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厄星討伐ーエピローグ1ー

誰もが言葉をなくす中、いち早く正気に戻った伊織が声をかける。


「あ、ありがとうございます…」

「なに、酒の為だ。楽しみにしているぞ?」


思ったよりド派手な事をされたので、これに見合う酒を用意できるか少し不安になる。

伊織自身もそこまでお酒に詳しい訳ではないので、誰かに相談するべきかもなと思っていた。


『皆お疲れ様、ひとまず厄星討伐はこれで終わり……だと思うわ』


そんなことを考えていると、美月から連絡が入った。


『各自撤収準備を初めて頂戴、それと被害確認もよろしくね?あと、伊織君は悪いのだけれど今から私の所に来てくれるかしら?色々と聞きたいことがあるの』

「え?」


緋冥へのお酒について考えていると突然美月から呼び出しがかかった。

それもそのはずだろう。


伊織が緋冥と契約していた光景は全員が見ていた。

さらに、今回の討伐に終止符を打ったのは緋冥である。


支部長という立場故、伊織から話しを聞かないわけにはいかなかった。


「多分、紅玉姫さんの事だよな」

「そうだと思うよ」

「とりあえず、支部長の所へ行くか…」

「じゃあ私が案内するね?」


連絡を聞いた伊織たちは白雪案内の元美月の所へ向かう。

道中歩いている中、多数の視線が伊織の方へと向けられる。


正確には伊織と一緒にいる緋冥への視線が多く、緋冥を見ながらコソコソと話している人たちが多い。


そんな視線に晒されながら美月の元にたどり着くと、美月の他に六花、紅葉の姿がそこにはあった。


「来てもらって悪いわね伊織君」

「いえ、大丈夫です」


連絡をしてから直ぐに来てくれた伊織にホッとした表情を見せながら、その隣にいる緋冥を見て少し警戒した様子を見せる。


「それで、そちらにいる方が先程の龍で間違いないかしら?」

「そうですね、間違いないです」

「なるほど、ではそちらの龍と伊織君が契約したという報告があったのだけれど、本当かしら?」

「うむ、その通りだ」


伊織と緋冥が契約した時、近くにいた退魔士がそのことを美月へと報告していた。


「なぜ、貴女は伊織君と契約を?」

「その方が、妾にとって良いと感じたからだな」

「そう…なのね…」


妖魔との契約と言うものは、双峰利点があって行うことがほとんどだ。

これは伊織が今まで行ってきた契約も例外ではない。


クシナの場合は、愛する人の傍に居たい。

シアナの場合は、消滅を免れたい。


そう言った想いがあり、契約をしてきた。

クシナやシアナについて、美月から見ると何かしら利点があって契約したのは直ぐに分かった。


しかし、緋冥に関してはどういった利点があり伊織と契約したのか分からなかった。

そう言う意図を込めて美月は尋ねたのだが、緋冥はそれだけを答えるとこれ以上答えることはないとばかりに目を伏せる。


「黒龍の対処、ありがとうございました。本当に助かったわ」


無理に理由を聞いて緋冥の機嫌を損ねるのを避けたかったので、黒龍についての礼を述べた。


「久遠伊織から対価を貰う予定だから気にするな」

「対価…ちなみに、何を要求したのか聞いてもいいかしら?」


普通、あれほどの術を行使した場合の対価は計り知れない。

クシナやシアナの様子から、命に関わる事ではないだろうと予測したが、それでも対価が気になった美月は尋ねてみる。


「酒だ」

「お、お酒?」

「あぁ、でもただの酒ではないぞ?妾が満足する清酒を久遠伊織には用意してもらう予定だ。ふふふ、期待しているぞ?」

「まぁその、頑張ります…」


緋冥は余程酒が楽しみなのか、念を押して伊織に伝える。


その返答を聞いた美月は息を飲んだ。

まさか、お酒の為だけにあれほどの術を使ったのかと。


「ちなみに、あの黒龍が現われる事はもうないのかしら?」


少しだけ呆然とした後、美月は一番気になることを聞いた。

門の中に消えていった黒龍であるが、あの術式の詳細は分からない。


だからもし黒龍が再び現われる可能性があるのなら、対策を練る必要があった。


「あぁ、そのことについては心配無用だ。奴の力の大部分は抜き取ったからな」

「「「っ!」」」


そう答える緋冥の手にはいつの間にか黒い宝珠が握られていた。

その宝珠からは恨みや憎しみといった負の感情が色濃く出ており、それを見た伊織以外の全員が驚愕した。


「先程の術式はな、少しおいたをした龍を封じ込めておくためのものだ。力の大部分を抜き取り、牢獄の中で他の龍に見張られながら今後一生を過ごすことになる」

「そう…」

「この通り力も抜き取ったし、奴を見張る龍は全員奴より強い者たちだ。だからあの黒龍が現われることは二度とないだろう」


緋冥の説明を聞いて、もしかしてこの龍は龍種の中でも相当位が高い者なのではないかと推測できた。


もしそんな術があるとして、誰でも使えるものであれば悪用が出来てしまうためだ。


思ったよりも大物であると予想できる緋冥に対して、これを聞かなければいけないのは非常に胃が痛い思いであるが…もうすでに胃が痛い美月であるが支部長という立場故聞かなければいけないことがあった。


「今後…貴女が他の退魔士や国民に危害を加えることはあるかしら?」


そう、これだけはどうしても聞いておかなければならなかった。

もし伊織の意思に反して力を振るうような存在であった場合、退魔士の全勢力を持ってこの存在と戦わなければならない。


今まで感じたことのない程緊張しながらそう尋ねる。


「む?あぁ、妾は久遠伊織と契約したが、こやつが何かを頼まない限り私が動くことはない」

「そう…それなら安心ね…」


伊織の人となりを知っている美月は安堵した。

彼が心優しい人間である事を知っているので、ひとまずは問題ないだろうと結論付ける。


「伊織君、改めて今回はありがとう。伊織君も疲れたでしょう?もう帰って大丈夫よ」

「え?撤収の手伝いとかはいいんですか?」

「いいのいいの、こっちでやっておくから大丈夫よ」


むしろ、美月としては早く伊織に帰ってほしかった。

この場には数多くの退魔士がいる。

クシナについて連絡を回しているが、もしバカな退魔士が伊織にちょっかいをかけてクシナがキレたら目も当てられない。


それに今は緋冥もいるので、なるべく早く伊織にはこの場を去ってもらいたかった。


「主様、こう言ってることだし帰りましょう?」

「主、疲れてる。休んだ方が良い」

「うーん、分かりました。では今日はこの辺で失礼します」

「えぇ、気を付けて帰るのよ?」


伊織は未だに霊力を消費した影響で少しだけだるそうにしている。

それを見ていたクシナたちは早く伊織を休ませたかったので、これ幸いにとばかりに美月の意見に賛同した。


二人からの説得を受けて、伊織は帰宅することを決めた。


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