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新しい札術を試してみる

以前依頼で楓の戦闘を見たことのある伊織は、改めて見ても凄いなと感動していた。

楓の周辺に浮いている刀はそれぞれ別の動きをしているので、一種の芸術のように感じる。

いったいどのように訓練すればあそこまで刀を振れるようになるのか皆目見当も付かない。


そして結衣とは何度か話したことのある伊織であるが、戦っているところは初めて見た。

炎系の術はクシナで見慣れてはいるが、それを抜きにしても最後に発動した霊術には度肝を抜かれた。


「まさか炎を雨のように降らせるなんて、凄い霊術もあるんだな~」

「朱炎は火系統の霊術が得意な家系なんだよ。だからあそこまでの霊術が使えるんだよね」


初めて見た霊術にそう感想を漏らした伊織に白雪が説明を加える。


『私もあれくらい出来るわよ?』

『そうなのか?』


するとここまで会話を聞いていたクシナが口を挟んでくる。

クシナは自分以外の火系統の術に感心している伊織を見て少し嫉妬の感情が沸いていた。


『もっと凄いことも簡単に出来るわ』

『確かにクシナなら出来そうだな~』


そして先程の術と張り合うようにそう告げる。

何度もクシナの術を見たことのある伊織はクシナであれば確かに出来ても不思議ではないと感じていた。


一方楓と結衣は先程の摸擬戦の総評を行っていた。


「やっぱり楓さんは凄いですね、八剣の名前は伊達ではない事がよくわかりました」

「いえ、結衣さんも流石の一言です。あの最後の霊術には肝を冷やしました」


楓の戦い方は華があるもので、実は結構な量のファンが組合の中に存在していた。

そのファンの間で楓はお姉さまと呼ばれており、影から楓のことを眺めている。

今回訓練場の中に集まっている退魔士の中にもファンがおり、楓の戦闘を間近で見られて心底幸せそうな顔をしていた。


対する結衣も組合の中では中々に有名な退魔士である。

普段の言動からは想像できないような圧倒的火力を以て妖魔を滅するそのギャップにやられた退魔士も存在する。


「いえ、私の霊術も結局は楓さんに突破されてしまいましたし...。あら?」


楓と話していた結衣であるが、視界の端に見知った人影が映ったのでそちらの方を向いてみると伊織の姿が目に入った。

まさか訓練場にいるとは思わなかったので少し驚いた表情を浮かべた後、伊織の方へ礼をする。


「こんにちは伊織さん」

「あ、はい。こんにちは結衣さん」

「へ!?伊織さん!?」


結衣がいきなり礼をして伊織と口にしたので慌ててふり返ってみるとそこには想い人の姿があった。

楓からは見えない位置に伊織は居たので全く気が付かなかった。


「あ、あの、その、こ、こんにちは!」

「はい、楓さんもこんにちは」


まさかの遭遇であったため全く心の準備が出来ていなかった楓はワタワタしながら伊織に挨拶した。

その様子が少しおかしく、相変わらずだなと笑みを浮かべながら伊織も挨拶を返した。


「伊織さんはどうしてこちらへ?」


伊織の前まで歩いてきた結衣はそう尋ねた。


「えっと、練習してたお札が良い感じに出来てきたので白雪にお願いして確認してもらおうかと思って」

「なるほど、伊織さんは札術を使うんですね」

「はい、色々と練習していたんですけどまだ攻撃系の札術は使ったことがなかったので少し練習してたんですよ」

「確かに攻撃系の札術は大事ですからね、良かったら見学してもよろしいでしょうか?」


伊織が札術を使うことを知らなかった結衣は感心しながらも、一緒に見学していいか尋ねる。

特に断る理由も見当たらないし、これから使おうとしている札術は火系統のため先程火の霊術を使っていた結衣からもしかしたら良いアドバイスが貰えるかもしれないと思った伊織は了承する。


「えぇ、もちろん良いですよ」

「(伊織さん、今日もとってもカッコいいな~)」


ちなみに二人が話している間、楓はぽけ〜っと伊織を眺めていた。

久しぶりに会った伊織であるが、そのカッコよさは変わっておらず相変わらず楓の好みど真ん中を貫いている。

全く話しを聞いていなかった楓であるが、三人が移動を始めたので慌てて後をついて行く。


訓練場の一角には的当てが存在していた。

遠距離タイプの霊術や札術を試すために設置されており、相当力の強い術でないと壊れる心配はない。

その的当ての前まで移動した伊織は鞄からお札を取り出して白雪に渡す。


「これが最近作ってたお札なんだけど」

「どれどれ~?」

「なるほど、綺麗に作られてますね」

「(う~、伊織さんの事が気になって集中できません!?)」


白雪はそのお札を手に持って隅々まで術式を確認していく。

もしここで見落としなどあれば札術が暴発して伊織が怪我をしてしまう可能性もあったので、決して手は抜かない。

白雪の手にあるお札を覗き込むように結衣と楓も確認しているが、楓はチラチラと伊織の方を見ており全く集中できていなかった。


「うん、これならちゃんと発動すると思うよ」

「はい、私もそう思います」

「わ、私も同感です!」

「そっか、良かった」


白雪からお札を返してもらいながらそう言われたので、ひとまずホッとする。


「それじゃあ早速使ってみようか?」

「分かったよ」


伊織は的の前に立ち、お札を構える。

そして霊力を流し込むとあっという間に燃え上がった。

そっとお札から手を放す伊織であるが、炎は宙に浮き続けている。


「行け!」


伊織がそう号令を下すと、勢いよく炎が飛び出していった。

炎はそのまま的に直撃し火の粉を散らした。


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