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美月VS妖狐

予想より厄介な能力であったため、妖狐は少し手をこまねいていた。


「さぁどんどん行くわよ~?」


一方美月は少し楽し気な雰囲気を出しながら攻撃を続けていく。

先程までは砂鉄のみを防御すればよかった妖狐であるが、今は周囲に散らばっている鉄にも注意を向けなければいけない。


「くっ!」


なんとか致命傷を避けながら防御している妖狐であるが、体に細かい傷が増えていく。


「(私は六尾だぞ!?何故ここまで苦戦しなければならない!)」


妖狐は混乱していた。

長い年月を経て六尾になり圧倒的な力を身に着けたと思っている。

何度か現世にも顕現したことのあるが、今までここまで攻められた事はない。

実際六尾クラスになると、美月レベルの退魔士が出ないと対処できない存在であるため力が強いことに変わりはない。

しかし、今回は相手が悪かった。


「頭上がお留守になってるわよ?」


妖狐の周囲から襲い掛かる攻撃に気を取られて、少し頭上の注意が散漫になっていた。

美月の言葉に釣られて上を見上げると、そこには物凄いスピードで自分へと迫ってくる砂鉄が目に入った。

何故自分がこうも手玉に取られなければならない?そう考えた妖狐の苛立ちが頂点に達する。


「クソがぁ!」


そして妖狐は霊力を節約しながら戦うことを止めた。

妖狐の霊力が爆発的に高まり、それに釣られて体から炎が噴き出す。


「あら、やっと本気になったのかしら?」


美月としても六尾の妖狐がこの程度の実力ではないであろうと予想していたので、やっとここからが戦いの本番だと感じていた。


「お前だけは必ず殺してやるぞ人間!」


そう言いながら全力で妖術を行使する。

先程までとは桁違いの熱量を持った炎が周辺へとまき散らされる。


「五行金「金剛楯」」


それを確認した美月は新たな霊術を発動した。

最強の守りである金剛の楯が複数生み出され、それを操りながら妖狐の炎を防いでいく。

だが流石の金剛の楯も無傷とは行かず、その熱量を受けて少しだが溶けだしてしまう。

しかしそれは美月にとってデメリットになりえなかった。

その溶けだした金剛さえ操り、攻撃の手札に加えていく。


「ほらほら、その程度かしら?」

「さ、流石です美月姉さん...」

「す、凄すぎます...」


その様子を遠巻きに見ていた楓や退魔士達は尊敬の目を向けていた。

昔から美月を知っている楓は彼女の戦う姿を何度か目にしたことがあるが、何度見ても美しいものがあると感じている。

中には初めて美月の戦闘を見る退魔士もいて、これが支部長を任せられる者の実力かと驚いていた。


そんな中、妖狐は焦りを感じていた。

霊力の消費量を無視して全力で妖術を行使しているのにも関わらずその全てが防がれ、さらに攻撃が苛烈になっていく。

今はなんとかその身に炎を纏うことで美月からの攻撃を防いでいるが、これ以上攻撃の手数が増えればその防御が突破されるのも時間の問題だった。


既に足の踏み場がない程溶けた鉄で地面が覆われている。

その全てが妖狐を攻撃しうる可能性になっているので、いくら六尾の妖狐とはいえど苦戦していた。


そこで妖狐は一か八かの賭けに出ることにした。

今までよりもさらに炎を荒ぶらせ、その高い身体能力をもって美月に接近していく。

ここまで術に長けた存在であれば接近戦は得意では無いのではないかと予想した。


「...」


美月はその行動を見て今までより苛烈に妖狐を攻めていく。

その様はまるで距離が近づくことを恐れているようだった。


「覚悟しろ人間!」


ついに美月との距離がほぼゼロになり、妖狐は心臓を目掛けて手を振るおうとした。


「あら、いらっしゃい?」


しかし美月の手にはいつの間にか一本の日本刀が握られていた。

彼女の顔には妖狐が近づいてきたことに対して全く焦りなど見えず、むしろよく来てくれたといったような喜色さえ浮かんでいた。


「そしてさようなら」


美月は妖狐の首を狙い刀を一閃する。

その速度は妖狐の瞳をもってしてもギリギリ映るか映らないかといった所であった。


「うぉおおおおおっ!」


しかしそれでも妖狐は自分の右手を犠牲にすることでなんとかその攻撃を反らした。

切られた右腕が宙を舞う中、美月は少し目を見開き首を傾げながら驚きを露にしている。


「あら?これも避けるのかしら?中々やるわね~」


さらに美月が刀で追撃をしようとした所で、妖狐は一気に美月との距離を開けた。

右腕を抑えながら憎悪にまみれた顔を美月に向ける。


「もう、つれないわね。もう少し居てくれてもよかったのに」


妖狐との距離が離れてしまった美月は少し残念そうな表情をしていた。

だが距離が空けばまた鉄による攻撃が襲い掛かってくることになる。

美月は残念そうにしながらも、全く攻撃の手を緩めない。


「クソがクソがクソがぁ!」


片腕を切り落とされてしまった妖狐は少し動きに繊細さを欠いていた。

そのため防御の手が薄くなり、先程よりも多くの傷を攻撃によって負い続けている。

ここで妖狐は初めて自分が滅されてしまうのではないかという考えが浮かんできた。

そして消滅してしまうくらいならばと最終手段に出ることにする。


妖狐という種族はその尻尾に莫大な霊力を秘めている。

そしてその尻尾に込められた霊力を意図的に圧縮し始めた。


「あら?これは...!」


その動きは美月も察知していた。

圧縮するということは、それが戻る力も働くということになる。

それが分かった美月は急いで全てのリソースを防御に回す。

少しの時間を置いて妖狐は尻尾一本分の霊力を開放する。


「消し飛べぇ!!!」


そして妖狐を中心に大爆発が起きた。

大きな揺れと共に起きた爆発により結界が吹き飛び、退魔士組合のビルの一部が崩れ落ちる。


「皆大丈夫かしら!?」

「こっちは大丈夫です!」


当たりに煙が立ち込める中、直ぐに安否の確認を行う。

幸い美月が全力で防御していたので後ろに控えていた退魔士達は守ることが出来たようだ。

そのことに一安心した美月は改めて妖狐の方を向き直る。

しかし煙が晴れてもそこに妖狐の姿はなかった。


「逃げられたわね...」

「ただ相手は手負いです。直ぐに連絡を回しましょう」

「そうね、そうしましょう」


ひとまず妖狐を退けた美月たちは妖狐を仕留めるために次の行動へ移っていく。



一方自爆した妖狐はボロボロになりながらも空を駆けていた。

顕現した当初は気品に溢れる姿をしていたが、今は見る影もない。


「少し侮り過ぎたかっ...」


右腕を失い、さらにはせっかく育てた尻尾すら一本失ってしまった。

霊力も大量に消費してしまったので早急に補給する必要がある。

妖狐はある方角に逃げながら、次の行動を考えていた。


その方角とは、伊織の家がある方角であった。


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