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早めの就寝

白雪を見送った伊織達はリビングへ戻った。

夕飯の片付けも終わっているので、後は寝るまでゆっくりとした時間を過ごす。


伊織はついているテレビをボーっと眺めながら今日あったことを考えていた。

初めて妖狐が伊織の前に姿を見せたとき、クシナとは違い邪悪な気配をさせていることに驚いた。


連絡が回ってきたとき、クシナと同じ妖狐であればそこまで危険な存在ではないのではないかと考えていたが、組合が襲撃されたこと、そして目の前で見た妖狐がクシナとは全く別の存在であることを分からされた。


妖狐は皆あのような存在なのか、クシナだけが特別な存在なのか伊織には分からない。

丁度クシナも近くにいるので伊織は聞いてみることにした。


「なぁクシナ、妖狐って皆あんな感じなのか?」

「ん~そうね~、私が会ったことのある妖狐は大体同じ感じだったわよ?人間を食い物としか見ていない存在がほとんどね。まぁこれは妖魔全体に言えることだけど」

「そっか、じゃあクシナやシアナが特別な存在なんだな」

「まぁ変わり者って意味ではそうかもしれないわね」

「ん?」


クシナから語られたその言葉に伊織はやはりと納得する。

そしてテレビを見ていたシアナは自分の名前が出たことに首を傾げながらこちらを振り向いてきたのだが、その姿がまた可愛く伊織はつい頭を撫でてしまう。


シアナは気持ち良さそうに目を細めていた。


「シアナ、今日はありがとな」

「ん...、でもあまり主を守れなった」


妖狐へ襲われた時、真っ先に助けてくれたのはシアナである。

そのことへ感謝を伝えたつもりであったがシアナはどうやらその後あまり伊織を守れなかったことを気にしているらしい。


もしシアナやクシナが居なければ伊織は何もできずに妖狐の養分になっていただろう。

だから例えシアナが今回あまり守れなかったとしても伊織の中では感謝の気持ちが大きい。


「そんなことないよ、俺は弱いからいつもシアナには助けられてるよ」

「ん~、ん」


それでもまだ納得はいっていないのか、相変わらずの無表情であるが何となく落ち込んでいる気配が伝わってくる。


「もしシアナが最初の攻撃を防いでくれなかったら多分俺は直ぐに死んでたよ、正直妖狐を見たとき怖くて体が震えたし、上手く動けなかった」


実はこれは仕方のない事であった。

そもそも六尾程まで成長した妖狐であれば人間とは格が違う存在になる。


知識は知らなくても、その格の違いを肌で感じ取ってしまうため普通の人間であれば動けなくなってしまうのも当然の反応だ。

伊織はただ霊力が馬鹿みたいに多いだけで、特殊な訓練を受けているわけではないのでそう言った感覚は一般人と変わりない。


本来であれば九尾まで成長したクシナを目にしただけでも伊織は気を失ってしまうのだが、そこはクシナが自ら圧を抑えることで対応していた。


ただ妖狐が伊織を狙ったとき、その制御が一瞬だが乱れた。

だから今まで感じていなかった圧をクシナから感じ取り、クシナに対して怖いという根源的な感情が湧き上がってしまったのである。


「だからいつもありがとうシアナ」

「ん」


その言葉に納得したのか、少しだけ落ち込んだ雰囲気がシアナから消えた。


今日は本当に色々な事があった伊織はかなり疲れていたので、まだ寝るには早い時間であるが眠気が襲ってきて思わずあくびをしてしまう。


「主様?今日は早めに寝たら?」

「ん~、そうだな。そうしようかな」

「そうした方がいいわよ、健康にも悪いしね」


眠そうな伊織を見ていたクシナが優しくそう伝えてきた。

特に否定する要素もなかったので、早いが今日は寝てしまうことに決めた。


リビングにクシナとシアナを残しながら寝室へ向かい、伊織は眠りについた。



時刻:深夜


伊織が眠りについてから数時間が経過し、既に丑三つ時と言われる時間帯になっていた。

その時寝室の扉が静かに開かれてクシナが部屋に侵入してくる。

伊織を起こさないようにそっとベッドまで近づき、寝ている伊織を眺める。


「...」


いつもであれば直ぐに伊織のベッドへ侵入するクシナであるが、今日は少し雰囲気が違っていた。

伊織の寝顔を眺めながら、何かを考えている顔を浮かべている。


「ねぇ主様?今日やっと、あの子を本気にさせることが出来たわ」


そして伊織を起こさないようにそっと言葉を告げる。


「最近主様の周りに沢山の女の子が集まってきてるわよね?恥ずかしがりやな子やお淑やかな子、強気な子に種族の違う子...そして、元気な子」


クシナは最近伊織の周りに集まりつつある女性の特徴を上げていく。


「ねぇ主様、貴方は今幸せかしら?」


クシナの目には果たして伊織がどう映っていたのだろうか?

苦しそうに見えたのか、辛そうに見えたのか、それとも悲しそうに見えたのか...それはクシナにしか分からない。


「貴方は初めて私と会った時から......だったわよね?」


クシナは寝ている伊織に対して語り続けるのだが、大事な部分はまるで最初から音がなかったかのように何も聞こえなかった。


「主様、後は貴方が勇気を持って動くだけ」


クシナの瞳が何かを待つように、祈るように伊織を見つめており、その光景は窓から指す月明かりによってまるで女神のように美しかった。


「愛してるわ主様」


そう言いながら寝ている伊織の額に口づけを落とした。


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