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旅行計画3

カフェに移動してきた伊織たちは席に座ってそれぞれ好きなものを注文する。


ちなみにカフェに着いた瞬間特に話しに参加してこなかったクシナとシアナが姿を見せ、二人で今日は何を食べようかと楽しそうに話しながら席に座りメニューを眺めていた。


そんな二人に少しだけ苦笑いしながら伊織は改めて結衣の方を見る。


「それで伊織さん、皆で旅行に行きたいという話しでしたが具体的にどなたと行かれるのですか?」

「今のところ決まってるのは白雪とクシナ、シアナ、楓さんですね。あ、それとこの前仮契約した紅玉姫さんが一緒に来ることになるかと思います」

「仮契約というと、先程話していた龍種ですよね?」

「えぇ、そうですね」

「なるほど……」


龍種が鹿児島に遊びに来る。

これだけ聞くと大丈夫かしらと一瞬だけ不安に思った結衣であるが、例え龍種が来なかったとしても九尾であるクシナや格の高い妖魔であるシアナが居るので今更かと思い直す。


「伊織さんを合わせて七人程ですね、分かりました。鹿児島県は退魔士の旅行先として有名なのでゆっくりと羽根を伸ばせると思います」

「旅行先として有名……そうなんですか?」

「えぇ、南を守護する夏空家の本拠地が鹿児島にあるので周囲の悪霊や怪異、妖魔といった存在を精力的に退治していますし、退魔士向けの施設も数多く揃っています」


退魔士名家の本家が構える土地は実力の高い退魔士が多いこともあり、周囲の退治作業が盛んに行われ治安が良い。


そのうえで鹿児島は一般の旅行者が多いこともあり、より念入りに退治業務が行われていた。


「そうなんですね、退魔士向けの施設というのは?」

「このカフェみたいな退魔士専用のお店の事です。退魔士達が気兼ねなく話しながらお買い物出来ることを目指して作られたそうですよ」

「なるほど、そういうお店もあるんですね」


現在の世界で退魔士の存在は秘匿されているため、あまり表立ってそれらの話しをすることはタブーとされている。


情報交換をするにしても仕事の話しをするにしても、自宅で在ったり組合ですることが多い。


そのため羽根を伸ばしつつ気兼ねなく話しのできる鹿児島は、退魔士達にとって非常に人気の高い場所になっていた。


「退魔士向けの宿泊施設もあるのでそちらに泊まることもお勧めなのですが、夏空家が保有する別荘があるので良ければそちらを利用しませんか?」

「別荘…ですか?」


おおよそ普通に生活しているだけではあまり聞きなじみのない別荘という言葉に首を傾げる


「はい、おそらく伊織さんが鹿児島に行くだけでも注目が集まりそうなので、例えホテル内であってもあまり気が休まらないかもしれません」

「特に注目を集めることをした覚えは無いんですけど…」

「原因は伊織さんが男性だからという理由と、クシナさんとシアナさんの存在ですね」

「あぁ、なるほど……」


そうだったと思い出す。

今日もそうだが伊織が組合に来ると非常に多くの視線が伊織に集中する。


短い期間ならある程度我慢することが出来るかもしれないが、ホテルに泊まっている間四六時中その視線にさらされるのは少し考えただけでも息がつまりそうだなと伊織は思った。


「なので夏空家が管理する別荘で過ごされた方が、羽根を伸ばせるかもしれません」

「それは良いわね、煩わしい視線を感じなくていいのは魅力的だわ。主様、是非そうしましょう?」

「う~ん、分かったよ。結衣さん、迷惑じゃなければよろしくお願いします」

「全然迷惑なんて事はないですよ?では別荘の件は私の方から話を通しておきますね」


その後も皆でやりたいことや滞在日数などを話しながら旅行の予定も決めていく。

この場には楓がいないので、後で確認する必要があるが楓は身命を賭してこの旅行に参加するつもりのため、伊織たちが仮決めした日程であっても問題ない。


「では旅行に行くのは七月の中旬ごろということで話しておきますね」

「よろしくお願いします」

「後はそうですね……良ければ伊織さんの連絡先を教えていただけますか?その方が決まったことを直ぐに伝えられると思うので」

「そうですね、是非」


確かに連絡先は交換しておいた方が今後も楽だなと思ったのでスマホに登録する。


久遠伊織という名前が自分のスマホに表示されたのを見て、結衣は少し嬉しそうな顔をしていた。


「あっ、もうこんな時間でしたか。すみません、私は少し予定があるのでこの辺りで失礼します」

「色々と相談に乗ってくれてありがとうございます」

「いえいえ、ではまた」


そう言いながら上品に一礼し結衣はその場を後にした。


「それにしても楽しみだね伊織君」

「うん、ここのところ忙しかったから結構楽しみかも」

「私は海鮮料理が楽しみだわ」

「ん、何か甘いもの食べれる?」

「確か鹿児島はかき氷のスイーツが有名だったような?」

「楽しみ……」


それぞれ旅行に思いを馳せながら、緩やかな時間を過ごした。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼


