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夕飯

台所で伊織とクシナは二人並んで料理を開始する。


「クシナ、これの皮を剝いといてくれるか?」

「分かったわ主様」


伊織が他の食材を切っている間にクシナに野菜の皮むきをお願いする。

二人で仲良く料理する光景を白雪は羨ましそうに眺めていた。


伊織からシアナの相手をしていてくれと言われた白雪であるが、当のシアナはテレビに夢中であり特にやることがなかった。


まるで夫婦の様なやり取りをする二人を羨ましそうに眺めていると、たまにクシナが振り向いて勝ち誇ったような顔を浮かべてくる。

それを見た白雪は料理を勉強して絶対に伊織と一緒に料理をしてやると心に決めた。


「ねぇ白雪」

「なにシアナちゃん?」


伊織の後姿を眺めていた白雪に、シアナが話しかける。


「白雪はどれくらい主が好き?」

「ん?そうだね~、言葉で表せないくらい愛してるかな」

「ふ~ん」


唐突にそんなことをシアナから聞かれた白雪は、そう答えたのだがシアナからはなんとも微妙な反応が返ってきたので思わず苦笑いしてしまう。


シアナは元々無表情なこともあり、あまり何を考えているか分からない。

今もシアナなりに何か考えがあって白雪にそう問いかけたのだが、残念ながら白雪はそれを感じ取ることが出来なかった。


「クシナは最近凄い」

「何が凄いの?」

「アプローチ」

「ふ~ん?」


先程の話し合いで白雪はクシナから伊織に対してアプローチをしていると聞いていた。

だが詳細な内容までは聞いていなかったので、どう凄いのかは全く想像がつかない。


「主にあーんしたり」

「うん」


これは白雪も今日カフェで伊織に行ったので、まぁ一緒に暮らしてたらする機会もあるかと思う。


「尻尾を触らせたり」

「うん?」


確かにクシナの尻尾はとてもモフモフしているので触ったから気持ちが良さそうだなと思ったが、仮にも体の一部なのでそれを伊織に触らせるのは如何なものかと感じた。


「抱きしめたり」

「え?」


なにそれ羨ましいと白雪は考える。

自分でも伊織に抱きついたことはほとんどないのに、クシナはどれくらい伊織を抱きしめてるのか気になって仕方がない。


確かにアプローチをしていると言ってたが、ここまで露骨にしているのかと白雪は思った。

しかし真の爆弾はこの後に投下される。


「あと、一緒に寝たりしてる」

「は?どういうこと?」


その言葉を聞いたとき一瞬理解が出来なかった。

イッショニネル、自分の知らない食べ物だろうかとそんなバカな事を現実逃避気味に考えた白雪であるが、現実とは無常である。


「ん、一緒の布団で寝る」

「嘘でしょ...」

「嘘じゃない」


白雪も伊織と一緒に寝たことはあるが、それは以前旅行に行ったときに布団を近づけて近くで寝ただけだ。


しかしシアナの話しを聞く限り、どうやら一緒の布団で寝ているらしい。

自分でもまだ伊織とはそんなことしたことないのに、なんでクシナがという気持ちが沸き起こる。


「でも、ただ寝てるだけ」

「ほ、本当に?」

「ん、クシナもそれ以上はしてない」

「そっか、良かった......のかな?」


もしここでそれ以上をしているという話しが出てきたら、白雪はショックで気絶していただろう。

ただ流石のクシナもそこまではしていないようでひとまず安心する。


「主も一緒に寝るのは恥ずかしいって言ってた」

「そ、そうなんだ...」


これも先程の話し合いでクシナが言ってたことと合致する。

伊織はクシナのアプローチに恥ずかしそうにするが、一度も拒否したことはないとクシナは言っていた。


今もシアナの口から、恥ずかしいと伊織が思っていることを聞いた。

つまり伊織はクシナと寝ることも恥ずかしさはあるものの、嫌がってはいないことになる。

思ったより激しいアプローチを行ってたクシナに白雪は驚いた、そして自分も負けてられないと再度心に火を灯す。


「クシナは凄く積極的。だから負けないようにね、白雪」

「シアナちゃん...ありがとう!」


シアナの口から応援するような言葉が出たことに白雪は感動した。

そうだ、ぽっと出の女なんかに伊織の一番を渡してなるものかと強く思った。


「これで完成かしら?」

「うん、出来たし皆で食べようか」


そこまでシアナと話したところで夕食が完成したので、四人で食べることにした。


夕食は和やかに時間が進んだ。

伊織の隣にどちらが座るかひと悶着があったり、クシナが伊織にあーんしたのに対抗して白雪もあーんしたり、伊織の口元にソースがついていたのをクシナが指で取りそのソースを舐めて綺麗にしたのを見て白雪が驚愕したり、ちゃっかり伊織にあーんされているシアナを見て裏切り者と白雪が思ったりしたが、和やかな時間が過ぎていった。


「それじゃあ今日はありがとね伊織君」

「あぁ、送っていこうか?」

「少しやることもあるし、大丈夫だよ」

「そっか、気を付けてな」

「うん!じゃあまたね伊織君」

「あぁ、また明日」


夕飯を食べ終えた白雪は伊織宅を後にすることにした。

伊織が送っていこうかと魅力的な提案をしてくれたのだが、妖狐の顛末を組合に報告しなければいけないので、白雪はそれを泣く泣く断る。


伊織の後ろにクシナが立っていたので、一度そちらを向き負けないという気持ちを込めた瞳で見つめる。


それを受けたクシナもほほ笑みながらであるが、白雪に負けないくらい強い気持ちの籠った視線を返した。


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