二人でお風呂
伊織の作った夕食を皆で食べる。
本日の献立は焼き魚に刺身と魚尽くしであった。
テーブルに並んだ魚料理をみてシアナは目を輝かせている。
「お魚、沢山...」
「良い魚が安く売っててさ、今日は魚尽くしだ」
「ん、毎日これがいい」
「毎日だと栄養が偏るからたまにな?」
「ん」
食事を始める三人だがシアナは箸の進むスピードがいつもより早い。
その様子を微笑ましく見ながら食事を終え、次はお風呂に入る時間となる。
大体伊織が先に入り、その後にクシナやシアナが入ることが多い。
「出たぞ~」
「シアナ、今日は一緒に入りましょ?」
「ん、分かった」
伊織はそこまで長い方ではないのでパパっと体を洗いお風呂を出る。
いつもは別々に入っている二人であったが、今日は一緒に入るようだ。
「クシナとお風呂、久しぶり」
「そうね~、最初に使い方を教えて以来かしら?」
シアナが伊織と契約した初日、色々と家の事を教えているときにお風呂の使い方を教えるついでに一緒に入ったことがある。
それ以来は別々だったので、一緒に入るのは久しぶりだ。
「ん、相変わらずクシナは大きい」
「そうかしら?こんなの重いだけよ?」
「持ってるものに、持たざる者の気持ちは分からない」
軽いじゃれあいをしながら服を脱いでいき、浴室に入る。
二人でシャワーを浴びてシアナから先に体を洗おうとしたところでクシナから提案があった。
「私が頭を洗ってあげるわ」
「ん、じゃあお願い」
シャンプーを手に取りシアナの頭を洗っていく。
痛くないように優しい手つきで丁寧に洗ってくれるため、シアナはとても気持ちが良さそうだ。
少し無言の時間が続いたのだが、ここでクシナが一つ尋ねる。
「ねぇシアナ、最近主様に随分積極的じゃない?」
「ん?どういうこと?」
最近のシアナは契約した当初と比べて色々積極的だった。
「ほら、ブラッシングをして欲しいとか、一緒に寝たいとか、最近よく言うじゃない?」
「ん~、ん」
「昔のシアナはそんなこと言わなかったから、どうしたのかなって思ったのよ」
その問いかけを聞いたシアナであるが、何故自分がそこまで伊織に対してお願いをしているのかよくわからなかった。
そのことを素直にクシナに伝える。
「ん、よくわからない?」
「そうなの?」
「ん、最近主の傍にいると温かい。でも何でなのか分からない」
「そうなのね...」
シアナは長い年月を一人で過ごしてきた。
一時期は前の住居である社に人が沢山訪れたこともあったが、特定の人物と交流を深めたことはない。
初めて人と深く関わったことで伊織を家族のように思っているのか、それとも一人の男として見始めているのか、少し区別がつき辛い
伊織が自分に構ってくれないと少し嫉妬のような感情が沸くことはあるが、それは初めてできた親しい相手ともっと話したいという感情かも知れない。
「ん、でも主と話すのは楽しい」
「そうね、主様と話すのは楽しいわね」
「あと凄く良い匂いがする」
「そうね、いつまでも嗅いでたいわよね」
「ん」
そこまで話したところでちょうどシアナの頭を洗い終わった。
シャワーで泡を流し綺麗になったところでシアナは体を洗い、先に湯船に浸かる。
温かい湯船に身を任せながら、気持ちよさそうにしていたシアナが呟く。
「今の生活を知ると、前には戻れない」
三人で話し、三人でご飯を食べ、三人で遊ぶ。
そんな生活を送ってしまったシアナはもう一人で過ごしていた前のようには戻れないなと感じていた。
「わかるわ~、もう一人は考えられないわよね?」
そしてクシナにしてもそれは同感であった。
「ん」
「でも安心して?これから私たち三人はずーっと一緒よ?」
二人は伊織と永久の契約を結んでいるため、自然と二人にも縁が結ばれていることになる。
「ん、そうだった」
「そうよ、これからも二人で主様を守っていきましょうね?」
「ん、絶対守る」
そこまで話したところでクシナも体を洗い終わったので、二人でゆっくりと湯船に浸かった。
一方二人がお風呂に入っている間、特にやることも無かった伊織はリビングでくつろいでいた。
今日訪れたペットショップで見た動物が可愛かったので、動画サイトで子犬や子猫の動画を見て癒されていた。
「やっぱり可愛いな~」
ただ歩いているだけ動画でも可愛さが溢れており、自然と笑顔になってしまう。
そんな動画を見ていた伊織だが、スマホに着信が入った。
「ん?白雪からか」
着信画面を見てみると、そこには白雪と書かれていた。
「もしもし?」
『あ、もしもし伊織君?今大丈夫?』
「あぁ、平気だよ」
『よかった、今日回ってきた組合からの注意喚起見た?』
「あれか、見たよ。なんか強い妖魔が現れたんだよな?」
どんな要件かと思っていた伊織だが、どうやら注意喚起についてであるようだった。
『そうなんだよ、今回現れた妖魔は本当に強い妖魔でね?いつもより注意しながら過ごしてほしいの』
「白雪からしても、やっぱりそう感じるんだ」
改めて白雪から注意を促された伊織は、気を引き締める。
『それでそういう妖魔ってね?強い霊力を求めてさまようの』
「なるほど?」
『だから伊織君は遭遇する確率が高いと思うんだよ』
伊織は並外れた霊力を持っているため、日常的に妖魔から襲われている。
そんな霊力を求めて、いつその妖魔が襲ってきても不思議では無かった。
『まぁ一応シアナちゃんがずっと傍に居るから大丈夫だとは思うけど、遭遇した場合は絶対逃げるようにしてね?』
「分かったよ、ありがとう」
以前シアナの実力を見ていた白雪は、例えその妖魔に襲われたとしても最悪伊織が逃げるくらいの時間は稼げるだろうと思っていた。
『私も出来るだけ傍にいるようにするから』
「仕事の方は良いのか?」
『多分伊織君の近くに居たほうが遭遇しそうな気がするから、一緒にいるよ』
実は白雪の方には妖魔の捜索命令が下っていたのだが、伊織の霊力量から考えて普通に探すより近くに居たほうが良い気がしたのでそう提案する。
「了解」
『それじゃまた明日ね伊織君』
「あぁ、また明日な」
そうして電話を切った。




