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準備

「それじゃあ詳しいことは追って伝えるわ。今日はありがとう、もう大丈夫よ」

「分かりました、失礼します」


伊織から厄星討伐に参加すると伝えられた美月だが詳しい作戦内容についてはまだ調整中であったため、今の段階で伝えられることは少なかった。


支部長室を後にした伊織と白雪は歩きながら今後について少し話し合う。


「白雪も今回の討伐に参加するのか?」

「そうだね、参加することになると思うよ。多分だけど二等星以上の退魔士は全員参加するんじゃないかな?」

「やっぱり、厄星ってヤバいのか?」

「私が実際に厄星討伐の現場に出たのは一回しかないけど、それでも激戦だったね…」

「そうなんだ」

「うん、支部長とかお母さんとかのおかげで何とか討伐できたけど、あの二人が居なければどれだけ被害が大きかったか分からないよ」


その話を聞いて改めて今までの妖魔とは比べ物にならない存在が現れるんだなと伊織は再認識した。

星詠みの一族からは討伐の鍵となるのは伊織だという話しを聞いたが、もしかしたら必要なのは自分じゃなくて、シアナとクシナの力かも知れない。


本当に自分に何が出来るのか分からないけど、出来る限りの事はしようとそう決意した。


「それじゃあ伊織君、私も色々準備があるからまたね」

「分かった、またな」

「それと、多分結構早めに連絡が来ると思うから気を付けてね」

「了解、ちゃんと確認するようにするよ」


白雪とは退魔士組合の中で分かれて、伊織は帰路へついた。


家に到着するとシアナとクシナが姿を見せる。


「どうしたの主様?」

「いや、俺も何か準備をした方がいいかなって思ってさ」


伊織は家に帰ってくると直ぐにお札を書くための準備を始めた。

それを疑問に思ったクシナがそう尋ねたのだが、返ってきた返答に少し微妙な顔をする。


「もう、そんな事しなくても大丈夫よ。私たちが守ってあげるわ」

「ん、主はドンと構えてるだけでいい」

「ん~、でも何かの役に立つかもしれないし一応準備しておくよ」

「はぁ、分かったわ」


クシナからしてみれば正直なところ伊織が現在使える札術は今回の討伐でそこまで役に立たないかもしれないと思っていた。


ただ伊織の意志は固そうなので、苦笑いをしながらその作業を見守ることにした。


「少し、運動してくる」

「どこか行くのか?」

「ん、戦いに備える」

「分かった、気を付けてな」

「ん!」


シアナも今回の戦いで現れる妖魔が強大なものだと分かったので、少し準備を進めることにした。

シアナは六尾の妖狐と戦った際に少しだけ力不足を感じていた。


伊織からマッサージを受けたことで以前より霊力が上がっており、より早く動けるようになったのだがその力を十全に使えているとは言いづらかった。


リビングの窓を開けて外を出る時にチラリと伊織の方を見ると、真剣な様子でお札を書き始めていた。

六尾の妖狐の時みたいに自分の力不足で伊織が危険に陥らないよう久しぶりに鍛錬を開始した。


一方クシナはお札を書く伊織を眺めながら今回現れる妖魔について考えていた。

星詠みの一族なるものからお告げがあったというが、六尾の妖狐が現れたときはそんなお告げがなかった。


だから少なく考えても六尾の妖狐よりは強い妖魔が出てくることは間違いない。

もし仮に自分と同等な妖魔が現れたとしても、一体だけであれば対処は簡単だろう。


しかしお告げによれば妖魔は二体現れるという。

もしその自分レベルの妖魔が二体とも伊織を狙ったとき、どう守れば良いか考えを巡らせる。


「(白炎を使えばある程度は戦えるでしょうけど、どうしても防戦一方になってしまうわね。それに相手が白炎レベルの術を使えるのだとしたら厄介な事になりそうだわ)」


それに現段階でどんな妖魔が出てくるか分からないので、対策を立てるのにも限界がある。


「(まぁそれでも、考えられる限りの対策を考えましょう。主様の安全の為に)」


そう結論付けたクシナはどんな敵が来ても大丈夫なように思考を重ねていく。




時間とはあっという間に進むもので、気が付いたら厄星が現れる当日になっていた。

白雪から言われたように、あの後伊織が家でお札を書いていると美月から連絡が入った。


それは今回の討伐に参加する退魔士や、どういった配置で戦うかについての連絡だった。

白雪が言っていたように東京支部に在籍している二等星以上の退魔士は全員参加していた。


その名簿を見ていた時に少し気になる名前を伊織は見つけていた。


「あ、おはよう伊織君」

「おはよう白雪」

「…」


時刻は午前七時、討伐の舞台となる山の麓へ退魔士達が続々と集結していた。

伊織も遅れないように少し早めに家を出て先に到着していた白雪と合流する。


そして白雪の隣には見知らぬ女性が立っていた。

凍てつく氷のような表情をしているが、どこか白雪と似たような顔だちをしている。


「貴方が、久遠伊織君ですか」

「は、はい。もしかして、冬木六花さんですか?」

「そうです」

「えっと、よろしくお願いします」

「えぇ、貴方の話しはいつも白雪から聞いていますよ」

「お母さん!?」


そう、白雪の隣に立っていたのは白雪の母親でもある冬木六花であった。

伊織が組合からの名簿を眺めていた時にたまたまこの名前を見つけて、もしかしたら白雪のお母さんかもしれないと思っていた。


伊織としても白雪の母親とは会ったことがなかったので、この機会に挨拶をしておきたいと思っていた。


「ふむ、娘から聞いていましたが。とんでもない霊力量ですね」

「そ、そうですか?」

「はい、霊力量だけで言えば全退魔士の中でも一番かもしれませんね」


初めて伊織を目にした六花は無表情ながら内心驚いていた。

いつも白雪から伊織の話しを聞かされているが、時に信じられない話しも出てくるので大げさに言ってることもあるのだろうと六花は思っていた。


しかし実際に自分の目で伊織を見てみたとき、あながち白雪の言っていることは嘘では無いかもしれないと思い始めていた。


「今回、二等星以下の退魔士で前線に出るのは久遠伊織君だけなので十分注意してください」

「わかりました、ありがとうございます」

「それでは私は少し用事があるので失礼します」


そう言いながら六花は伊織の前から去って行った。


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