SIDE:朱炎 結衣


組合を出た私はそのまま自宅に帰ってきました。

それにしても、今日は本当に良い日でした。


伊織さんは組合に来ることが少ないので、交流することが難しいのですが今日は一緒にお茶をすることが出来ました。


ソファーに座りスマホを取り出して連絡先を開くと表示される伊織さんの名前。

これを見るだけでも嬉しい気持ちになります。


「さて、ではやることを済ませてしまいましょう」


私は今日の朝に届いた連絡に返信するため、文章を打ち込んでいく。


その連絡とは、夏空家本家から届いたもので、内容はどうにかして久遠伊織と縁を結べないかというものです。


正直この連絡を見たときは、かなり難しいのではないかと頭を悩ませました。

だって夏空家は伊織さんとほとんど接点がありませんからね。


まぁだからこそ、唯一接点のある私に連絡が来たのだと思いますが。


伊織さんは偶然かもしれませんが、退魔士名家の中枢に近い者と接点が多いです。


冬木家次期当主である白雪さん。

東京支部支部長かつ秋月家現当主である美月さんや、秋月家分家筆頭の楓さん。

安倍家次期当主の紅葉さん。

春名家長女の菫さん。


まぁ菫さんについては厄星討伐の時に少し話した程度であまり深い接点はないかもしれませんが、それでも繋がりを持っています。


それに比べて夏空家は本家の者が伊織さんと繋がりがないので、少し焦っているのでしょうか?


まぁ伊織さんのあの力を見たら繋がりを持ちたいと思うのも分からなくないです。

とはいえ繋がりを持って何か伊織さんに強要しようものなら、あのクシナさんによって灰燼に帰す事は容易に想像できます。


私も夏空家の分家なので火の霊術を好んで使っていますから、クシナさんの使う術が如何に常識外のものなのか直ぐに分かりました。


この辺りは本当に注意するように伝えておいた方が良いですね。

気が付いたら夏空家が無くなっていました……なんて事にならないように。


「さて、本家への連絡はこれでいいでしょう。彼女たちも諸手を挙げて喜んでくれるはずです」


あとやることがあるとすれば、一応あの子にも連絡を入れておきましょうか?

夏空家の別荘で過ごすのであれば、あの子を連れてくるでしょう。

伊織さんとの出会いはあの子にとって良い刺激になるかもしれません。


そうと決まれば久々に電話してみましょうか

通話をかけてみると、数コールしないうちに出てくれました。


『もしもし?結衣姉さん?』

「蒼くん、お久しぶりですね」

『うん、久しぶり。どうしたの?』

「今年の夏は少し面白い事になるかもしれませんよ?」

『ん?どういうこと??』


通話越しではありますが、首を傾げている様子が容易に想像できます。


「蒼くんは久遠伊織さんについて聞いたことはありますか?」

『久遠伊織さん?あぁ、お母さんたちが最近話してたかも。なんか凄い妖魔と契約してる男の退魔士だって』

「はい、その方ですね。その伊織さんですが、七月辺りに鹿児島へ旅行に行くらしいですよ」

『え?そうなの?』

「はい、なので蒼くんも会うことになると思います」

『そうなんだ……う~ん……』


ふふふ、何となく今蒼くんが考えていることが分かりますね。


「大丈夫ですよ蒼くん、伊織さんは普通の男性退魔士とは全く違いますから」

『そうなんだ、結衣姉さんがそう言うのは珍しいね』

「ふふ、そうですね」

『なんか楽しそうだね……あっ、もしかして?』

「どうしました?」

『ううん、何でもない。でも結衣姉さんがそう言うなら少し会うのが楽しみかも』

「えぇ、きっと蒼くんにとって良い刺激になるはずですよ」

『分かった、期待しておくよ』

「良かったです、ではまた連絡しますね?」

『うん、じゃあね結衣姉さん』


通話を切って一息つく。

蒼くんも楽しみにしてくれてるようで良かったです。


伊織さんと蒼くんが出合う……おかしいですね?何故だか凄くドキドキしてきました。


これ以上考えるのは危険かもしれません、何が危険かは分かりませんが。


「ふふふ、それにしても今年の夏は本当に楽しみですね」


もしかしたら海水浴とかもするのでしょうか?

いけませんね、少し体形を確認しておかないと。


願わくば、私の水着を見て伊織さんが意識してくれると良いのですが……。


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