再びの支部長室
「それじゃあ今度結衣さんに会った時に少し話しをしてみるよ」
「うん、分かった」
伊織自身鹿児島には一度行ってみたいと思っていたので、もし結衣に話して許可を貰えれば是非行ってみたいと考えていた。
その後比較的まったりとした時間を過ごしながら話しをしていると、カフェに美月が訪れた。
「よかった、まだここに居たのね」
「あれ、支部長?どうしたんですか?」
「ちょっとあなた達に話したいことが出来てね、悪いけどもう一度支部長室に来てくれないかしら?」
「妖狐についてですか?」
「ごめんなさいね、それとは別件なのよ」
先程まで支部長室で六尾の妖狐について話していたので、それに関して何か聞き洩らしたことでもあったのだろうか?
そう考えた伊織だが要件は全く別の物であった。
お互いに顔を見合わせながら何だろうと首を傾げた伊織と白雪であるが、とりあえず残ってる飲み物を飲み干して支部長室へ向かうことにした。
再び支部長室まで戻ってきた伊織たちはソファーに座り美月の言葉を待つ。
「楽しんでいたところをごめんなさいね?」
「いえ、それで話したいことってなんでしょうか?」
正直どんな話しが出てくるのか検討の付かない伊織は正直にそう聞いてみた。
「実はね、星詠みの一族からお告げがあったのよ」
「え!?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん?星詠みの一族?」
美月がそう答えた瞬間、白雪と楓は非常に驚愕した様子を見せた。
しかし伊織は星詠みの一族という言葉に聞き覚えがなかったので、どういう状況なのか全く理解できなかった。
「伊織くんは星詠みの一族について確か知らなかったわよね?」
「はい、初めて聞きました」
「その一族はね、世界を破壊してしまうほど強大な力を持った妖魔が現れることを、予言する事ができるの」
「な、なるほど?え、つまりそんな強い妖魔が現れるって事ですか?」
「えぇ、そうなのよね…」
美月はそう言いながらまるで頭が痛いといった風な様子で頭を押さえた。
世界を破壊できるほどの力を持った妖魔、その単語を聞いた伊織は一体どんな化け物が出てくるのかと恐怖を覚える。
「しかもね?どうやら今回現れる妖魔は一体だけじゃなくて二体現れるそうなのよ」
「厄星が二体ですか!?」
「そ、それは…」
「これも非常に頭の痛いことなんだけど、個人的にはもっと頭の痛いことがあるのよね~」
「そ、それはどんな事ですか?」
この支部長室にはカフェに居たメンバーで来ているので、当然支部長室の中にはクシナとシアナの姿がある。
その状態でこの事を伝えるのは非常に胃が痛くなる思いなのだが、美月としては伝えなければいけないので意を決して伊織に話しかける。
「それはね、この厄星討伐は伊織くんが鍵になるらしいのよ」
「はい?俺ですか?」
「…」
「そ、そうなの、星詠みの一族からはそう告げられたわ」
美月がそう告げた瞬間、美月の周りだけ温度が数段階下がったような錯覚に陥った。
なぜそう思ったかなど理由は簡単だ。
先程まで興味深そうに黙って話しを聞いていたクシナが、今は半眼で美月の事を見つめている。
星詠みの一族から破壊の化身とも言われていたクシナから睨まれてはいくら美月といえど一気に緊張感が高まる。
「なぜ、主様が必要なのかしら…?」
「そ、それは分からないわ。星詠みの一族の予言は必ず当たるけど、詳細な情報が分かることは少ないの」
「そう…」
クシナとしては、そんな妖魔が現れる場所へ伊織に行ってほしくなかった。
霊力が多く毎日妖魔に襲われている伊織がそんな場所へ行った場合、その妖魔に襲われることは目に見えている。
「ちなみに、その現れる妖魔に付いて分かっていることってあるんですか?」
「なんの妖魔が現れるかは分からないの、ただ星詠みの一族はこう言ってたわ。一つは真なる邪悪の化身。もう一つは善にも悪にもなりえる審判の化身…とね」
「美月姉さん、妖魔が現れる時期は分かってるのですか?」
「三日後だそうよ」
「三日後!早いですね…」
妖魔が現れるまで時間が少ないので、早急に動く必要がある。
だから美月は伊織たちを呼ぶためにカフェへ向かっている途中でも関係各所に連絡を飛ばしていた。
ただ今回の討伐で一番重要になるのはおそらく伊織であるため、どうにかして伊織に参加してもらう必要がある。
不機嫌なクシナの圧を感じながら、どう伊織に話しかけようか美月は悩んでいた。
「ちなみにですけど、討伐に失敗した場合ってどうなるんですか?」
「そうね、おそらく現場に居る退魔士は全滅して妖魔が近場の街から破壊していく可能性が高いわね」
「そう…ですか…」
悩んでいた時に、伊織からそう問いかけられた。
だから美月は考えられることを伝え、それを聞いた伊織は少し考える素振りを見せる。
「その討伐に僕が必要なんですよね?」
「星詠みの一族曰く、そうらしいわ」
「そうですか…ならその討伐に参加します」
「主様…」
「伊織くん!」
どうやって伊織に参加してもらおうか悩んでいた美月にとってその言葉は天使の声にも聞こえた。
それに対してクシナは心配げに伊織を見つめている。
「本当に参加するの?」
「うん、危ないのは分かってる。多分前に受けた依頼とか、この前の妖狐より危険な事も分かってる。でも俺が参加しないと街が壊されちゃうかもしれないし退魔士の人も死んじゃうかもんだろ?それに…」
非常に心配そうに見つめるクシナに伊織がそう語っていき、ちらりと白雪の方を見る。
「それに…絶対に死んでほしくない人もいる。俺に何が出来るか分からないけど、その可能性が無くなるなら俺は参加するよ」
「そう…。はぁ、分かったわ」
「ごめんなクシナ」
「いいわよ、それが主様のしたいことなら私が導いてあげるわ。例えどんな相手が来てもね?」
伊織から強い決意を感じたクシナはため息をつきながらしょうがないなぁといった様子で了承した。
そして例えどんな妖魔が相手だろうと、伊織は必ず守り通すと決意した。




