だろうと言葉を漏らしてしまった俺に言った、彼女の言葉だ。


「あの人にも、たくさん世話になってて。いつかお礼しないとと思ってるんですけど」


「……そうなのね」


 なんだかこういう話をするのは恥ずかしいが……紛れもない、本音だ。篠原さんも、黙って聞いてくれている。

 こうして思い返して、つくづく思う……両親もじいちゃんもいなくなったが、俺は周りの人間に恵まれているな、と。



『主様ー!』



 ……まあ、そこに変な人間が入り込んできたわけだが。

 いや、今は忘れよう。うん、あの子のことは忘れよう。


「ほら、来たわよ」


「こんばんは、木葉くん」


「はい、こんばんは桃井(さくらい)さん」


 レジに並び、俺の対面に立つのは先ほど店内に入ってきた女性……俺の借りている部屋のアパートの大家さんの、孫娘。

 彼女はカゴに入れた商品を、レジに置く。ペットボトル飲料やアイス、ガムなどが入っていた。


 俺はそれらを手に取り、一つ一つバーコードを通していく。


「…………」


「な、なんですか?」


「いやぁ、なんか様になったなぁって」


 会計中、なぜだか視線を感じた俺は、その視線の正体を探る。それは、桃井さんが俺をじっと見ているものだった。

 理由を問うと、返ってきたのはよくわからない答え。


「最初の頃は、手つきが危なっかしかったもんねぇ」


「そりゃ、始めたばかりでしたし」


「今だって、ちゃんと会話しながら会計してるでしょ。最初に比べて、進歩したなぁって」


 どこか懐かしむような桃井さん。俺も、ふと思い出す。

 確かにバイトを始めた頃は、こうして会話をしながら会計もするなんて……できるとも思っていなかったな。一方に集中するのが精一杯で。


 数をこなすうちに、こうしてできることが増えてきたわけだ。


「まあ、何度もやってれば、慣れますよ」


「若いっていいわねぇ。なんでもすぐ吸収しちゃって。スポンジみたい」


 隣から、篠原さんの羨ましがる声。それに対して、俺は苦笑い。

 商品を全て通し終え、それぞれの金額を合計して、最終的な合計金額を割り出す。


 この作業も、もう慣れたもんだ。


「1156円になります。袋はどうしますか?」


「持ってるから大丈夫でーす。いっつも言ってるじゃん」


「一応決まりなんで」


「ふふ。んじゃあ、支払いはこれで」


 軽口を交わしつつ、桃井さんはスマホを取り出し、画面にQRコードを表示させる。電子決済だ。

 俺はリーダーを使いQRコードを読み取り、作業を行っていく。


「いやぁ、スマートねぇ。二人とも慣れてるのねぇ」


「慣れたら、キャッシュレスが便利なんですよ」


 作業をしている最中、篠原さんの感心したような言葉に、桃井さんは笑って言葉を返す。

 この二人も、知り合いだ。というのも、桃井さんはよくこのコンビニに買い物に来てくれる。で、親しげに俺に話しかけてくれる桃井さんに、篠原さんが興味を持って……という流れだ。


 とはいえ、そもそもこのコンビニはアパートから近い。元々二人が顔見知りでも仲良くても不思議はないか。


「はい、お待たせしました」


「ありがとー。ねえ、木葉くんそろそろ上がりだよね。待ってるから一緒に帰ろうよ」


「え?」


 会計が終わり、桃井さんは自前のマイバックに商品を入れている。他にお客さんもいないので、この場で。

 その最中、桃井さんからの言葉に、俺は少し驚く。とはいえ、やっぱりか、という気持ちもあった。


 実を言うと、誘われるのは今日が初めてではない。


「でも、アイスもありますよね。待ってもらうのは悪いですよ」


「いいからいいから。コンビニ前で待ってるからねー」


「あ……」


 確かにもうバイト終わりではあるが、わざわざ待ってもらうのは悪い。そう話したが……桃井さんは構わず、出口へと向かっていった。

 いつものように。


 扉が開き、店内に聞き慣れたBGMが響く。桃井さんが店外に出たのを確認して、篠原さんが話しかけてきた。


「いいわねぇ、青春だわぁ」


「青春?」


「ねぇ、本当に瀬戸原くんと香織(かおり)ちゃん、お付き合いはしていないの?」


「し、してませんよ」


 付き合っていないのか。その質問に、思わずむせそうになる。

 なにも飲んでないのに、むせそうになることってあるんだな。


「そう? でもほとんど毎回、ああして瀬戸原くんの帰りを待ってくれているじゃない? なんか、そういう甘酸っぱい関係じゃないの?」


「そういうんじゃ全然ないですよ。そもそも、桃井さん彼氏いるって聞いたことがありますし」


「あらそうなの?

 まあでも、香織ちゃん顔はかわいい系だし、スタイルもいいし……背が低いことを気にしてたけど、そこがまた母性本能をくすぐるのよねぇ」


「母性て……」


 篠原さんは、お客さんだが桃井さんを下の名前で呼ぶほど気に入っている。娘がいるからか親しみも覚えやすいのだろう。

 桃井さんも、自分が下の名前で呼ばれることは気にしていないどころかむしろ嬉しそうだった。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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