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厄星討伐2

バンッ!という乾いた音と共に黒い弾丸が発射される。

弾丸は空を切り裂きながら進み、程なくして龍へと着弾した。


「ッ!ギャアアアアア!」

「あら、結構利いてるわね」


着弾した瞬間、龍は凄まじい咆哮を上げた。

菫が使用した呪物は人の殺意が込められた物であり、厳密には霊術ではない。


そのため高い霊術耐性を持っている龍の鱗を突破しダメージを与えることが出来た。

それを確認した菫はさらに数回引き金を引く。


ただ、龍もただ攻撃を食らうだけではなかった。

自分の鱗を突破してくる未知の攻撃があるということが分かったので即座に体の周りに障壁を展開する。


菫が追加で放った弾丸は、その障壁に阻まれてしまった。


「まぁ、龍ならそれくらい出来るわよね」

「グルルルルッ」


そして龍は既に攻撃してきたものを見つけていた。

こちらに向け黒い銃を向けている少女に向けて口を大きく開く。


その瞬間、龍の口元周辺に莫大な霊力が収束し始めた。


『ブレスが来るわよ!防御結界を用意して!!』


すぐさま美月から通信が入り、結界構築に長けた退魔士達が合同で障壁を展開していく。

空の龍と地上の退魔士達を分け隔てるように様々な障壁が展開された時、龍の口からブレスが放たれた。


「ギャアアアアアア!」


ブレスは凄まじい速度で進み、障壁へと衝突する。


「だ、大丈夫か?」

「大丈夫よ、ここには退魔士の精鋭が集まってるのよ?そんな人たちが張る結界なんだから、そんな直ぐには……え?」


菫を目掛けて放たれたブレスであるが、当然近くには伊織もいる。

自分たちの方へ目掛けて放たれたブレスを見ながらついそんなことを口にしてしまった伊織の耳にパキッという音が聞こえてきた。


障壁に目を向けてみると、徐々にだが罅が広がり始めていた。


『直ぐに退避しなさい!!!』


それを見ていた美月はすぐさま無線で鋭い指示を飛ばす。

しかし、退魔士達が避難するよりも結界が突破される方が早かった。


「ギュアアアアアア!!!」

「クシナ!!」

「大丈夫よ主様、白炎」


その光景を見ていた伊織はクシナの名前を呼ぶ。

伊織に頼られたクシナは嬉しそうな表情をしながら、力を込めて妖術を行使する。


その瞬間、空に太陽が出現した。

あまりの眩しさにその場に居た全ての退魔士が目を閉じてしまう。


「ギュアアアア!アァ?」


クシナの白炎と龍のブレスが衝突したのだが、ブレスは全て白炎に飲み込まれた。

自慢のブレスが消滅したことで思わず龍は首を傾げてしまう。


「うふふ、その程度かしら?それじゃあこれはお土産よ」


ブレスが途切れた所でクシナは白炎を龍に向かって放つ。

白炎に底知れぬ恐怖を感じた龍はすぐさま身を翻して逃げ始めた。


「ん!」

「うぉっと!」


龍が大きく移動したことで、龍の胴体に乗っていたシアナや紅葉は体勢を崩しそうになる。

先程まで龍に打撃を加えていた二人であるが、龍が体に障壁を張ってからは全く攻撃が通らなくなってしまった。


そして二人の位置からも、龍を追いかける白炎が見えていた。


「ははは!凄まじいなこれは!!」

「ん、流石クシナ」

「だが速度は龍の方が早いようだな、何とか我々で龍の進行を止めるとしようか」

「ん」


二人は荒れる龍の胴体を走りながら、頭の方を向けて走り出す。


白炎が上空へと上がったことで眩しさが収まり退魔士達は目を開けることが出来た。

そしてその目に移ったのは謎の白い炎とそれから逃げる龍の姿だった。


「これは……」

「凄いわね~、多分伊織くんが契約してる九尾の術かしら?」

「あの炎からとんでもない霊力を感じますね……」

「そうね、私十人分かしら?六花ちゃんはあれ防げる?」

「分からないですね、そもそも術式が全く読み取れませんし、先程龍のブレスを防いだ用ですが、なぜ術式が反発せずに防げたのか全く分かりません」

「そうよね~、私も全然分からないわ」


白炎を眺めながら六花と美月が雑談を交わす。

この二人を以てしても、クシナの使っている術について何一つ分からなかった。

唯一分かることがあるとすれば、あの炎を龍が嫌がっている事だ。


つまり、あの炎を龍に当てることが出来れば戦況はかなりこちらの有利に傾くかもしれない。


「全員に通達。龍はあの炎を嫌がっているようだから、何とかして龍の移動を止めて頂戴」


すぐさま美月は指示を出し、己もまた霊術を行使するために霊力を練り始めた。


「なぁクシナ、この炎ってあの時の?」

「そうよ、妖狐を倒した時と同じものだけど、ちょっと大きく作りすぎちゃったから速度が遅いのよね」

「そうなんだ」


そんなことを話す伊織とクシナを菫はあり得ないものを見るような目で見つめていた。

先程の龍のブレスはいとも簡単に退魔士の障壁を突破した。

そしてそのブレスを白炎は簡単に防いで見せた。


つまり、今この九尾が使っている妖術は龍のブレスより危険な物になる。

そんな術を涼しい顔をして操る九尾に恐怖を感じていた。


『全員に通達。龍はあの炎を嫌がっているようだから、何とかして龍の移動を止めて頂戴』


伊織たちの耳に美月からの指示が届いた。

あまりの光景に唖然としていた退魔士達であるが、通信を聞いて直ぐに霊術の準備を始める。


色とりどりの霊術が龍へと殺到するが、体に障壁を張った龍の進行を止めることは出来なかった。


「ねぇクシナさん、龍の動きを少しでも止めればそれを当てられる?」

「えぇそうね、当てられると思うわ」

「分かった、じゃあ私が止めるからちゃんと当ててね」

「何するんだ白雪?」

「ん~、奥の手って奴かな」


そう言いながら白雪が取り出したのは、見たこともないお札だった。

そのお札は普段伊織が使用しているお札とは比べ物にならないほど細かな術式が刻まれている。


「それは…」


そのお札を見たクシナも、何か並々ならぬ気配を感じていた。

お札を人差し指と中指で挟んで持ち、顔の前に掲げながら白雪は呪文を唱える。


「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン」


その言葉を呟くと、お札から膨大な霊力が噴き出した。

霊力は空へと登り、空中で渦巻いている。

その状態で何かに耐えるように眉を寄せていた白雪が、最後の言葉を呟く。


「来てください、金剛夜叉明王!!」


その瞬間上空の霊力が爆発し、五大明王の一柱が顕現した。


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